『〇〇夜に読む、お伽話の癒し帳』 ― どんな夜も、あなたの心に寄り添う小さな物語 ―

だって、これも愛なの。

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『月明かりに咲く、小さな恋のお伽話』― 優しさに包まれる、可憐な恋の短編集 ―

第二話 ガラス靴ではなく、紅茶を

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 宮殿の大広間では、煌びやかな舞踏会が開かれていた。
 シャンデリアの光が宝石のように散り、絹のドレスが波のように揺れる。

 令嬢クララは少し居心地が悪かった。
 舞踏会は華やかだけれど、人々の視線の渦に酔いそうになる。
 気分を整えようと、隅に置かれたティーセットに手を伸ばした。

 ところが――

「きゃっ……!」
 うっかり手元が狂い、カップを落としてしまった。
 カラン、と鈍い音が響き、床に香り立つ紅茶が広がる。

 慌てて身を屈めるクララの前に、すっと差し伸べられた手。
 それは王子アドリアンのものだった。

「お怪我はありませんか?」
「は、はい……。すみません、私……」

 うつむくクララに、彼は笑った。
 その瞳は、まるで紅茶の琥珀色のようにやわらかい。

「いいえ。むしろ、ありがとう」
「……え?」
「この香り、あなたに似ています。落としたのは靴ではなく紅茶でしたが――私には十分、印象的です」

 クララの頬がふわりと赤く染まる。
 靴を拾うお伽話よりも、ずっと静かであたたかな出来事。

 人々の喧騒の中、ふたりだけが小さな秘密を分かち合ったような気がした。

「では、改めて――次はあなたと一緒に、紅茶をいただきたい」
「……ええ。ぜひ」

 その瞬間、クララの胸の奥に、確かに小さな幸福の灯りがともった。
 舞踏会の光よりもやさしい、誰かに愛されている感覚。
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