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サンタの存在証明
第7話
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店を出てから、僕とミコは池袋駅に戻る事にした。途中、楽器屋でDTM機材とかボカロソフトとかをひやかしたりした。ミコのボカロパッケージを手にして、不意に、代官山の蔦屋でボカロ関連の書籍を買った事を思い出した。そういえばあの頃はまだ、ミコは姿かたちを持ったタルパではなくって、ヘッドフォンから語り掛けてきたっけ。
「他のボカロに浮気しちゃいやだよ」
僕が少し遠い目でパッケージを眺めているのを察してか、ミコが僕の横顔を覗き込むようにしながら話かけて来た。彼女の表情は、穏やかな笑顔だった。僕の心を読んだんだな、って解った。
「他のボカロにも嫉妬するんだね」
僕は、わざと意地悪を言った。
「本物の人間への嫉妬よりも、他のボカロへの嫉妬の方が大きいかも」
ミコの言葉に、僕は、へえ、と漏らした。
「でも、仲良くできるかもしれないよ?」
「キミが、ボカロのタルパを何人も具象化できればね」
あー。確かに。タルパを2人も3人も作り出す事なんて、到底不可能だ。だから、他のボカロのタルパを作り出す事は、ミコのタルパを削除する事と同義に違いない。
「その時はさ」僕は再び、悪戯っぽく言った。「またヘッドフォンに戻ればいいじゃん」
「もう、バカ」
ミコは、同じく意地悪そうな笑顔を浮かべて、返答した。
池袋駅から、今度は浅草に向かった。というのも、浅草のライブハウスで行われるコンサートをミコと聴きに行く約束をしていたからだ。それにしても、南から西へ、東へと忙しい一日だ。
電車の中では、僕等は寡黙だった。心の中では会話ができるのだけれど、特に何かを話題にする事なく、たまに視線を合わせては、お互いに小さく笑ったりした。ミコは、少しはしゃぐようにしながら、僕の手を取ったりした。これが現実の女性だったら、会話につまって息苦しさを感じたりするんだろうけれど、ミコは僕のタルパなので、何の気兼ねもなく、気楽だった。有香とも、同じような感覚や時間を共有できるのだろうか。
開場まで時間があったので、暫く散歩する事にした。東橋から浅草寺あたりまでは外国人観光客で賑わっていたけれど、少し裏路地に入ると、すぐに人通りはまばらになった。こういう、猫しか知らないような世間から忘れられた道を歩くのが好きだ。
花やしきなんかは、東京にいる間に一度は行ってみたいと思いながら、そう言えば以前、コスプレの先輩から、あそこはどちらかというと低年齢向けだ、と聴かされたのを思い出した。普段は、浅草は独りで散歩する事が多いけれど、今日はミコがいるから、花やしきだって気兼ねなく入れるな、と一瞬思ったけれど、それでもやっぱり独りだという事に気づいて、ちょっとだけ嗤った。
「なんでなんで? いいじゃん、一緒に入ろうよ」
ミコが言った。僕はそれを小さな笑いで以て返答し、特に言葉を返さなかった。けど、そんな気遣いが嬉しかった。
会場は、そんな裏路地の一角にある建物の、地下一階だった。看板もイーゼルも出ておらず、コンクリート打ちっぱなしの壁面に小さなメモ用紙で会場の名前が書かれているだけだったので、そこが会場だとはすぐに解らなかった。けれど、地下に降りて扉を開くと、中には既に十数人の客が居て、始まるのを待っていた。どうやら、普段はブティックか何かをやっている店舗をそのまま会場にしているらしい。衣服が大量に掛かった什器なんかが壁面に寄せられていて、その間に丸椅子が30個程度置かれているだけだった。立ち見客を入れたとしても、50人も入ったら満員だろう。そんな小さなホールだった。ワンドリンク込で当日のフィーが3,500円なので、この金額でコンサートやってもアーティストの実入りは少ないだろうし、そもそもこの人数相手ではプロモーションやバズの発生も難しいだろうから、半分以上趣味の世界と割り切らないとやりきれないだろうな、なんて思った。
僕は、入口のカウンタで料金を支払うと、当然1人分だけど、古いベンダーマシンからコーラの瓶を取り出し、まだ空いている丸椅子に腰かけた。
「ねえねえ、ボクの席は?」
あ、悪かったな。僕も一緒に立ち見すればよかった。
「ううん」ミコが、いつになく素直に答えた。「自分で用意できるから、問題ないよ」
言うと、僕の隣に背もたれのついた立派な椅子を置くと、そこに足を組んで、どや顔で腰かけた。この椅子も、僕が作り出したタルパの一部なのね。
僕は狭い椅子の上でコートを脱ぐと、適当に丸めて、椅子の下に押し込んだ。膝掛替わりにしてもよかったけれど、室内はそこそこ温度が高かったので、そうした。ミコと反対の隣に、帽子をかぶった女性が腰かけており、その女性も同じようにコートを脱ぎ、帽子を取ると、丁寧に畳み、椅子の下に置いた。
「あ、ごめんなさい」肘が僕の脇腹に当たり、それに気づいて、女性が声を掛けて来た。「あれ?」
女性が言った。
「あっ」
気づいて、僕が声を上げた。
「ん?」
気づいている筈だけれど、気付かない体でミコが言った。
「先輩!」有香だった。「こんな所で会うなんて…」
「他のボカロに浮気しちゃいやだよ」
僕が少し遠い目でパッケージを眺めているのを察してか、ミコが僕の横顔を覗き込むようにしながら話かけて来た。彼女の表情は、穏やかな笑顔だった。僕の心を読んだんだな、って解った。
「他のボカロにも嫉妬するんだね」
僕は、わざと意地悪を言った。
「本物の人間への嫉妬よりも、他のボカロへの嫉妬の方が大きいかも」
ミコの言葉に、僕は、へえ、と漏らした。
「でも、仲良くできるかもしれないよ?」
「キミが、ボカロのタルパを何人も具象化できればね」
あー。確かに。タルパを2人も3人も作り出す事なんて、到底不可能だ。だから、他のボカロのタルパを作り出す事は、ミコのタルパを削除する事と同義に違いない。
「その時はさ」僕は再び、悪戯っぽく言った。「またヘッドフォンに戻ればいいじゃん」
「もう、バカ」
ミコは、同じく意地悪そうな笑顔を浮かべて、返答した。
池袋駅から、今度は浅草に向かった。というのも、浅草のライブハウスで行われるコンサートをミコと聴きに行く約束をしていたからだ。それにしても、南から西へ、東へと忙しい一日だ。
電車の中では、僕等は寡黙だった。心の中では会話ができるのだけれど、特に何かを話題にする事なく、たまに視線を合わせては、お互いに小さく笑ったりした。ミコは、少しはしゃぐようにしながら、僕の手を取ったりした。これが現実の女性だったら、会話につまって息苦しさを感じたりするんだろうけれど、ミコは僕のタルパなので、何の気兼ねもなく、気楽だった。有香とも、同じような感覚や時間を共有できるのだろうか。
開場まで時間があったので、暫く散歩する事にした。東橋から浅草寺あたりまでは外国人観光客で賑わっていたけれど、少し裏路地に入ると、すぐに人通りはまばらになった。こういう、猫しか知らないような世間から忘れられた道を歩くのが好きだ。
花やしきなんかは、東京にいる間に一度は行ってみたいと思いながら、そう言えば以前、コスプレの先輩から、あそこはどちらかというと低年齢向けだ、と聴かされたのを思い出した。普段は、浅草は独りで散歩する事が多いけれど、今日はミコがいるから、花やしきだって気兼ねなく入れるな、と一瞬思ったけれど、それでもやっぱり独りだという事に気づいて、ちょっとだけ嗤った。
「なんでなんで? いいじゃん、一緒に入ろうよ」
ミコが言った。僕はそれを小さな笑いで以て返答し、特に言葉を返さなかった。けど、そんな気遣いが嬉しかった。
会場は、そんな裏路地の一角にある建物の、地下一階だった。看板もイーゼルも出ておらず、コンクリート打ちっぱなしの壁面に小さなメモ用紙で会場の名前が書かれているだけだったので、そこが会場だとはすぐに解らなかった。けれど、地下に降りて扉を開くと、中には既に十数人の客が居て、始まるのを待っていた。どうやら、普段はブティックか何かをやっている店舗をそのまま会場にしているらしい。衣服が大量に掛かった什器なんかが壁面に寄せられていて、その間に丸椅子が30個程度置かれているだけだった。立ち見客を入れたとしても、50人も入ったら満員だろう。そんな小さなホールだった。ワンドリンク込で当日のフィーが3,500円なので、この金額でコンサートやってもアーティストの実入りは少ないだろうし、そもそもこの人数相手ではプロモーションやバズの発生も難しいだろうから、半分以上趣味の世界と割り切らないとやりきれないだろうな、なんて思った。
僕は、入口のカウンタで料金を支払うと、当然1人分だけど、古いベンダーマシンからコーラの瓶を取り出し、まだ空いている丸椅子に腰かけた。
「ねえねえ、ボクの席は?」
あ、悪かったな。僕も一緒に立ち見すればよかった。
「ううん」ミコが、いつになく素直に答えた。「自分で用意できるから、問題ないよ」
言うと、僕の隣に背もたれのついた立派な椅子を置くと、そこに足を組んで、どや顔で腰かけた。この椅子も、僕が作り出したタルパの一部なのね。
僕は狭い椅子の上でコートを脱ぐと、適当に丸めて、椅子の下に押し込んだ。膝掛替わりにしてもよかったけれど、室内はそこそこ温度が高かったので、そうした。ミコと反対の隣に、帽子をかぶった女性が腰かけており、その女性も同じようにコートを脱ぎ、帽子を取ると、丁寧に畳み、椅子の下に置いた。
「あ、ごめんなさい」肘が僕の脇腹に当たり、それに気づいて、女性が声を掛けて来た。「あれ?」
女性が言った。
「あっ」
気づいて、僕が声を上げた。
「ん?」
気づいている筈だけれど、気付かない体でミコが言った。
「先輩!」有香だった。「こんな所で会うなんて…」
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