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ステージ4 へラル編

第93話 進む先は【side:ヘラル】

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「……手合わせ……?」


 いきなり勝負を挑まれて困惑する天汰とワタシ。1本だけ投げたということは恐らく天汰に言っているんだろう。


「……分かった。ヘラルは少し下がってて。僕が決着をつけるから」

「う……ここに長居はしたくないんだけど……」


 ワタシがそう伝えても、天汰は刀を拾って男と戦う準備万端だし黙っておくしかないか……。

 ワタシはワタシであの悪魔とこの空間について注意を張り巡ろう。
 きっと男を倒したところで天汰が元の世界に戻る以前にここから脱出も出来ないだろう。


「……来い。その刀は名刀だ……老いぼれだからと手加減はするなよ……」

「当たり前だ」


 2人は向かい合ってお互いにいつ仕掛けるか見極め合っている。
 天汰は普段剣を使っているから持ち方も老人と比べて不慣れな様子だ。


「おらっ!」


 天汰は皆が一瞬だけ呼吸した隙を狙い男に襲いかかる。
 すると男はほとんど見えないであろう目で斬撃を避け、逆に天汰の胴体に斬りかかった。


「……ぐッ!」

「手を……抜くな」


 じわじわと服に地が滲んでいく天汰だったが、このカウンターは恐らく想定内のはずだ。


「……これで、無効化出来たな……」

「……なるほど」


 胴体に刺さった状態で再生が始まり、天汰の身体に刀が埋まる。
 ニヤリと笑った天汰はもう一度刀を振り下ろした。


「おらっ!」

「君が戦った敵は……この程度で倒せるものなのか……?」


 そう言うと男は刀を握り直して抜こうとするのではなく、そのまま内臓を刃先で斬りかかり反転させて残った部位まで斬って胴体を刎ねる。

 ペシャリと生々しい音を立てて、天汰の上半身は暗闇に落っこちた。


「……ハァ。これが……ここまでこれたのか……」


 老人はため息を落とし天汰の肉体を呆れながら眺めている。
 そうか、この人は天汰の驚異的な再生能力を知らないのか。

 この程度なら天汰は再生出来る――はずなのだけど、身体はピクリとも動かない。


「……ヘラル……だったか。その身体はどうだ? ……まだ生きていたいか?」

「……嫌味? 最悪だよ……ワタシはずっとアイツの思惑通り動かされてたんだよ? あなたならアイツの性悪具合を理解してると思うけど」

「ふっ」

 そうだよね、流石に鼻で笑っちゃうくらい嫌な奴だよね。

 ここに来たのも全部アイツのせいだし、こんな事になったのもアイツのせいだし!


「それと……あなたは死にたいの?」

「……何を聞く。生きられるだけ生きる……命を粗末にするつもりはない」

「いや、あなたには言ってないよ」


 真っ二つにされていた天汰が動き出す。不意を突かれた男は反応に遅れ天汰の刀が男の肺に突き刺さった。


「僕は年寄りでも手加減しないから」

「……ど。そう……くる……か」


 息を吸うペースが不安定になり徐々に焦点が合わなくなっていく男の様子で、2人の戦いが終わったことを悟る。


「なんで僕に勝負を挑んだ……んですか。本当に……勝つつもりだったのですか」

「……初めて……人と斬り合った」


 か細い声で今にも息絶えそうな男は語り出した。それをワタシ達は黙って聞き続ける。


「……何十年も昔……自分はこの世界にいきなり……飛ばされた。1人だったが……それだけで幸せだった。だが……ある日、世界は荒れると……時に、アイツが……現れた」


 あの悪魔のことか。しかも、自分から転移させておいて大分ラグがあったみたいだけど。


「しばらくは……楽しめた。だが、奴らは……った。真世界などと……けの……で、奴隷……じゃないか。……地球が、恋しい……」


 ……地球。天汰と同じ場所から転移してきたんだ。年や外見からするに全く2人は関わりないだろうけど。

 横にいる天汰の表情に光は灯っていなかった。


「……教えてください、僕にあなたの名前を」

「……来てく……れ。天汰……」


 男は力を振り絞って天汰の名前を呼ぶ。天汰は黙って彼の口に耳を近付けた。

 そして、男は遺言として自らの名前を天汰に告げ、生涯を閉じた。


「……僕には聞き取れたからな。……ヘラル、そろそろ帰る準備は出来たか?」

「……ね、天汰……焦らないで、ツバキ達を先に探そうよ」

「……そうだ、僕が戻って3人を見つけてくる! ヘラルは残って準備と……彼の弔いを任せたよ」


 天汰はワタシに背を向けてまたクローン達がいる下の階に走っていなくなった。

 さて、ここにいるのは悪魔だけだ。


「……どうして見殺しにした?」

「あら、それは私に対してかしら」


 暗闇に紛れて身を隠していたアイツが姿を現した。天汰は奴が魔力を抑えていたから気付かなかったみたいだけど、同一人物だから丸わかりだ。


「あなた以外いないよ……この人は契約者じゃないの!? 彼の暴走だったとしても止めるのが普通じゃ――」

「私には必要無くなったからよ。彼も死にたがっていたから丁度良かったんじゃない? 立派に死ねて、人間に殺されて」


 やけに怨みのこもった言い方で悪魔は地面に付着した血痕を眺めながら静かに魔力を纏った。


「そう……たしかにあなたとは真逆ね、ヘラル。だけどそれで良かったのかしら? 彼らは帰る手段なんて知らないのよ。迎えるのはバッドエンド……ただ1つだけ」

「……それは違う。まだエンディングはやってこない」


 その答えに何ら疑問は沸かない。それを証明するためワタシは言葉を紡ぐ。


「ワタシ達はあなたの思い通りにならない」
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