コミュ障じゃないボカロPが書いたラノベなんて読まない

ぼを

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Zayin(ザイン)

第3話

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 変拍子というのは面白いし、意外と普通に聴ける曲になっているのは驚いた。然し、なんで君は変拍子に拘って曲を作るのか。僕は尤もな意見だと頷いてから、端的には差別化の為だ、と答えてやった。男は更に驚くような素振りを見せて、このような同人の世界でそんな事を考えなければならないなんて、世知辛い、という様な事を口走った。なるほど、それも尤もだと思った。売上が目的ではないのだから、自分の好きな物を勝手に作って勝手に置いておけば良いものを、何故買い手に迎合するような事をしなければならないのか、同人はそんなマーケティング染みた物に毒されるべきではないのではないか。確かに、僕の変拍子はマーケティング戦略的見地で行っている物なのは事実だ。けれど、僕は男に対し、変拍子でなければ表現できない楽曲の世界があり、それがオリジナリティになり得る、という事を話した。4拍子で表現される広大な楽曲の原野があるとしたら、本来、ある筈なのだ。恐らくこの世界の全楽曲の1%にも満たない変拍子それぞれにも、同様の開拓地が。ただ、殆どの人がそこを発掘しようとせず、その前提として、苦労して発掘した所で4拍子や3拍子で曲を作った方が効率的に聴者に届くので、やらないのだ。こんな損な事。

 逆に僕の立場からすると、よくここに集まった1,000を超えるサークルの作る、恐らく10,000を超える楽曲の殆ど全てが、4拍子で構成されていながら、独立した作品として個性を保っている物だと感心してしまう。が、これは意外と単純な理由で、それは大半のサークルが楽曲レベルに於いて非常に高質である事で説明がつき、得心がいく。変拍子などという方言を使わずとも、その他数多の音楽理論を行使できれば、オリジナリティなんて本来的にはいくらでも生成できる筈なのだ。だから、僕の変拍子はどこまでいっても、自信のなさの裏返しに過ぎない。それは痛いほど解っている。

 男は、ヘッドフォンを僕に返しながら、このくらい変拍子と意識せずとも聴けてしまうと、逆に変拍子の意味はないね、と言った。僕は苦笑しながらヘッドフォンを受け取り、意識せずとも聴けてしまう変拍子を作るのがひとつの目標だが、同時に変拍子でなければ表現できない世界を表現するのも目標だ、と答えてやった。男は怪訝な顔で、畢竟、僕の回答に満足はせず、CDを買わずにその場を立ち去った。

 気付くと、隣でミコが、男の背中に向かって舌ベロを出していた。僕は、やはり苦笑しながら、止めるように制した。まあ、誰にも見えないからいいんだけれど、彼女を制する事は、僕自身を制する事だから、恐らく必要な行為だ。

「あすこまで言ったなら、買ってくれれば良かったのにね」
 ああ、そんな事だよな、僕の本心って。
「でもなんか少し考える切っ掛けになったよ」僕が、小声で言った。「ダイアローグの完成という意味では変拍子はソナーの様な役割だと思っていたけれど、想定していた以上にニッチ過ぎた可能性もある」
「どういう事?」
「本当は魚なんて1匹もいない池に向かって、釣り針を垂らしている様なものかもな、って」
 ミコは笑った。
「行きついた結論が、人間ではダメだ、タルパこそが究極のコミュニケーション対象なんだ、とかだったら笑えないよ」
 言われて、僕は苦笑した。今日はやけにミコは鹿爪らしい事を言うじゃないか。
「ただ、その結論は、アリと言えばアリなんだよなあ」
「ダメだよ」ミコが微笑を湛えたまま言った。「とは言え、まあ、ちょっと嬉しいけどね~」
 また、そういう事を言う。

「あれ? もしかして、先輩…じゃないですか?」
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