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ステージ3-2 シロクロ連邦国家

第65話 他人の匂い

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「は? 俺を助けてくれるんじゃないのか!?」

「気が変わった。テメエを助けるよりか案内してもらう方が重要なんだ、すまねえな」


 シェンはおじさんを無視して押さえつけている銀髪に話しかける。
 そんなシェンを僕とイコさんはただ呆然と見つめる事しか出来なかった。


「オマエラはコイツの仲間じゃナいのカ? ……ン? ……何か見覚えがアるナ……」

「あーっ! 私達早くシロガネジョウ覗いてみたいなー! 警備員さん、お願いします!」


 危うく正体にバレそうになり、イコさんが咄嗟(とっさ)に会話に割り込む。
 銀髪は腕を組んで考え込んだが、一人で納得したように落とした防止を拾い被り直した。


「ま、が何とカするだろウ! 行くゾ! 食事中失礼シタ!」

「おいっ! 俺をおいていくな! おい!」


 ……捕獲されて動けなくなったおじさんの声をシカトして僕達はシロガネジョウに向かった。



 しばらく道に沿って銀髪の後を追いかけているうちに、空は曇りだしどんよりとした雰囲気が漂い始める。

 気温も急激に落ち込むし、事前に用意していたフードが無かったらキツかったな。


「なあシロガネジョウってここじゃ結構有名なんだろ? オレ達外部から来たんで詳しくねえんだ」

は生まレた時からずットこの国に住んデるからナ!」

「へぇ……シガっつうんだな」

「イヤ? ダ! よろシくナッ!」


 シガヌィはシェンに手を伸ばし握手する。続いて僕にその手は差し出されたので握ろうと手を伸ばした途端、イコさんがまたもや割り込んでくる。


「──よろしくお願いします! 私はイコで、こっちの大きいのがシェンさんです! で、こっちの彼が天汰さんです!」

「おウッ! よろシくナッ! テンタ、握手ダ!」

「ああ……よろ──」
「──わぁーっ! シガヌィさんのお手手綺麗ーっ!」


 ……さっきから何を警戒しているんだ? しかも僕達の名前勝手にバラしちゃってるし。

 ここは一言言っておくか。


「ねえ、イコさん。さっきからわざと割り込んでない? 何で?」

「……耳貸してください」


 今度はイコさんは耳に近付き、彼女はささやく。


「この人から女の匂いがするんです……!」


 女の匂いって……どう見ても女じゃん……どういうこと……?

 胸もあるし、骨格も声も性別を尋ねられたら大半が女性だと思うんじゃないか、見た目だけなら。

 ただ、イコさんがわざわざ警戒しているくらいだ。もしかしたら相当危険な匂いなのかも知れないから、イコさんには従っておこう。


「……まあ、よろしくです」

「よろシくナ」


 シガヌィのイントネーションも独特で、生きていた環境がまるで違うことを分からされる。

 シガヌィは胸部分のチョッキを弄り、一つの飴を取り出し自分の口に放り込んだ。


「それ……なんです?」

「サボり用のアメダ! わざわざ人がいナイ所を通ってイるからナ」

「せっめえな……イコ、大丈夫か?」

「無いんで……シガヌィさんの方がキツくないですか」

「ン? 無理矢理通るガ?」


 悔しそうにイコさんは自分の胸を抑え、僕達は人気のない狭い道を通った。

 建物の隙間を縫って飛び出た先にはとてつもなく大きな城がそびえ立っていた。
 サイズだけならルドベキア城の何倍も広いんじゃないだろうか。


「これがシロガネジョウか。数十年前までは国家元首が実際に暮らしていたって聞いたことがあるぜ」

「なんか全体的に白いですね!」

「うん……真っ白だ」


 シロガネジョウは白く染まる。元々の塗装に加えて、空から降ってくる白に塗り替えされていく。

 今頃、元の世界なら五月くらいだろうか。雪が降っている違和感が凄くて僕は思わず笑ってしまった。


「……いきなりどうした」

「アハハ……ここに来て良かった」


 何故僕が笑っているのか不思議そうにイコさんが僕の目を戸惑いながら見つめてきた。

 説明しようがないのでとりあえず笑顔をイコさんに意識して向ける。


「ナ、ナァ……」


 モジモジしたシガヌィが僕の服をつまんで声をかけてきた。

 僕は笑うのをやめて、シガヌィの話を聞くことにした。


「今日ハ一般客もイるから裏口から入るゾ! 鍵はアル!」


 そう言ってシガヌィはポケットから鍵束を取り出し、嬉しそうに僕らに見せつけた。

 何というか、感情が分かりやすく顔に出る人間なんだな。瞳が黄色の宝石みたいに光り輝いて見える。


「これはお邪魔しましょう! 天汰さん、私の手をお繋ぎくださいっ!」

「えぇ……どうぞ」


 最近は全く隠そうとしてこないんだよなイコさん……僕はよく意味が分からないけど。


「中も綺麗だな……」


 裏口からシロガネジョウに入ると、他の観光客は当然居らず僕達四人だけの空間となっていた。

 内装は予想と違い、どちらかというと和風な造りになっていた。ここに武士でもいたのか?

 ただ、ここの雰囲気は割と異質な感じがする。別に魔力を感じたわけでもないが、何とも言えない不安が抱えていた。


「……ナア」

「……どうしました、シガヌィさん」


 いきなりシガヌィは足を止める。
 僕はこの時点で何か嫌な気配を感じ取っていた。


「そノ……オマエラなんだロ……?」

「……ああ。ここでやるか?」


 シェンが僕の前に出て拳の骨を鳴らしだす。

 僕とイコさんもとりあえずそれっぽい構えだけはしておく。
 先制攻撃を受けるまでは決して魔法も武器も使ってはいけない。


「シガ、フェンリルのファンなんダ……! い、一緒に旅させてくれないカ!?」
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