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ステージ3-2 シロクロ連邦国家

第78話 予想外でアンハッピー

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「……だ、だったら何だよ?」


 僕はママに核心を突かれたような発言をされ動揺してしまう。僕は今までシェンとイコさん以外の仲間の存在をわざと伏せてきたから、そこに悪魔の存在となると色々揉めそうだ。


「いえ……外の世界について詳しくはないけど、フィルスターからは話は聞いたのよ。あなた達、実は指名手配中だったのよね。なんでそこまでしてクローピエンスが躍起になってるのかと思ったら……そういう事情があったのね」

「……そうだ、そっちこそなんでここにいるんだ。悪魔……なんだろ、逃げればいいじゃん」


 僕がそう言うとママはため息を吐いてうつむいた。そして彼女は僕の肩から手を離して笑った。


「ここが一番自由なのよ? 出る必要なんてないの」

「……自由? ここが?」


 ママからしたら孤児院の子どもがいるから自由かもしれないけど、それにしてもここは何もなさすぎる。
 住むのにも灰が降って寒いし、食料問題とかどうやって解決してるんだよ?


「で、あなたのそれは何なの? 初めて見るわ……」

「これは福源の石。こっちに来て早々、クローンの子から体内に埋めてもらったんだ。僕はコレのおかげで死なずに済んでいる」

  
 本当は若干嬉しくないシチュエーションだったけど。


「……やっぱり、その名前聞いたことがあるわ。『福源の石』、もしかしてルドベキアから来たの?」


 ママに答えを当てられて、僕は思わず動揺し目を逸らしてしまう。そんな僕をママは見逃すはずもなく、またまた質問攻めを受ける。


「正確には、ルドベキアに封印されていると聞いていたのだけれど……まさかあなた盗んだ?」

「ぬ、盗んでないよ。僕だってどこの物かなんて知らなかったし」

「……? まあいいわ。あなたのそれ、引き抜こうと試してみたけど全然無理だったしね。石に手を当てたら不思議な魔力が反抗してきたし」

「気絶してる時に勝手に引き抜こうとするなよ……! あ、待ってくれ。不思議な魔力……ってなんだ?」

「そのままの意味。あなた以外の魔力がぶつかってきた。あと……そろそろ解散した方が良さそうね。誰かがあなたを疑ってるかもしれないから」


 僕に背を向けもとの定位置に戻っていくママ。ママは用済みだ、と言いたげに手で追い払う仕草を見せ、机に積み上げていた本に手を出し始めたので僕はそのまま部屋を飛び出した。


 第二悪魔との会話は初知りの情報が多くかなり有益だったな。その分、僕の素性も結構バラすことになってしまったけど。

 だけど、真世界の最北にクローン製造工場があるのは正直そんなのと釣り合わないほど重大な内容だ。
 もしかすると、アレゼル・ダイア・ツバキの三人のオリジナルに会えるかもしれない。

 オリジナルを連れて帰れたら姉ちゃんやルドベキアにいるアレゼルさんもきっと喜ぶに違いないだろう。


「お、天汰。丁度良かった」


 階段を下り子ども達の所に向かおうとする途中、僕はあくびをしながら歩いていた寝起きのシェンに話しかけられる。


「髪がぐしゃぐしゃですけど、何かあったんですか」

「あ? なんだこれ、誰かにイタズラされたかもしんねえ。ま、いいけど。さっさと本題入るぜ。シガヌィとフィルスターと話し合って決めたんだがオレ達は外、アイツらは屋敷の中で戦うことになったぜ」

「いつの間に……てか、僕とシェンの二人で外って……守り切るのは結構難しくない? あー……でもそっか、そっちの方が安心か」

「そういうこと。……て、おい! 天汰、どこ行くつもりだ?」


 引き留めようとする腕に手を乗せ、言葉を返す。


「……剣、忘れてきちゃいました。取り入ってきます」

「…………は?」


 シェンに有無を言わさず、颯爽と階段を走り抜け勢い良く屋敷を飛び出す。
 僕は思い出したのだ。初めて目を覚ましたあの空間に僕はきっと剣を忘れてきている。

 あの剣さえあれば、僕だって今以上に戦える。逆に言えば、あの剣がないとクローピエンスには対抗出来ない。

 灰が積もる地面を踏みしめ、霞む視界を頼りに小屋へ向かっていく。来たときについた足跡はもう無い。


「……見えねえ、昨日よりも風強いし。帰れるかな」


 一人でブツブツと呟きながら白銀の中歩き続ける。何時間でも、一人で。


 足元も不安定な中歩いたせいか、シガヌィと歩いたときの2倍も時間かかってしまった。
 それでも何とか小屋に辿り着いた僕は小屋のいたる所を探し回ってみるが、剣のけの字も見当たらない。


「嘘だろ……?」


 嫌な予感がした僕は、小屋の外に出て周りの地面を確認する。僕の予想通り、灰の下に何かが埋もれていた。そこを掘り出してみると、テレイオスと記された剣の柄の部分だけが出てきた。

 ……誰がどう見てもこの剣は折れている。


「……寄生虫にやられたか。ごめん、マユさん」


 僕はもう一度埋め直して最後に拝もうと思ったが、剣の柄の部分さえあれば魔力で補えるんじゃないかと考え持ち帰ることにした。

 段々と変わっていた髪色も1ヶ月も過ぎれば完全な琥珀色に染まりきる。この足だけじゃ最北を目指すのは厳しい。
 ただ……ヘラルがいたら必ず届くような気がしてやまなかった。


「……向こうも寒いだろうなあ。服、ちゃんと着ていてほしいな……」


 僕は来た道を辿って屋敷を目指していく。行きと違って足跡がまだ残っていたので簡単に屋敷まで戻ることが出来た。


 心の準備は出来ている。これからのクローピエンスと戦闘を乗り越える覚悟、グラスティン達と再戦することだって覚悟は完璧だ。

 懸念すべき事項はたった1つ、ヘラル達よりも先にクローピエンスが到着すること。
 それでも、僕は負ける気がしていないのは強がりなんかじゃない。

 万が一それがあったとしても戻り方はアイツらが知っているはずだ、意地でもここから脱出してやる。


 僕とシェンはひたすらに戦闘準備を続け、入念なシミュレーションを行い対策は一夜にして万全な形となった。

 そして、何も起きない日々が3日過ぎた。
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