コミュ障じゃないボカロPが書いたラノベなんて読まない

ぼを

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カエルの歌が聴こえない

第9話

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 東京に転勤になって、社宅で暮らすようになってから、思えば、他人を家に上げた事がない。
「ちょっと」ミコが、掃除をしている僕に向かって、トイレの扉から顔だけ出しながら、言って来た。「ボクは家に上がってるからね」
 他人を家に上げた事がないので、散らかっていると言えば常に散らかっているし、殺風景と言えばとても殺風景だ。
 こういう時、つまりは独り暮らしの自宅に女性を招待する時、普通はドキドキとかワクワクとかするんだろうけれど、そういう気持ちはあまりなかった。
「だって、ボクがいつも居るから、慣れてるもんね」
 そういう訳でもないけど。大体、ミコの為に掃除した事はないし。
 あ、でも、学生時代、保健体育の教師が、男ならば女性と会う時は何があるか解らないから、ゴムを用意しておくのは礼儀だ、みたいな事を言っていたな。とは言え、やはり、有香とそういう事になる予感はなかった。
「人妻かもしれないもんね」
 僕は、ミコの言葉に笑った。
「ミコが拘ってるって事は、僕がそれを気にしてるって事なのかな」
 ミコは、えへへ~、と声に出して笑い、絶妙なタイミングで、ちゃんと彼女に訊く様に合図するからね、と言った。

 お昼過ぎに、有香がやってきた。彼女は、M3で会った時と同じコートと帽子の出で立ちだった。狭い玄関で迎え入れると、僕と並んだミコが、有香に向かって、いらっしゃいませ、と声を掛けたのが滑稽だった。

 僕はCubaseとメモ帳が立ち上がったPCの画面を見せた。彼女はコートと帽子をベッドの上に置くと、僕の隣に座った。狭い部屋の中で、彼女の肩と僕の肩が触れ合った。髪の毛から、いい匂いがした。どこか懐かしい香りだと感じるのは、もしかすると、その匂いが高校時代に嗅いだものと同じだったからかもしれない。いや、そんな訳ないか。

 僕は有香に、自分がスランプである事と、それを克服する目的でカエルの合唱の音階を基調とした楽曲を作る事を話した。有香はそれを聞いて小さく笑うと、じゃあ、わたしもカエルの合唱の歌詞を参考に作詞しようかな、と言った。

「曲はまだこれからなんだけれどね」僕が言った。「曲調と、歌詞の感じを合わせられたらなあ、って思って」
 言いながら、僕はPCの前に置いた25鍵の小さなキーボードを使って、ドレミファミレド、と弾いて見せた。
「また変拍子にするの?」
 有香の言葉に、僕は首肯した。
「7拍子か、13拍子にしようかと思ってるよ」
「13拍子…」有香が呟く様に言った。「13拍子の曲に歌詞をつけるのは、初めてかも」
 そうだろうね。
「13拍子、といっても、基本は混合拍子だからね」僕が言った。「6拍子と7拍子を交互に繰り返して13拍子を作ったりするのが基本だから、そんなに難しくないと思うよ」
 最近、ようやく7拍子の楽曲は市民権を得て来たように思えるけれど、11拍子以降の素数変拍子はそんなに陽の目を見ていないし、認知もされていない気がする。
「7拍子のリズムは」有香が言った。「たん・たん・たたた、って感じであってる?」
「あってるあってる」僕が返答した。「そのリズムが一番7拍を作りやすいね。7拍子は、4拍と3拍の混合で作って、そのあとに6拍を持ってこれば、13拍子」

 自分で言いながら、そういえば23拍子なんて曲も作ったけれど、今のDTMソフトって殆どがピアノロール式で、所謂楽譜なんてないから、楽譜で書き出したらどんな譜面になるんだろう、と思った。1小節に23拍もはいるのか。

「ねえねえ」後ろから、ミコが声を掛けて来た。いつのまにか、ベッドに腰かけて、僕等を見下ろしていた。「コーヒーくらい出したらどうなの?」
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