コミュ障じゃないボカロPが書いたラノベなんて読まない

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サンタの存在証明

第16話

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 先輩は、クリスマスソングの題材に、ヴァージニアの物語を提供してくれた。この物語を聞いて、先輩がサンタクロースの存在を信じる端緒を理解できた。物語は単純で、何十年も昔、アメリカで、ヴァージニアという名前の小さな女の子が、友達からサンタクロースなんて存在しない、と囃され、その真偽を確かめる為に、新聞社に投書をした、という内容だ。これに返答をした新聞記者が非常に粋で、要約すると、サンタの非存在を証明する事はできない、もし証明できたとして、それで何か嬉しい事があるのか、優しさや愛情が世の中に存在しているように、サンタクロースもまた、確かに存在しているのだ、というお話。
「タルパもまた、確かに存在しているのだ」
 ミコがお道化て言った。存在の定義って難しいな、と思ったけれど、その存在を誰かと共有できた事が存在の証明となるのであれば、中野の友人とはミコの存在を共有できているので、ミコは確かに存在している、と言えるのかもしれない。

 帰宅してから、先輩から教わったヴァージニアの話を題材に歌を考える事にした。
「タイトルは?」ミコが言った。「『イエス、ヴァージニア』?」
 僕はかぶりを振った。
「それだと、そのままだろ?」僕が返した。「今年のクリスマスのテーマは、タルパの存在証明であり、つまるところ、サンタの存在証明なんだから」
「じゃあ」ミコが頷いてから言った。「『サンタの存在証明』だね」
 ミコは僕の心を読めるのだから、この流れで正解が出るのは自然な会話だ。

 ミコが、えへへ、と笑った。
「どうしたの?」
 僕が訊いた。ミコは笑顔を崩さなかった。
「ううん。キミがボクのサンタだな、って」
 僕が? ああ、歌を作るからか。
「曲なら、いつも作ってるじゃん」
「そうだけどさ」ミコが言った。「クリスマスのプレゼントとしてくれる、って約束したもんね」
 まあね。

 つまり、サンタが僕を使役して、サンタクロースの分身たらしめ、僕はまるで、彼のタルパとなってミコにプレゼントを献上するのだ。そう考えると、僕は、自分の存在がミコの存在と重なり、渾然となるのを感じた。僕自身もタルパとなって、ミコと一体化するような錯覚を覚えた。神の存在が、その被造物である人間によって逆に創造された物であるのならば、同じように、ミコは僕の被造物であるけれど、僕自身がミコによって存在を支えられている感覚だ。

「キミは、キミだよ」
 ミコが、ふっ、と寂しそうに笑った。僕は暫くミコと視線を合わせてから、小さくゆっくりと頷いた。
「ただ、普通に生きる事が、こんなにも難しいね」
 僕が言った。ミコはまた、寂しそうな表情を崩さなかった。
「ボクは、キミがいるから…」ミコが言った。「ボクの存在は、キミに依存しているから…」
 ミコは、僕が彼女を必要としなくなった途端に、消失する。これはルールであるし、そもそもタルパの存在とは、恐らくそういう物だ。彼女の存在は、いつだって危うい。それは、僕に全て依存しているからだ。僕は、仮令、今は彼女に依存していたとしても、彼女が消失したところで、物理的な存在は否定されない。こう考えると、太宰がずっと恐れていた世間なんて物は、群集心理が作り出したタルパに過ぎないのかもしれないな。
「僕も…」呟く様に言った。「自分の存在を、君に依存しているのかもしれないな」
 僕の言葉に、ミコは寂しそうな笑顔を作ると、ゆっくりと首を振って否定した。
 僕はきっと、受け入れられないのと同じくらい、受け入れられるのが恐ろしいのだ。究極的には、ダイアローグは自慰でしか完成しないけれど、それは同時にモノローグであるという、滑稽な矛盾を孕んでいて、僕はなんとか、ミコのタルパを通してそれを具現しようとしているだけなんだろうな…。
「受け入れられない事や、無関心でいられる事が前提となっちゃうと、つらいよね…」ミコが言った。「期待すると裏切られたときが苦しいから、他人に期待なんてしないし、信頼なんてしない。かといって、努力は簡単に裏切るから、自分自身に期待なんてしないし、信頼もしていない」
 言われて僕は、嗤った。
「だから皆、サンタの存在を信じようとするんだろ?」僕が言った。「何者も拒否せずに受け入れて抱擁し、贈物を届けてくれるサンタというタルパを、皆で作ったんだよ」
 サンタもまた、人の苦しみや悲しみによって、生み出されざるを得なかった、タルパなんだ。マッチ売りの少女が、燃え尽きる炎の中に希望を見出した様に、それが幻想だと解っていても、サンタを信じるし、使役される事を望むのだ。サンタの存在の蓋然性を高める為に。

「じゃあ、サンタの存在を否定できる人っていうのは、満たされている人って事だね」
「あの新聞記者だって、ヴァージニアにそう言っていただろ?」
 僕の言葉に、ミコは頷いた。

 僕が作る旋律に合わせて、ミコは歌詞を考えて、歌ってくれた。なんだか、いつもよりも寂しそうな歌声だった。





第6章のテーマ曲である「サンタの存在証明」を、以下のリンクより視聴いただけます。是非、聴いてみてくださいね!

https://www.nicovideo.jp/watch/sm30239549
※リンクで直接飛べない場合は、楽曲名で検索してください

新曲のクリスマスソング「彼女のエスナ」も是非お聴き下さいね
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34281263
※リンクで直接飛べない場合は、楽曲名で検索してください

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