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鳥居祜 -5-
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その日の夜、僕は居ても立ってもいられず、ウミにメッセンジャーを送った。
―― ウミ、僕や皆に、隠している事があるんじゃないのか? ウミだって、自分がただの風邪だとは思ってないだろ?
送って三十分が経過したが、既読もつかなかった。まさか、あれから更に体調が悪化して…なんて事はないよな。
―― 神主は、ウミがこれからどうなるかを知っていて、ウミもそれを、最初から聞かされていたんじゃないのか?
やはり、既読がつかない。僕は、段々と不安になってきてしまった。どっちだ。メッセンジャーに気づいていないのか、体調が悪化してスマホを見られないのか。または、通知だけ見て、読むのを躊躇っているのかもしれない。ここは、電話をかけるべきか…。
―― ごめん、返答の難しい質問をしちゃった。ウミが今、体調が大丈夫かだけ教えてくれると、安心するんだけれど…
僕は、もう一度メッセージを送った。
暫くして、既読がついた。どうやら、無事ではある様だ。それから更に三十分くらい経って、返信があった。
―― 心配かけてごめんね。大丈夫だよ。おやすみ
これ以上は、ウミに下手にプレッシャーをかけるだけになると思ったので、やめた。
翌日、ウミは普通に登校してきていたけれど、昨日の事があったので、なんだかよそよそしくなってしまった。お互い、変に気を遣ってしまい、どうにも話しかける事ができなかった。度々、視線は合うのだが、すぐに逸らしてしまう。気まずい…。
アメリは、いつも通りウミと他愛のない会話をしていたので、おかげでウミの体調変化についてはなんとなく察する事ができた。ただ、遠巻きから見てどうにも心配だったのは、ウミが、軍手を嵌めた右手を殆ど使わないで過ごしていた事だ。アメリがそれを指摘すると、実は痺れている、といった内容を口にしていた。肌が荒れるだけで、手が痺れるなんて事があるのだろうか。
その翌日、浄化作業は通常通り行った。結局、僕とウミは学校でも神社でも一言も言葉を交わす事ができなかった。燐光石の袋を渡す時も、うまく視線を合わせる事すらできなかった。こんな事じゃダメだ…。僕がウミの状況をきちんと把握しなくてはならないのに…。
夜、メッセンジャーを改めて送るべきか悩んだが、それはできなかった。きっと、またウミを苦しめる事になる。もし送ったとしても、ウミは既読をつける勇気がないだろう。せめて、ウミの方からメッセンジャーを入れてくれればいいんだけれど…それは、もっと無理だろうな。
体調管理の日になった。この日、外は久々の大雨だった。小雨での燐光石探索は経験があったが、大雨は最近降っていない。燐光石が消化済みのエリアに流されたり、地面がぬかるんで探索が困難になったりしなければ良いけれど…。
僕は、ようやくウミの体調を診てもらえる事に少しだけ安堵した。恐らく、保健教師では正しい事は何も解らないだろう。だから、あの町医者に診てもらう様、僕から進言をするのだ。
この日、丁度、物理の授業があった。それで、僕は授業後に、物理教師を呼び止めた。物理教師のデスクがある物理準備室へと一緒に廊下を歩きながら話した。
「順調に進んでいるようだね」物理教師が言った。「あと三週間くらいのペースかな?」
僕は首肯した。
「おかげ様で、首尾よくエリア消化ができています」
「君から特にエリアに関する相談の連絡がなかったから、そうだろうと思ったよ。でも、今日、声をかけてくれたって事は、何か訊きたい事があるのかな?」
「ええ、そうです。石の事で…」僕が言った。「あの燐光石について、先生は何か詳しい事を知っていたりしませんか? 毒の影響とか、そもそもの石の成分とか」
物理教師は、少し目を細める様にすると、かぶりを振った。
「残念だけれど、詳しい事は解らないんだ。毒について解らない、という事は前にも言ったかもしれないけれど、成分については尚更、見当もつかない。そもそも、燐光石の組成を調べるような機会がないからね。かなり以前に、この島の地質調査をしていた人がいたけれど、その人が島を出てからは調査は行われていないし、当然、燐光石を島外に持ち出す事は禁止されている。地質調査をしていたのであれば、レポートか論文があるはずだけれど…そういった話は聞かないから、特に成果はなかったんだろうね。それに、燐光石は、噴火の後でないと手に入らないだろうから、調査の対象外だった可能性も高い」
そうか…。という事は、燐光石を持ちだす事ができれば、調査は可能、という事だろうか。
「例えば、僕が燐光石を先生にお渡しすれば、調べて貰えますか?」
物理教師は、ははは、と笑った。
「ちゃんと調べようと思ったらこの島にある設備じゃ無理だろうね。専門の調査機関に持ち込まないと。それに、燐光石を持ちだす事は禁忌を破ることになるから、浄化作業が滞りなく進んでいるうちは、なにもしない方がいいと思うね」
その時、後ろから激しい靴音が聞こえてきた。と同時に、叫びに似た声があがった。
「圷! 探したぞ!」
僕と物理教師は、思わず声の方を振り返った。そこに居たのは、野辺だった。野辺は、屋外も含めて僕を探し回ったのか、シャツが雨で濡れていた。僕は…混乱した。彼が、こんな剣幕で言葉を発するのを聞いた記憶がない。
僕は、喉から音が鳴るほどに、唾を飲み込んだ。口の中が乾燥するのが解った。
「ど、どうした?」
うまく声を出すことが出来なかった。野辺は腰を折り、両膝に手をついて暫く肩で息をして呼吸を整えた。
「早く教室に戻ってやってくれ。木百合が倒れた」
ウミが…倒れた?
「どういう事だ? 倒れるような症状はなかった筈だ…」
「お前、ちゃんと木百合の事、見守ってやってたのかよ!」野辺が大声を上げた。「木百合は今、殆ど気を失いながら、お前の名前を呼んでんだぞ! 今、医者が診てくれてはいるけどよ」
物理教師が、僕の肩を叩いた。
「早く、行ってあげなさい」
僕は、野辺にありがとうを言うと、全速力で教室に向かった。ウミが倒れる、という事を、正直、想定していなかった。いや、想定はしていたのかもしれない…でも、まだ、こんな早いタイミングじゃない。何よりも、そうなる前に、僕は、ウミをこのくだらない浄化作業から解放してやるつもりだったんだ。どんな手を使ってでも…。
教室が視界に入ってきて、僕は怖かった。ウミがどんな状態になっているのかを確認するのが、怖かった。でも、ここで怖気づいている場合ではないのだ。走っているからだけではなく、緊張で、心臓の鼓動がほぼ限界まで激しく打つのが、自分で分かった。呼吸が荒いし、なんだか視界もぼやけてみえる。
僕は、目を強く瞑り、大きく首を左右に振ると、教室の扉を開けた。
ウミは、床に横たえられていた。既に意識は失っている様子だったが…小刻みに痙攣しているように見えた。その隣で町医者が床に膝を着き、ウミの軍手やカーディガンを脱がせようとしているところだった。もともと少ないクラスの人員が、島外退避で半分になっていた事は幸いだった。それを見ている生徒は殆どいなかった。
「手伝います」
僕は、ウミを挟んで向かいに屈み、ウミのカーディガンのボタンに手をかけた。
「ようやくおでましか」町医者がいった。「ゆっくり外してやれよ」
僕は頷くと、上から順番にボタンを外していった。ウミの体温が高いのが、セーラー服越しにも解るかのようだった。
ボタンを全て外し終えると、町医者と一緒にウミの背中に手を入れ、少し持ち上げると、慎重に脱がせた。
「なんだ…これは…」
僕は、思わず呟いた。ウミは、右腕全体を、包帯でグルグル巻きに覆っていたのだ。そして、その包帯は、所々が赤黒く斑点の様に染まっている。カーディガンを満たしていた柔軟剤か何かの女の子の香りに…腐敗臭だろうか。混ざって来た。
「こいつは、かなりまずいぞ…」町医者が言った。「先週の体調確認で、あの保健師、何も指摘しなかった」
町医者は、ウミの夏のセーラー服の袖を捲ると、包帯を留めているピンを外した。それから、ゆっくりと包帯をはがし始めた。それは…それはあまりにも酷い光景だった! ウミの右腕は全体が赤黒く…茶色く変色していたのだ。なんだよこれは! ついこの前まで、ただの肌荒れだったんじゃなかったのかよ!
最後に軍手を外してやると、指先までは更に酷かった。どう考えても、血流はとうにとまっており、腐り始めている…。
「ウミ…ウミ…!」
僕は半ば泣きそうになりながら、ウミの名前を呼ぶ事しかできなかった。
「おい、お前」医者は、そんな僕を見て、僕の頬を平手で数回打った。「この娘の体調変化は責任もって見とけって言っただろ。お前、これがどういう状況か、解ってんのか?」
僕は両手を強く握りしめた。涙で、目の前が滲むのが解った。僕が…僕が泣いている場合ではないのだ。でも泣けてしまうんだ。なんでこんなになる前に、もっと僕は行動をしなかったんだろうか。神主を殴り倒してでも、ウミを連れ出そうとしなかったんだろうか。
僕は腕で涙を拭った。
「保健室へ運びます…!」
「そうしたいが、少し待て…」町医者は、僕を制すると、ウミの腕の、変色している部分との境界線を視認した。そして、舌打ちをした。「見ろ、解るか? 壊死の進行が異常な速さだ。目に見える速度で変色が進んでやがる…。あの石の影響なのか。こんなの、見た事ねえよ。なんでこんなになるまで、気づかなかった…? お前、なんでこんなになるまで、放っておいたんだ!」
僕には、当然、返す言葉がなかったし、そのセリフは、僕が僕自身に問いかける必要のある物だ。これは僕の責任だ…。
町医者は立ち上がった。
「保健室へ運ぶぞ」
僕は医者に言われる前に、ウミの肩と太ももの下に手を挿し入れていた。ウミの躰は熱く、持ち上げると、なんだか軽い様に感じた。ウミを持ち上げた事なんて、今までなかったのに…。
僕と医者は、保健室へと駆け出した。
―― ウミ、僕や皆に、隠している事があるんじゃないのか? ウミだって、自分がただの風邪だとは思ってないだろ?
送って三十分が経過したが、既読もつかなかった。まさか、あれから更に体調が悪化して…なんて事はないよな。
―― 神主は、ウミがこれからどうなるかを知っていて、ウミもそれを、最初から聞かされていたんじゃないのか?
やはり、既読がつかない。僕は、段々と不安になってきてしまった。どっちだ。メッセンジャーに気づいていないのか、体調が悪化してスマホを見られないのか。または、通知だけ見て、読むのを躊躇っているのかもしれない。ここは、電話をかけるべきか…。
―― ごめん、返答の難しい質問をしちゃった。ウミが今、体調が大丈夫かだけ教えてくれると、安心するんだけれど…
僕は、もう一度メッセージを送った。
暫くして、既読がついた。どうやら、無事ではある様だ。それから更に三十分くらい経って、返信があった。
―― 心配かけてごめんね。大丈夫だよ。おやすみ
これ以上は、ウミに下手にプレッシャーをかけるだけになると思ったので、やめた。
翌日、ウミは普通に登校してきていたけれど、昨日の事があったので、なんだかよそよそしくなってしまった。お互い、変に気を遣ってしまい、どうにも話しかける事ができなかった。度々、視線は合うのだが、すぐに逸らしてしまう。気まずい…。
アメリは、いつも通りウミと他愛のない会話をしていたので、おかげでウミの体調変化についてはなんとなく察する事ができた。ただ、遠巻きから見てどうにも心配だったのは、ウミが、軍手を嵌めた右手を殆ど使わないで過ごしていた事だ。アメリがそれを指摘すると、実は痺れている、といった内容を口にしていた。肌が荒れるだけで、手が痺れるなんて事があるのだろうか。
その翌日、浄化作業は通常通り行った。結局、僕とウミは学校でも神社でも一言も言葉を交わす事ができなかった。燐光石の袋を渡す時も、うまく視線を合わせる事すらできなかった。こんな事じゃダメだ…。僕がウミの状況をきちんと把握しなくてはならないのに…。
夜、メッセンジャーを改めて送るべきか悩んだが、それはできなかった。きっと、またウミを苦しめる事になる。もし送ったとしても、ウミは既読をつける勇気がないだろう。せめて、ウミの方からメッセンジャーを入れてくれればいいんだけれど…それは、もっと無理だろうな。
体調管理の日になった。この日、外は久々の大雨だった。小雨での燐光石探索は経験があったが、大雨は最近降っていない。燐光石が消化済みのエリアに流されたり、地面がぬかるんで探索が困難になったりしなければ良いけれど…。
僕は、ようやくウミの体調を診てもらえる事に少しだけ安堵した。恐らく、保健教師では正しい事は何も解らないだろう。だから、あの町医者に診てもらう様、僕から進言をするのだ。
この日、丁度、物理の授業があった。それで、僕は授業後に、物理教師を呼び止めた。物理教師のデスクがある物理準備室へと一緒に廊下を歩きながら話した。
「順調に進んでいるようだね」物理教師が言った。「あと三週間くらいのペースかな?」
僕は首肯した。
「おかげ様で、首尾よくエリア消化ができています」
「君から特にエリアに関する相談の連絡がなかったから、そうだろうと思ったよ。でも、今日、声をかけてくれたって事は、何か訊きたい事があるのかな?」
「ええ、そうです。石の事で…」僕が言った。「あの燐光石について、先生は何か詳しい事を知っていたりしませんか? 毒の影響とか、そもそもの石の成分とか」
物理教師は、少し目を細める様にすると、かぶりを振った。
「残念だけれど、詳しい事は解らないんだ。毒について解らない、という事は前にも言ったかもしれないけれど、成分については尚更、見当もつかない。そもそも、燐光石の組成を調べるような機会がないからね。かなり以前に、この島の地質調査をしていた人がいたけれど、その人が島を出てからは調査は行われていないし、当然、燐光石を島外に持ち出す事は禁止されている。地質調査をしていたのであれば、レポートか論文があるはずだけれど…そういった話は聞かないから、特に成果はなかったんだろうね。それに、燐光石は、噴火の後でないと手に入らないだろうから、調査の対象外だった可能性も高い」
そうか…。という事は、燐光石を持ちだす事ができれば、調査は可能、という事だろうか。
「例えば、僕が燐光石を先生にお渡しすれば、調べて貰えますか?」
物理教師は、ははは、と笑った。
「ちゃんと調べようと思ったらこの島にある設備じゃ無理だろうね。専門の調査機関に持ち込まないと。それに、燐光石を持ちだす事は禁忌を破ることになるから、浄化作業が滞りなく進んでいるうちは、なにもしない方がいいと思うね」
その時、後ろから激しい靴音が聞こえてきた。と同時に、叫びに似た声があがった。
「圷! 探したぞ!」
僕と物理教師は、思わず声の方を振り返った。そこに居たのは、野辺だった。野辺は、屋外も含めて僕を探し回ったのか、シャツが雨で濡れていた。僕は…混乱した。彼が、こんな剣幕で言葉を発するのを聞いた記憶がない。
僕は、喉から音が鳴るほどに、唾を飲み込んだ。口の中が乾燥するのが解った。
「ど、どうした?」
うまく声を出すことが出来なかった。野辺は腰を折り、両膝に手をついて暫く肩で息をして呼吸を整えた。
「早く教室に戻ってやってくれ。木百合が倒れた」
ウミが…倒れた?
「どういう事だ? 倒れるような症状はなかった筈だ…」
「お前、ちゃんと木百合の事、見守ってやってたのかよ!」野辺が大声を上げた。「木百合は今、殆ど気を失いながら、お前の名前を呼んでんだぞ! 今、医者が診てくれてはいるけどよ」
物理教師が、僕の肩を叩いた。
「早く、行ってあげなさい」
僕は、野辺にありがとうを言うと、全速力で教室に向かった。ウミが倒れる、という事を、正直、想定していなかった。いや、想定はしていたのかもしれない…でも、まだ、こんな早いタイミングじゃない。何よりも、そうなる前に、僕は、ウミをこのくだらない浄化作業から解放してやるつもりだったんだ。どんな手を使ってでも…。
教室が視界に入ってきて、僕は怖かった。ウミがどんな状態になっているのかを確認するのが、怖かった。でも、ここで怖気づいている場合ではないのだ。走っているからだけではなく、緊張で、心臓の鼓動がほぼ限界まで激しく打つのが、自分で分かった。呼吸が荒いし、なんだか視界もぼやけてみえる。
僕は、目を強く瞑り、大きく首を左右に振ると、教室の扉を開けた。
ウミは、床に横たえられていた。既に意識は失っている様子だったが…小刻みに痙攣しているように見えた。その隣で町医者が床に膝を着き、ウミの軍手やカーディガンを脱がせようとしているところだった。もともと少ないクラスの人員が、島外退避で半分になっていた事は幸いだった。それを見ている生徒は殆どいなかった。
「手伝います」
僕は、ウミを挟んで向かいに屈み、ウミのカーディガンのボタンに手をかけた。
「ようやくおでましか」町医者がいった。「ゆっくり外してやれよ」
僕は頷くと、上から順番にボタンを外していった。ウミの体温が高いのが、セーラー服越しにも解るかのようだった。
ボタンを全て外し終えると、町医者と一緒にウミの背中に手を入れ、少し持ち上げると、慎重に脱がせた。
「なんだ…これは…」
僕は、思わず呟いた。ウミは、右腕全体を、包帯でグルグル巻きに覆っていたのだ。そして、その包帯は、所々が赤黒く斑点の様に染まっている。カーディガンを満たしていた柔軟剤か何かの女の子の香りに…腐敗臭だろうか。混ざって来た。
「こいつは、かなりまずいぞ…」町医者が言った。「先週の体調確認で、あの保健師、何も指摘しなかった」
町医者は、ウミの夏のセーラー服の袖を捲ると、包帯を留めているピンを外した。それから、ゆっくりと包帯をはがし始めた。それは…それはあまりにも酷い光景だった! ウミの右腕は全体が赤黒く…茶色く変色していたのだ。なんだよこれは! ついこの前まで、ただの肌荒れだったんじゃなかったのかよ!
最後に軍手を外してやると、指先までは更に酷かった。どう考えても、血流はとうにとまっており、腐り始めている…。
「ウミ…ウミ…!」
僕は半ば泣きそうになりながら、ウミの名前を呼ぶ事しかできなかった。
「おい、お前」医者は、そんな僕を見て、僕の頬を平手で数回打った。「この娘の体調変化は責任もって見とけって言っただろ。お前、これがどういう状況か、解ってんのか?」
僕は両手を強く握りしめた。涙で、目の前が滲むのが解った。僕が…僕が泣いている場合ではないのだ。でも泣けてしまうんだ。なんでこんなになる前に、もっと僕は行動をしなかったんだろうか。神主を殴り倒してでも、ウミを連れ出そうとしなかったんだろうか。
僕は腕で涙を拭った。
「保健室へ運びます…!」
「そうしたいが、少し待て…」町医者は、僕を制すると、ウミの腕の、変色している部分との境界線を視認した。そして、舌打ちをした。「見ろ、解るか? 壊死の進行が異常な速さだ。目に見える速度で変色が進んでやがる…。あの石の影響なのか。こんなの、見た事ねえよ。なんでこんなになるまで、気づかなかった…? お前、なんでこんなになるまで、放っておいたんだ!」
僕には、当然、返す言葉がなかったし、そのセリフは、僕が僕自身に問いかける必要のある物だ。これは僕の責任だ…。
町医者は立ち上がった。
「保健室へ運ぶぞ」
僕は医者に言われる前に、ウミの肩と太ももの下に手を挿し入れていた。ウミの躰は熱く、持ち上げると、なんだか軽い様に感じた。ウミを持ち上げた事なんて、今までなかったのに…。
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