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第10章:歯科矯正は『ボクっ娘』の夢を見るか

第3話

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「うん、もう矯正具の装着はしなくても、大丈夫そうです。すっかり歯並びが良くなりましたね」
「シカイよ…娘の矯正は、これで終了したのか…?」
「ええ、これで終了です。今、キルベガンさんと矯正具を外しましたので、今後は日常の歯磨きと定期検診でOKです」
「そうか…。思ったよりも長かったが、お前の事を信頼してよかったと、心から思うよ」
「それはどうも。ミドルトンさんに、銀歯を取られそうになってから1年とちょっとが経った訳ですね」
「ふふ…言うじゃないか。だが、奴隷捕縛における金品の押収は私用ではない事は断っておくぞ」
「ミドルトンさんにとっては、業務遂行のための演技だった、という事で、納得しておきます」
「…カネマラよ、顔をよく見せてごらん…」
「パパ、ちょっと、恥ずかしいよ…」
「…うん。ますます美しくなった…気がする。お前は、自慢の娘だよ」
「ミドルトンさん、実際に、歯並びが変わったことで、カネマラさんの顎や頬の輪郭はキレイになっていると思いますよ。ますます美しくなった、というのは、あながち間違いではありません」
「そうか。じゃあ、いつでも娘を嫁にやれるな」
「ちょっと、それは気が早すぎるってものじゃない? わたし、せっかく騎士の称号を頂いているのに、まだ国のためにあまりお役にたてていないもの」
「難しいものだな…年頃の娘をもつ父親の立場というのは…」
「お察ししますよ、ミドルトンさん。ところで、今後の事でご相談をしたいんですが…」
「今後の事だと? カネマラの結婚の事か? それとも、この医院の事か?」
「ええと…この医院の事なんですけれど…」
「いいだろう。話せ。私ができることならば、協力は惜しまん」
「ありがとうございます。まず、この医院なんですが、お陰様で1周年を迎え、これまでに多くのお客様に愛顧されてきました」
「関連商品もよく売れていると聞いているぞ。ギルド長が街の有名スイーツ店を買収したらしいじゃないか。ギルドがそれだけ儲かっているという事は、医院も相当な金を溜め込んでいると見えるぞ」
「それは人聞きが悪いですね。でも、それなりに潤沢なキャッシュがあるのは事実です。まあ、ギルド長がスイーツ店を買収したのが事実かどうかは詳しく知りませんが…」
「経営が好調にもかかわらず、医院の今後について考えなければならないのか?」
「ええ、そうなんです。というのも、医院は株式会社の形式をとっていますからね」
「と言うと?」
「簡単に言えば、現在既に、医院の成長が頭打ちなんです。医院の数を増やせないですからね。株式会社は常に成長をしていかなければなりません。でないと、うちの大株主がご立腹されますからね…」
「おっと…。そうか、王女が出資していたんだったな」
「医院を増やすには、ギルドの技術だけではどうしてもカバーできない部分がありまして…」
「把握している。固定のスキルと、麻酔のスキルだな」
「その通りです。ルイーダさんの酒場での求人は、ずっと掲載しっぱなしなんですが、これまでに1人も応募がありません。給料はかなり高く設定してあるんですけれどね」
「それだけ希少性が高いスキルという訳だ」
「そうです。だから、僕は、国外にスキル者をスカウトに行きたいんです」
「国外にだと…? 確かに、他の国をあたれば、そういうスキル者を獲得できる可能性はあるかもしれないが…忘れた訳ではないと思うが、お前は今でも奴隷の立場なんだぞ? 奴隷は国外に出ることはできない。誰か、他のメンバーを出すのか?」
「いえ、僕が行きたいんです。だから、こうしてミドルトンさんに相談をしているんです」
「できる事とできない事がある。悪いが、私の立場でそれをどうこうする事はできない。だいたい、お前が医院からいなくなったら、営業ができなくなってしまうではないか」
「ええ、できなくなります。でも、大丈夫です。予約分はきちんと全てこなしてから行くつもりですし、不在時にも歯ブラシやフロスなどのケア商品の販売は続けますので、街の人に対する最低限の対応は可能です」
「しかし…」
「ミドルトンさん、僕がしようとしている事は、ミドルトンさんの今後の出世にも大きく関わってくるのではないですか?」
「私の…だと?」
「だって、まだ僕の医院は、街の一部の人の治療しかできていません。国王が望んでいた兵士たちの歯科治療はまだこれからです。でも、これには多くの歯科医師が必要です。歯科治療に関わるスキル者を集めてくるのは、そういった観点では国家事業になるのではないですか?」
「そ、そうか…確かにな…。お前はいつも、そうやって私を言いくるめようとする…。だが、どういう立場で他の国を訪うつもりだ? 闇雲に街を訪ねてスキル者を募るつもりか?」
「当初は僕も、主要な近隣国家の首府の街を訪ねて、酒場とかギルドなど情報が集まる場所でスキル者を探すつもりでしたが、考えが変わりました。直接、国家対国家の交渉をしたいと考えています。つまり、国の公式な交易商として僕を派遣して貰いたいんです」
「なな…なんだと…? お前が言ってる事はつまり、国王からの公認使者として、他国の王室を訪ね、直接交渉をつける…という事か」
「そのとおりです」
「…しかし、交易品は何にするつもりだ?」
「おや、ミドルトンさん、せっかくターコネルさんの蒸留所にお連れしたのに、覚えていらっしゃらないんですか? この国が誇る、新たな特産品の存在を…」
「まさか…ウィスキー…か。完成したのか?」
「貯蔵期間が1年なので、まだ若いですが、間もなく出荷できる状態になります。お飲みになりたければ、ルイーダさんの酒場に足んでください。優しく飲み方を教えて下さいますよ」
「なるほど…。お前の提案には、多くのメリットがある。医院を増やせればお前は儲かり、王女も儲かる。兵士たちの歯の健康が保たれれば国家の戦力が上がる。そしてうまくすれば、ウィスキーを輸出して外貨を得ることができる…。交易関係ができれば、無駄な戦もなくなるかも知れない。対して、これといったデメリットは存在しない。国王を説得できるか、くらいだな…」
「ね? いい話でしょ?」
「…解った。秘書室を通して、国王あるいは交易を担当する大臣と話ができるよう、段取ってみよう」
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