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ステージ3-2 シロクロ連邦国家

第74話 絶対的な障壁

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「ママー! 用事は済マせたヨ~!」

「偉いわね、シガヌィちゃん」

「……」


 行きと同じように楽しそうに帰ってくるシガヌィをママは優しく抱き締める。
 僕はそれを黙って見届けることしか出来ない。


「シガヌィ、えーと……」

「ママ。そのままでいいわよ。それが私の名だから」

「……ママ、シェンの所まで連れていってくれないか?」

「いいけど……どうしてそこまで焦っているのかしら」


 どうする、ここで何と答えるのが正解だろうか。

 クローピエンスと戦うためにはシェンと合流したいし、何なら地上に残っているヘラル達とも合流しないといけない。
 それ以上に、未知の空間で味方が居ないのはかなり不安だ。


「シェンは僕がいないと不安になりそうだから、早く会っとかないとなって」

「……そう、かしら。彼普通にしてたけど」

「何でもいいんで早く連れてってくれませんか」

「……はい」


 ママは不服そうに僕とシガヌィを連れて2階のある部屋まで歩いていった。
 長い廊下の途中、窓から見た外の景色は一見雪景色のように綺麗、だけど雨の日の学校みたいに心はどこか落ち着かない。


「シェン、起きてるか? 僕だ、天汰だ」

「……天汰か。オレは平気だが……ドア開けても問題ないぜ」

「……入るよ。ごめん二人きりにさせてくれ」

「分かったわ」


 ドアノブをひねり、ドアと床が擦れる音を鳴らしながら中のシェンの安否を確かめる。
 シェンは僕達と同じ患者衣を纏い広いベッドの上で楽にしていた。

 右腕も包帯で巻かれて固定されてはいるが、見た目はほぼ元通りにな見える。


「ああ……これか? ジジイに腕落とされた時は焦ったけどよ、腕くっつけて貰えて助かったぜ」

「良かった……やっぱりギールベルクを殺した人が僕達を助けたんだね」

「みたいだな。まあただ……繋がったばかりだからか上手く右腕を動かせねえ。天汰と違って無理矢理くっつけたっぽいからな」


 片腕が使えないか……しばらくの間シェンは戦闘に参加出来ないかもしれないな。

 シガヌィとママをどうにかして味方につけたらシェン分の戦力差は埋められそうだが……。


「せめて二人が協力してくれたらな……」

「……話は聞いたわ。協力って何よ?」

「っママ……!? 二人とも勝手に聞いてたのかよ」


 最悪だ、この二人部屋の外から普通に聞いてやがる。挙げ句の果てには、部屋までノックもせずに乗り込んできてるし。

 しょうがない、僕達がどうしてシロクロ連邦国家に来たのか目的を教えるしかないか。
 一度シェンの方を振り返り、決意の目線を送る。シェンはそれを察して僕に頷きかけた。


「実は、僕達がここに来た理由は2つあって、1つは僕が元いた世界に帰るためなんです」


 僕が二人にそう告げると、ママは僕の何かに気が付いたように驚いた。

 僕とシェン、そしてシガヌィの視線がママに向かう。


「ど、どうシたノ……?」

「……あの人が言っていた子なの……?」

「あの人……オイテメエあの人って誰だ?」


 シェンの質問にママは口を手で塞いで『失言した』と顔に出すだけで、それ以上の発言を僕達は引き出せずに有耶無耶にされてしまう。


「まあ、その、帰るためにはある契約を彼女としまして……僕が魔物とかを攻撃して、その時のダメージがカンスト──大体9999億ダメージを与えられたら元の世界に帰れるってやつを」

「それッテ、どうヤってカンストしたっテ判断するンダ? 元の世界って……モしかシて元々プレイヤーなのカ!?」

「まあ、プレイヤーだね。ここに来て1ヶ月と10日くらい経つのかな? ただ……カンストで戻る以外の方法も探そう! ってなって来ました」

「もう片方の理由はオレから説明しよう」


 シェンはベッドから起き上がり左腕を僕の肩に置いて話し始めた。


「オレ達はクローピエンスをぶっ飛ばしにきた。クローピエンスの本拠地を探してたんだが……」

「……エ」


 突然、シガヌィが1言だけ声を漏らし口をつぐむ。その後ちらりとママを見ると、言うのを躊躇うようにシェンを見つめながら喋りだした。


「シガも……クローピエンスだヨ……?」

「え──」
「動かナいデ……本当の事言ってヨ」


 シガヌィは僕らに手のひらを向ける。シガヌィの周りには稲妻が走り冗談ではなく、本気で僕達を脅してるつもりみたいだ。


「……私は関係無いわ。ここの孤児院の子供たちは皆大人になったらクローピエンスに所属するの。シガヌィと双子の弟は優れた才を持っているから例外的にクローピエンスにいるけど」

「ママ、テンタを縛っテも良イ?」

「外に?」

「……外ダったら死んジャうかラ」


 ここで争うのは得策じゃない、お互いにそう思ったのだろう。

 僕とシェンは黙って立ち上がり、されるがままにシガヌィに手を縛られそのまま何もない空き部屋に連れ出されて閉じ込められた。

 窓もない部屋に閉じ込められた僕達はすることも無いのでこれからどうするか、どうやって逃げ出そうか小一時間話し合い、1つの結論にたどり着く。


「まー……今日は休むか。現状オレ達は屋敷から抜け出せても真世界から抜け出す手段が分からねえしな」

「そうっすね。にしても……シガヌィがクローピエンスの一員だったなんて」

「シロガネジョウで見かけたフィルスターって奴もクローピエンスか……あっちも中々に強そうだったな」


 まるで男子高校生のようにはしゃいでいるシェンは珍しいな。今の状況じゃなかったら会話ももっと弾んだんだろうけど。

 はあ……他の三人は何してんのかな……? 

 イコさんはあの時シガヌィの側にいたからママに連れ去られていてもおかしくないと思っていたけど、二人の言い方的に僕とシェン以外はここにいなさそうなんだよな。


「……天汰、いざって時は任せるぜ。オレは好きに暴れてやるさ、どうしようもねえし」


 どこか誇らしげなシェンの顔を見て、ある疑問が沸く。イコさんの意識改変の影響かもしれないが、それにしてもいささか僕とヘラルを信頼しすぎじゃないか?


「なんでシェンは信頼してくれてるんですか? 初めてあった時なんてコントみたいになってたのに」

「なんでって言われてもなあ……オレは元々運営が嫌いって話はしたよな? 天汰の身体は再生するだの元の世界に帰るための契約だの聞いて面白そうだから以外にねえ」
「ただ、ニーダが珍しく楽しんでたから、テメエらと旅すんのも悪くねえと思った。それだけだな」


 そんなことを言っているシェンだが、自分でいつもより声が弾んでいるのには気付かないだろうか。

 でもまあ、そんなシェンも珍しいので黙っておくか。

 その後僕達はその後もまた数十分語り、疲労の末お互いに反対の壁にもたれて夜を過ごした。
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