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そよよ
第18話
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気持ちの整理が付いていない。今、理解出来ているのは、僕が長らく依存していたタルパのミコを失い、そして、これから依存関係になる筈だった有香を失った、という事。有香は…僕の作り出した、もう一つのタルパだった。だから、有香が僕のタルパを作っていた、という事自体が、僕の無意識が作り出したもう一つの理想的な設定に過ぎなかった。ミコが最後に僕に謝ったのは…思えば、ミコはずっと、有香に対して一定の距離を保つような素振りをしていたが、決して嫉妬の感情を持っている訳ではなかった。ミコはタルパだから、当然、有香がタルパである事を知っていたのだろう。そう考えると、今までのミコの言葉は色々と得心が行く。じゃあ、有香自体の具現をミコが誘導したかというと、恐らく、それも違う。有香は、僕の無意識が、僕の意図で以て作り出したタルパで、ミコはそれを諫めるか、傍観するか、悩んでいたに違いない。結果として僕は言い様もないカタストロフに身を置く事になったが、ミコとしては、僕に対して、良かれと思ってやったに違いない。プレゼントを選ぶ事だって、僕の記憶を辿った事だって。それがたとえタルパであろうと僕のコミュニケーションへのコンプレックスが克服に向かうのであれば、恐らく、ミコは、自分を消失させて、有香と立場を交代する事を考えていたんだろう。だが、結果として、僕は両方を失った。僕は、この事実に気づく事で以て、タルパを維持できなくなった。
随分時間が経って、インターフォンが鳴った。僕は無言でロビーのオートロックを開けた。月島から、わざわざ心配して、この時間にやってきてくれたのか…。
玄関で迎えるなり、先輩は、安堵の表情を見せ、僕を抱擁してくれた。胸の膨らみが柔らかく、温かく、良い匂いだった。僕は…僕を、こんなに心配してくれる人もいるんだ、と思うと、不意に涙がこぼれた。
先輩は、僕の無事を確認すると、会社の僕の上司に連絡を入れてくれた。
僕は先輩に、今まで起こった事を全て話した。以前、有香の事や、タルパという存在については話したことがあったので、すぐに理解を示してくれた。それから、精神的におかしくなる前にタルパが消失した事について、否定の感情だけを持ってはいけない、と僕を諭した。少なくとも、2人のタルパを同時に動かし、更にセックスをしたという事は、かなりの精神力を消耗したらしい。なにしろ、3日間も眠っていたのだ。
先輩は、キッチンで粥を作ってくれた。僕は、ようやく自分が空腹である事を確認できた。
「昔の彼女と…」先輩が言った。「最後に連絡を取ったのは、いつ?」
僕は、粥を唇に運びながら、いつだったか、と考えた。
「大学時代に、1回くらいは連絡取り合ったかもしれないですけれど…もう随分前ですね」
「今でも、メールアドレスとかは残ってるの?」
「スマホの電話帳には入ってると思いますけれど、多分、もう使われてないと思います」
先輩は、そっか、と呟いた。
「その後の消息は、何も解ってないんだよね」
先輩の言葉に、僕は首肯した。先輩は、何を詮索しようとしているんだろうか。
「そう考えると、僕の作り出した有香のタルパも、自分勝手な想像に過ぎなかったんでしょうね」
僕が言うと、先輩は黙って頷いた。
「良くわからないけどさ」先輩が言った。「君は、一度、現実の有香ちゃんに会いに行った方がいいんじゃないかな」
え?
「それは…」
僕は、戸惑って言葉を失った。つい先ほど、僕にとっては紛れもない現実であった有香を失ったばかりで、現実世界の有香に会いに行く、なんて発想はなかった。
「私が思うに、君のタルパは、ミコにしろ有香ちゃんにしろ、同一人物だったんじゃないかな…って」
同一人物…?
「どういう意味ですか?」
先輩は、うん、と呟きながら頷いた。
「だって、君の話を聞いていると、はじめに作ったミコのタルパ自体が、有香ちゃんの投影の様に思えるよ。ミコは、その事を知っていたから、有香のタルパが出て来た時に、自分が消える覚悟をしていたんだと思うな」
ああ…。そうか…。
つまり、もともと、僕は自分のコミュニケーションコンプレックスの原点というか、それを克服する端緒を無意識的に有香に置いていたんだ。それを当初からミコに投影していたのが、いつのまにか有香に移行していく中で、2人のタルパを同時に作り出していたのか…。ミコはそれに気づいていたけれど、有香は気づいていなかった、または、気付かない振りをしていた。
僕は、有香のメールアドレスをスマホの電話帳で探し、メールを送ってみる事にした。
第7章のテーマ曲である「そよよ」を、以下のリンクより視聴いただけます。是非、聴いてみてくださいね!
https://www.nicovideo.jp/watch/sm29018796
※リンクで直接飛べない場合は、楽曲名で検索してください
随分時間が経って、インターフォンが鳴った。僕は無言でロビーのオートロックを開けた。月島から、わざわざ心配して、この時間にやってきてくれたのか…。
玄関で迎えるなり、先輩は、安堵の表情を見せ、僕を抱擁してくれた。胸の膨らみが柔らかく、温かく、良い匂いだった。僕は…僕を、こんなに心配してくれる人もいるんだ、と思うと、不意に涙がこぼれた。
先輩は、僕の無事を確認すると、会社の僕の上司に連絡を入れてくれた。
僕は先輩に、今まで起こった事を全て話した。以前、有香の事や、タルパという存在については話したことがあったので、すぐに理解を示してくれた。それから、精神的におかしくなる前にタルパが消失した事について、否定の感情だけを持ってはいけない、と僕を諭した。少なくとも、2人のタルパを同時に動かし、更にセックスをしたという事は、かなりの精神力を消耗したらしい。なにしろ、3日間も眠っていたのだ。
先輩は、キッチンで粥を作ってくれた。僕は、ようやく自分が空腹である事を確認できた。
「昔の彼女と…」先輩が言った。「最後に連絡を取ったのは、いつ?」
僕は、粥を唇に運びながら、いつだったか、と考えた。
「大学時代に、1回くらいは連絡取り合ったかもしれないですけれど…もう随分前ですね」
「今でも、メールアドレスとかは残ってるの?」
「スマホの電話帳には入ってると思いますけれど、多分、もう使われてないと思います」
先輩は、そっか、と呟いた。
「その後の消息は、何も解ってないんだよね」
先輩の言葉に、僕は首肯した。先輩は、何を詮索しようとしているんだろうか。
「そう考えると、僕の作り出した有香のタルパも、自分勝手な想像に過ぎなかったんでしょうね」
僕が言うと、先輩は黙って頷いた。
「良くわからないけどさ」先輩が言った。「君は、一度、現実の有香ちゃんに会いに行った方がいいんじゃないかな」
え?
「それは…」
僕は、戸惑って言葉を失った。つい先ほど、僕にとっては紛れもない現実であった有香を失ったばかりで、現実世界の有香に会いに行く、なんて発想はなかった。
「私が思うに、君のタルパは、ミコにしろ有香ちゃんにしろ、同一人物だったんじゃないかな…って」
同一人物…?
「どういう意味ですか?」
先輩は、うん、と呟きながら頷いた。
「だって、君の話を聞いていると、はじめに作ったミコのタルパ自体が、有香ちゃんの投影の様に思えるよ。ミコは、その事を知っていたから、有香のタルパが出て来た時に、自分が消える覚悟をしていたんだと思うな」
ああ…。そうか…。
つまり、もともと、僕は自分のコミュニケーションコンプレックスの原点というか、それを克服する端緒を無意識的に有香に置いていたんだ。それを当初からミコに投影していたのが、いつのまにか有香に移行していく中で、2人のタルパを同時に作り出していたのか…。ミコはそれに気づいていたけれど、有香は気づいていなかった、または、気付かない振りをしていた。
僕は、有香のメールアドレスをスマホの電話帳で探し、メールを送ってみる事にした。
第7章のテーマ曲である「そよよ」を、以下のリンクより視聴いただけます。是非、聴いてみてくださいね!
https://www.nicovideo.jp/watch/sm29018796
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