『〇〇夜に読む、お伽話の癒し帳』 ― どんな夜も、あなたの心に寄り添う小さな物語 ―

だって、これも愛なの。

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『月明かりに咲く、小さな恋のお伽話』― 優しさに包まれる、可憐な恋の短編集 ―

第四話 湖のほとりで名前を呼んで

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 湖は、夜になると空を映す大きな鏡になった。
 月と星が水面に揺れ、風が吹くたび光がきらめいて広がっていく。

 令嬢セリーナは湖のほとりに立ち、裾を押さえながら静かに息を吐いた。
 昼間のざわめきに疲れたとき、ここだけは心を休められる場所だった。

「……やはり、来ていたのですね」

 背後から声がして振り返ると、青年騎士エリアスが立っていた。
 夜警のはずなのに、なぜかいつも彼女を見つけてしまうらしい。

「騒がしい舞踏会より、静かな湖の方が好きで」
「ええ。……実は私も同じです」

 ふたりは並んで湖を見つめた。
 波紋に揺れる星々は、手を伸ばせば届きそうで、けれどすぐ遠ざかってしまう。

 沈黙がやさしく流れた後、彼がぽつりと言った。

「……セリーナ」

 名前を呼ばれただけなのに、胸が温かくなる。
 湖に映る光よりも、彼の声の方が深く沁みわたっていく。

「もう一度、呼んでいただけますか?」
「セリーナ」
「……ありがとう」

 それは愛の告白でも、誓いの言葉でもなかった。
 けれど、名前を呼び合うだけで「ここにいていい」と伝わる。

 やさしさに包まれた湖畔で、ふたりはただ、静かに時を重ねた。
 月明かりと水面の光が、秘密のようにふたりを守っていた。
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