傷だらけの令嬢 〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜

涙乃(るの)

文字の大きさ
16 / 68

15

しおりを挟む
グレッグ様と共に三日月亭に戻ると、ルイーザさんが駆け寄ってくる。





  「ソフィア、どうしたんだい⁉︎ 何があったんだい?



  おや、あんたは、確か……、




  あっ、これは、これは、ハモンド家のグレッグ様ではないですか! こちらへ、どうぞお座り下さい」




  「邪魔する、私のことよりもソフィアを」




  「私は大丈夫です。グレッグ様、どうぞお掛けになってください。今、お茶をお出ししますのでっ」




  「ソフィア、お茶なら私が一一」




  「いえ、ルイーザさん、私にさせてくださいっ」




  グレッグ様が椅子に腰をおろすのを見届けると、キッチンに向かう。




  「ダンさん、遅くなってすみませんでした」




  「おぉ、ソフィア、どうしたんだ? その怪我は?」




  誤魔化すように、なんでもないですと微笑み、お茶を淹れる。




  ダンさんから逃げるようにキッチンを出ると、グレッグ様の前にお茶を置く。





  ルイーザさんとグレッグ様が何やら話し込んでいた。




  私の姿を見ると、グレッグ様は言葉を続ける。



  詳細は伏せて、事の成り行きを説明してくれた。





  トラブルに巻き込まれて怪我をしていた所を、治安部隊で保護したと。





  ダンさんも慌てて奥から出て来て、「大丈夫なのか」と声をかけてくれる。




  ダンさんにも説明した後、「しばらくは、安静にするように」と言い残してグレッグ様は去って行った。




  グレッグ様が見えなくなるまで、見送ると、二人に改めて説明する。




  「本当にご心配をおかけしました」




  「ソフィア、心配したよ、痛かっただろうに……本当にグレッグ様には感謝してもしきれないよ。本当に、災難だったねぇ」





  そう言うとルイーザさんは、ぎゅっときつく抱きしめてくる。




  「ルイーザさん、心配かけてごめんなさい、あの……く、苦しいです……」




  「あぁ、ごめんよ、苦しかったかい、さぁ、もう、ゆっくりとおやすみ」




  「どこのどいつだ! うちのソフィアに怪我をさせたのは!」




  「あんた、気持ちは分かるが、後はグレッグ様にお任せしよう、騎士様達で捕まえてくれるさ」




  「だって、そんな悠長にしてられるか?」




  「私だっておんなじ気持ちだよ、でも……とりあえずソフィアを休ませてあげようじゃないか。ねぇ、ソフィア、しばらくはしっかりと休息をとるんだよ? 宿屋の仕事は気にしなくていいからね」




  ダンさん、ルイーザさん……。




  自分のことのように怒ってくれる。 



  私のことを心配してくれる。




  二人の優しさが嬉しい。





  これ以上、心配をかけるわけにはいかないので、部屋で休ませてもらうことにした。




  「ただいま……」




  誰もいない部屋に入り声をかける。




  ため息をつきながら、ベッドに腰掛ける。





  まさか、あんな所で義姉と遭遇するなんて思わなかった。





  しばらくは、あまり出歩かないようにしよう。





  「あら?」




  ポケットの膨らみに手を当てる。




  グレッグ様からお借りしたハンカチを入れたままだった。





  「いけない。すぐに洗わないとシミになってしまう」





  綺麗に洗って、グレッグ様にお返しに行こう。





  しばらくは、言われた通りに安静に過ごそう。




  怪我が治るまで。






  それから2週間後一一。





  ゆっくりじっくりと鏡に映る自分の顔を覗き込む。





  「うん、もう大丈夫そう」





  顔の傷もあまり目立なくなった。目を凝らしてみなければ分からない。




  これなら、大丈夫。




  宿のお仕事は、まだお休みさせてもらっている。もう大丈夫なのに、二人から止められている。



  ちょっと過保護なんじゃないかな。でも、いやじゃない。



  グレッグ様へ何かお礼がしたくて、クッキーを焼くことにした。


  今なら、ダンさんがキッチンを使っていない時間帯。





  三日月亭の名前にちなんで、クッキーの型抜きは三日月型と星型。




  グレッグ様が、甘いものが好きかは分からないけど。



  ルイーザさんから聞いた情報によると、グレッグ様は、ハモンド侯爵家の御子息らしい。




  治安部隊は、貴族の方も庶民の方もいるとか。



  「あっ」



  いけない。考え事をしていてクッキーを焦がすところだった。





  慌ててオーブンから取り出す。



  室内に 甘い匂いが漂う。



  「いい匂い」




  私はクッキーをカゴに詰めると、ハンカチを持って騎士団へと向かった。






  義姉に見つかることが怖いので、頭からは髪を隠すようにスカーフを被った。




  周囲を警戒しながら、早歩きで向かう。




  門の所で、グレッグ様に用がある事を伝えると、しばらく待つように言われた。



  ここなら、大丈夫だよね。



  スカーフを取り外し、しばらく待っていると、若い騎士様が迎えに来て、本舎の中へと案内してくれる。




  物珍しくて、周囲をきょろきょろと見回しながら歩いていた。





  ある扉の前で立ち止まると、騎士様はノックをする。





  「グレッグ殿、お客様をお連れしました」





  「通せ」




  「中へどうぞ、では私はこれで」




  「ありがとうございました」




  案内してくれた騎士様にお礼を伝えて、緊張しながら入室した。



  「し、失礼します」



  「やぁ、ソフィア」




  執務机に向かい作業していたグレッグ様は、私の姿に気づくと手を止める。



  書類を隅へ片づけると、立ち上がり近づいてくる。



  「あ、あ、あの、グレッグ様、近いですっ」



  ゼロ距離なのではないかというくらいの距離で立ち止まり、グレッグ様は顔を近づけてくる。



  「あぁ、良かった。怪我は治ったようだな」





  ぐっと顔を近づけて、覗きこむ姿勢になられて、頬が紅潮する。





  顔の怪我の跡を見ているだけだとは分かっているけれど、近すぎる。





  「おかげさまで、この通りよくなりました」



  じりじりと後ずさりしながら返答する。






  「それで、今日はどうしたんだ?あぁ そこに座るといい」



  「はい」




  椅子に腰掛けると、ハンカチをお渡しする。




  「グレッグ様、先日お借りしたものです。ありがとうございました」





  「あぁ、それをわざわざ持ってきてくれたのか。 別に良かったのに」





  グレッグ様はハンカチを受け取ると、向かいの椅子に腰掛ける。





  「いえ、大切なものかもしれませんし、お返ししたくて。それと、あの……その……もし良かったら……お口に合うか分かりませんが、こちらをどうぞ」




  渡そうか渡すまいか、ここまで来て悩んでしまう。


  しどろもどろになりながら、クッキーの入ったカゴをテーブルの上に差し出す。





  「これは?」





  グレッグ様は、カゴの中を確認していた。





  「ソフィアが焼いたのか?」





  「はい、お口に合うか分かりませんが……」





  グレッグ様はクッキーを手に取ると、一口かじる。





  「おいしい。優しい味がする」





  柔和な笑みを浮かべるグレッグ様。



  おもわずドキリとした。





  この胸の高鳴りは、なんだろう。




  「これは、三日月型なのだな。なるほど、三日月亭にちなんだのか。ソフィアも良ければ一緒に食べないか?お茶を淹れよう」




  グレッグ様が立ち上がったので、慌てて声をかける。



  「お茶なら、私がお淹れします」



  「いや、気にしなくていい、そのまま座っていてくれ」




  グレッグ様手水からお茶を淹れてくれた。





  私もクッキーを一口食べる。




  サクサクとして、我ながら美味しいと思う。



  三日月型と気づいてくれて、嬉しい。




  「お茶をありがとうございます。いただきます」




  温かくて、ほっとする。




  グレッグ様に喜んでもらえて、良かった。




  グレッグ様と一緒に食べると、いつもより美味しく感じる。




  穏やかな時が流れて、心地いい。



  もっと、グレッグ様のことが知りたい。


 とりとめのない話をしながら、いつの間にか長居していた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

処理中です...