52 / 105
ステージ3 フェンリル編
第51話 開幕のスポットライト
しおりを挟む
「ええと、そうだね! モネさん、私達に紹介してください!」
「おう! いいぜいいぜ! っとその前に、ここであんまり騒ぐとつまみ出されるから少し抑えてな! シーッ!」
「あなたほど馬鹿じゃないし出さないけど……ね、天汰」
「僕に振るなよ……!」
初めて会った時なら激怒しそうな発言のオンパレードだったがモネはそんなのに気にも留めずにズカズカと進んでいく。
それほどモネはサーカスを気になっているのか、僕も楽しめるならいいけど。ただ、それよりもヘラル達が言う魔力の持ち主を見つけることが最優先だ。
「まずは見る位置だな! 一番は天井、あっちならどこでも見られるのが便利なんだけど、まあここからなら最前列が一番だ!」
「へーそうなんですね! 私達もそうしましょうか!」
イコさんとモネが会話している間に集中しろ、僕。会場には貴族以外に僕達みたいな若者も何組か紛れ込んでいる、その中の誰かか?
ユメちゃんのパターンだって無くはないだろうし。
「あっそうだ! モネさん、食べたり飲んだりしたいですよね! 一緒に買ってきましょう!」
「え、いいのー!? 行く行く、やったー!」
「うふふ!」
イコさんも巨大な魔力の正体を見極める為には分かれた方が良いと気付いたのか、モネを連れて右奥にある販売機に向かって歩いて行った。
そうなると残った僕達は言葉にせずとも時計回りに左側を探る事にした。
「今日のべアティチュード団長は何すんだろうな……」
「前回は大失敗で団長燃えてなかったか? あれ、前々回だっけか」
遠目からも中年貴族が尋常じゃないほど群れていた左側の指定席に来てみたが、中々凄い会話が聞こえてきたぞ。
もう少し耳を澄ましてみるか。
「賭けませんか、今回は成功するか失敗するか!」
「ははは、無理無理。賭けにならないから」
「どうせ今回も誰かがやらかすだろ、俺達はそれを楽しみにやってきてる。違わねえか?」
「ほっほっ、それはそうじゃ!」
なるほど……どうやらこれから始まるサーカスってのは一流とまでは言えない集団なのか? だとしてもここまで言ってのけるとは貴族は大胆だな。モネもそれを楽しみにしてるのかな? コント的なら全然良いんだけど。
「天汰……こっちには居なそう。戻ろっか」
「待ちな、お嬢ちゃん。困り事かい?」
「いや、ワタシは……」
しまった。ヘラルが面倒な中年おじおば集団に捕まってしまった。ここで目立つような言動はしてられないぞ……。仕方ない、僕も会話に混ざるしかない。
そうして僕はその集団に近付き自然に会話に割り込んだ。
「実は僕達初めてここに来たので迷ってしまいまして……」
「ほぉう……ならばこれから何が起きるか知っとるかい?」
「いえ……サーカスというので、曲芸とかが見れるんですかね」
僕はさっきの会話を聞いていないような素振りで白髭のおじさんに尋ねる。
すると、機嫌良さげに一人のおじさんが顔を紅潮させながら語り始めた。
「それがよぉ、毎回団員の誰かが大失敗をやらかしちまうんだ! 見ていてスカッとするんだぁ……!」
「そうそう! こないだの火の輪くぐりで猛獣に付けたロープが手に絡まって、そのまま団長ごと突っ込んでいったのは流石に笑ったぜ!」
「へ、へえ……そうなんすか……」
悪魔をドン引きさせる楽しみ方……人間が結局一番怖いというのはよく言われているが、こんな楽しみが異世界でも存在する事で証明してしまったな。
「あー……僕達もそろそろ場所取りしてきますー勉強になりましたー」
「おほほ、またお会いしましょうね~」
二度と来るかこんな所! と、言いたくなる心をしっかり抑えつけヘラルを連れて入り口の真反対へ足を運んだ。
この場所は前方後円墳に似た形をしている、しかし一周するにはこの幕を突破しないといけない。いくら何でもそんな事をしてしまったら一発で出禁になると思うが。
つまりここまでが僕達が探れる範囲だ。僕はここまで来ても一切目立った魔力を感じられない。
こうなったら反対側にいる事を願うしかないか。
「……残念ながらこっちにも居ないね。戻ろっか天汰」
「だね……ん、ちょっと待って。この幕の向こう側に居るかも」
「マジか……! って事は反対側にいるか!」
イコさん側に探し相手がいると分かり、僕とヘラルは他の客の目線なんて気にせず急いで来た道を戻っていると、丁度入り口の目の前でばったりとイコさんと合流してしまった。
「あ、あれなんでイコさん達はここに……?」
「いえ私はそっち側からとてつもない魔力を感じたので……! お二人は感じなかったんですか!?」
「ワタシ達もてっきりそっちに居ると思ったんだけどなー」
「何の話だ? モネ様も混ぜろっ!」
おいおい、まさかだろ。僕達はお互いに幕越しに魔力を感じ取った。てことはどう考えても幕の中からの魔力を感じ取った事になる。
それに二人も気付いたようで三人で顔を見合わせる。それと同時に会場の照明が落ちていき、一時の合間暗闇が訪れた。
「──御来場の皆様! 今日の舞台はワタクシ達べアティチュードサーカス団が行わさせていただきます!」
「いいぞー! 今回はどんな派手な失敗を見せてくれるんだー!!」
「ハッハッハ! 前回はジャグリングで会場を壊しかけてしまったが、今回で失敗とはおさらばだ! 何故ならー……! 超大型新人が登場するからだ!」
団長らしき声の発言に観衆の声はざわつき始め、やがてガヤはヤジに変化していった。
『失敗しろよ~! それ楽しみに来てんだよこっちは!』
『どうせ死なないんだから派手に今回も頼むわよ~!』
「んんう……今回も辛辣な言葉が飛び交ってますが──」
死なない……たしかに一度全身が燃えたはずなのに平然とまた開催されてるんだよな。それって治癒魔法とかで何とかなるものなのか? 僕みたく特殊な状況なのか、それとも女神のような驚異的な治癒能力を抱えているのか?
「えーそれでは登場します! 今回もフルメンバーで行かせていただきます! 幕よ、降りろ!」
団長の声に合わせて一気に幕が降り、中の人達にスポットライトで照らされ、彼等は姿を現した。大体十人くらいだろうか、衣装も元の世界で見るような赤と黒の色調で構成されている。
それぞれが白塗りの化粧をしていて素顔が分からないようになってはいるが殆どの団員が若者で構成されているな。
そんな彼等の中心にはマイクを握る一人の男と、横にピエロの格好をした少女が立っていた。
「紹介いたしましょう! これが新人の天才少女! エレーナです!」
「どうもー! 私、エレーナって言いまーす! 新入りですけど、一生懸命頑張りーます!」
中々元気の良い声で軽快に語りだす少女エレーナ。そんな彼女に皆魅了されてしまったのか、さっきまでの罵声も急に無くなり場の雰囲気を一気に切り替えてしまった。
ちらりとモネの顔を見たがその表情は真剣そのもので、完璧に見入っている。というか皆が黙ったせいで逆に二人に話しかけづらくなってしまった。
「はいはいはい……ではね、今から彼女が見せるのは、超人的な身体を活かしたアクロバティックな曲芸です!」
不意に団長のべアティチュードと目が合う。男の目はギラギラとしていて所謂モードに入ったって奴なんだろうか、その視線からは強烈な何かを感じ取った。
……いや、この視線からは別のモノを感じていた。何処か今までの女神やユメちゃんに似た気配を、僕は何故か団長から感じる。
前例のない出来事に僕は思わず動揺する。ヘラルとか気付いているんだろうか。
「男が女神……!?」
「おう! いいぜいいぜ! っとその前に、ここであんまり騒ぐとつまみ出されるから少し抑えてな! シーッ!」
「あなたほど馬鹿じゃないし出さないけど……ね、天汰」
「僕に振るなよ……!」
初めて会った時なら激怒しそうな発言のオンパレードだったがモネはそんなのに気にも留めずにズカズカと進んでいく。
それほどモネはサーカスを気になっているのか、僕も楽しめるならいいけど。ただ、それよりもヘラル達が言う魔力の持ち主を見つけることが最優先だ。
「まずは見る位置だな! 一番は天井、あっちならどこでも見られるのが便利なんだけど、まあここからなら最前列が一番だ!」
「へーそうなんですね! 私達もそうしましょうか!」
イコさんとモネが会話している間に集中しろ、僕。会場には貴族以外に僕達みたいな若者も何組か紛れ込んでいる、その中の誰かか?
ユメちゃんのパターンだって無くはないだろうし。
「あっそうだ! モネさん、食べたり飲んだりしたいですよね! 一緒に買ってきましょう!」
「え、いいのー!? 行く行く、やったー!」
「うふふ!」
イコさんも巨大な魔力の正体を見極める為には分かれた方が良いと気付いたのか、モネを連れて右奥にある販売機に向かって歩いて行った。
そうなると残った僕達は言葉にせずとも時計回りに左側を探る事にした。
「今日のべアティチュード団長は何すんだろうな……」
「前回は大失敗で団長燃えてなかったか? あれ、前々回だっけか」
遠目からも中年貴族が尋常じゃないほど群れていた左側の指定席に来てみたが、中々凄い会話が聞こえてきたぞ。
もう少し耳を澄ましてみるか。
「賭けませんか、今回は成功するか失敗するか!」
「ははは、無理無理。賭けにならないから」
「どうせ今回も誰かがやらかすだろ、俺達はそれを楽しみにやってきてる。違わねえか?」
「ほっほっ、それはそうじゃ!」
なるほど……どうやらこれから始まるサーカスってのは一流とまでは言えない集団なのか? だとしてもここまで言ってのけるとは貴族は大胆だな。モネもそれを楽しみにしてるのかな? コント的なら全然良いんだけど。
「天汰……こっちには居なそう。戻ろっか」
「待ちな、お嬢ちゃん。困り事かい?」
「いや、ワタシは……」
しまった。ヘラルが面倒な中年おじおば集団に捕まってしまった。ここで目立つような言動はしてられないぞ……。仕方ない、僕も会話に混ざるしかない。
そうして僕はその集団に近付き自然に会話に割り込んだ。
「実は僕達初めてここに来たので迷ってしまいまして……」
「ほぉう……ならばこれから何が起きるか知っとるかい?」
「いえ……サーカスというので、曲芸とかが見れるんですかね」
僕はさっきの会話を聞いていないような素振りで白髭のおじさんに尋ねる。
すると、機嫌良さげに一人のおじさんが顔を紅潮させながら語り始めた。
「それがよぉ、毎回団員の誰かが大失敗をやらかしちまうんだ! 見ていてスカッとするんだぁ……!」
「そうそう! こないだの火の輪くぐりで猛獣に付けたロープが手に絡まって、そのまま団長ごと突っ込んでいったのは流石に笑ったぜ!」
「へ、へえ……そうなんすか……」
悪魔をドン引きさせる楽しみ方……人間が結局一番怖いというのはよく言われているが、こんな楽しみが異世界でも存在する事で証明してしまったな。
「あー……僕達もそろそろ場所取りしてきますー勉強になりましたー」
「おほほ、またお会いしましょうね~」
二度と来るかこんな所! と、言いたくなる心をしっかり抑えつけヘラルを連れて入り口の真反対へ足を運んだ。
この場所は前方後円墳に似た形をしている、しかし一周するにはこの幕を突破しないといけない。いくら何でもそんな事をしてしまったら一発で出禁になると思うが。
つまりここまでが僕達が探れる範囲だ。僕はここまで来ても一切目立った魔力を感じられない。
こうなったら反対側にいる事を願うしかないか。
「……残念ながらこっちにも居ないね。戻ろっか天汰」
「だね……ん、ちょっと待って。この幕の向こう側に居るかも」
「マジか……! って事は反対側にいるか!」
イコさん側に探し相手がいると分かり、僕とヘラルは他の客の目線なんて気にせず急いで来た道を戻っていると、丁度入り口の目の前でばったりとイコさんと合流してしまった。
「あ、あれなんでイコさん達はここに……?」
「いえ私はそっち側からとてつもない魔力を感じたので……! お二人は感じなかったんですか!?」
「ワタシ達もてっきりそっちに居ると思ったんだけどなー」
「何の話だ? モネ様も混ぜろっ!」
おいおい、まさかだろ。僕達はお互いに幕越しに魔力を感じ取った。てことはどう考えても幕の中からの魔力を感じ取った事になる。
それに二人も気付いたようで三人で顔を見合わせる。それと同時に会場の照明が落ちていき、一時の合間暗闇が訪れた。
「──御来場の皆様! 今日の舞台はワタクシ達べアティチュードサーカス団が行わさせていただきます!」
「いいぞー! 今回はどんな派手な失敗を見せてくれるんだー!!」
「ハッハッハ! 前回はジャグリングで会場を壊しかけてしまったが、今回で失敗とはおさらばだ! 何故ならー……! 超大型新人が登場するからだ!」
団長らしき声の発言に観衆の声はざわつき始め、やがてガヤはヤジに変化していった。
『失敗しろよ~! それ楽しみに来てんだよこっちは!』
『どうせ死なないんだから派手に今回も頼むわよ~!』
「んんう……今回も辛辣な言葉が飛び交ってますが──」
死なない……たしかに一度全身が燃えたはずなのに平然とまた開催されてるんだよな。それって治癒魔法とかで何とかなるものなのか? 僕みたく特殊な状況なのか、それとも女神のような驚異的な治癒能力を抱えているのか?
「えーそれでは登場します! 今回もフルメンバーで行かせていただきます! 幕よ、降りろ!」
団長の声に合わせて一気に幕が降り、中の人達にスポットライトで照らされ、彼等は姿を現した。大体十人くらいだろうか、衣装も元の世界で見るような赤と黒の色調で構成されている。
それぞれが白塗りの化粧をしていて素顔が分からないようになってはいるが殆どの団員が若者で構成されているな。
そんな彼等の中心にはマイクを握る一人の男と、横にピエロの格好をした少女が立っていた。
「紹介いたしましょう! これが新人の天才少女! エレーナです!」
「どうもー! 私、エレーナって言いまーす! 新入りですけど、一生懸命頑張りーます!」
中々元気の良い声で軽快に語りだす少女エレーナ。そんな彼女に皆魅了されてしまったのか、さっきまでの罵声も急に無くなり場の雰囲気を一気に切り替えてしまった。
ちらりとモネの顔を見たがその表情は真剣そのもので、完璧に見入っている。というか皆が黙ったせいで逆に二人に話しかけづらくなってしまった。
「はいはいはい……ではね、今から彼女が見せるのは、超人的な身体を活かしたアクロバティックな曲芸です!」
不意に団長のべアティチュードと目が合う。男の目はギラギラとしていて所謂モードに入ったって奴なんだろうか、その視線からは強烈な何かを感じ取った。
……いや、この視線からは別のモノを感じていた。何処か今までの女神やユメちゃんに似た気配を、僕は何故か団長から感じる。
前例のない出来事に僕は思わず動揺する。ヘラルとか気付いているんだろうか。
「男が女神……!?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる