『自称・未来の旦那様』― 運命より、いまを信じたかった ―

だって、これも愛なの。

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社会人編:予知夢が見えなくなった日 ― 未来が見えなくても、君を選び続けたい ―

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駅のホーム。
冷たい夜風にスーツの袖を押さえながら、私はスマホの画面を見つめていた。

「あかり、今日は遅くなる。先に帰ってて」

仕事の連絡が長引いて、
その一言しか、彼からは返ってこなかった。

 

数年前、予知夢を見なくなってから、
私たちは、“ふつうの恋人”になった。

ケンカもするし、すれ違いもあるし、
会いたい日に会えないことも、たくさんある。

未来が見えていた頃より──
ずっと不安で、ずっとリアル。

でも、それでも。

 

帰り道、あの日の言葉を思い出す。

「未来が変わっても、君を好きなことは、変わらないよ」

あの言葉を、もう何度も、私は自分の中で反芻している。

 

* * * 

 

その日、駅の改札を抜けたところで、蓮がいた。

背広の肩には、冷たい風に舞った花びらが一枚。

「……ごめん、遅くなった」

「ううん、大丈夫。来てくれるって、なんとなく思ってた」

 

夢なんて、もう見ていない。
でも、“あなたは来てくれる”と私は信じていた。

 

「ねえ、あかり」

ふたりで歩きながら、蓮がふと口を開いた。

「予知ができなくなってから、怖くなることがあるんだ」

「え?」

「君が、いつかいなくなるんじゃないかって。
前みたいに、なにか見えていれば安心できたのに……って」

私は立ち止まり、彼の手をそっと握った。

「……でも、いまの方が、嬉しいよ」

「どうして?」

「だって、“見えたから”じゃなくて、“信じたいから”って選んでくれてるんでしょ?
私は、信じてくれるあなたが、いちばん好きだよ」

 

蓮の目が、ほんの少し潤んで見えた。

その目が「いまの自分でも、誰かを幸せにしていいんだ」って
やっと信じはじめたように見えて──私も泣きそうだった。

 

未来が見えなくなっても、
ふたりがいっしょにいる理由は、ちゃんとここにある。

 

* * * 

 

帰り道。
夜桜がちらちらと舞う中で、
蓮がふいに立ち止まった。

「ねえ」

「ん?」

「……結婚、しようか」

 

びっくりして振り向いた私に、
蓮はちょっと照れたように笑って言った。

「“未来の旦那様”って、ずっと名乗ってたから。
そろそろ、ちゃんとその未来を、いま作っていきたい」

 

私は──うなずくしか、できなかった。

 

予知夢が見えなくなっても、
未来がどうなるかなんてわからなくても。

ふたりで選ぶなら、どんな今日も、きっと、愛しい。

 

「……やっぱり、君は未来の僕の奥さんだ」

その言葉が、やっと“未来”じゃなく、
“いま”のこととして響いた夜だった。

 

──おわり。
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