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悪役令嬢の素顔
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セレスタイン城に来てから、一週間。
朝早くから動き回るスカーレットの姿は、すっかりクラウスにとっての日常となっていた。
「クラウス様、次の回廊の掃除、終わりましたよ。あと、壊れていた燭台の取り換えも済ませました」
「……お嬢様には、何とお礼を申し上げればよいか……」
「いいえ。お礼を言うのはこちらの方です。おかげで毎日退屈しないんですから」
そう言って微笑むスカーレットに、クラウスはふと、亡き主・イリスを思い出していた。
穏やかで、他人を思いやるその所作――
どこか似ている気がして、胸の奥が少しだけ温かくなる。
(……この方が、“悪役令嬢”などと呼ばれる人物には、到底見えませぬな)
クラウスは、胸の内でそう呟いていた。
* * *
夜。
ラファエルは静かにセレスタイン城へ戻ってきた。
冷たい夜風と共に、漆黒のマントを翻し、無言のまま扉を開ける。
ふと気づけば、城の中はいつもよりわずかに明るく、そして――静かだった。
「……ん?」
吹き抜けの廊下、磨かれた大理石の床。
手入れの行き届いた絨毯。
ささやかだが、生花さえ飾られていた。
(……妙に、綺麗だな)
「お帰りなさいませ、ラファエル様」
現れたのはクラウス。
頭を下げながら、どこか誇らしげな笑みを浮かべていた。
「……随分と綺麗になってるな。母さんと暮らした、大事な城だ。……助かる」
「もったいないお言葉でございます。
……ですが、これも私め1人の力では到底及ばぬこと。
スカーレット様が、私の手伝いを申し出てくださったのです」
「……あいつが?」
少しだけ眉を動かしたラファエルに、クラウスは深く頷いた。
「はい。ラファエル様のご命令通り、私なりに監視はしておりましたが、
この一週間、怪しい行動は一切ありませんでした。
むしろ、腰を悪くしている私を気遣い、重いものを運んだり、高所の掃除を進んで……」
「……ふん。嫁いできてすぐだからな。
“性悪の本性”を隠しているだけだ。いずれ尻尾を出す」
そう言い放ち、ラファエルはそのまま階段を上がっていく。
その目には、ほんのわずかに、読み切れない色が浮かんでいた。
* * *
スカーレットの部屋。
薄明かりのランプが灯る中、ドアが静かに開いた。
ラファエルは、音もなく室内に入り、足を止めた。
そこで、目に入ってきた光景に、彼は思わず言葉を失う。
ベッドの上、スカーレットは掛け布団を蹴り飛ばし、
薄手のドレスの裾を無防備に広げ、脚を出して大の字で眠っていた。
しかも――
「……ベッドの半分、落ちかけてるじゃないか」
片脚はすでにベッドの外に垂れ、髪はぐちゃぐちゃ、寝息はややうるさい。
貴族らしい品の欠片もない、爆睡姿だった。
ラファエルはしばし呆然と立ち尽くしたが、
やがてふっと目を細め、ほんの一瞬だけ、息を吐いて笑うような気配を見せた。
(……何者だ、お前)
そのまま踵を返し、部屋を後にする。
閉じられた扉の向こうで、スカーレットは依然として寝返りを打ち、
ベッドから半分ずり落ちたまま、幸せそうに夢を見ていた。
朝早くから動き回るスカーレットの姿は、すっかりクラウスにとっての日常となっていた。
「クラウス様、次の回廊の掃除、終わりましたよ。あと、壊れていた燭台の取り換えも済ませました」
「……お嬢様には、何とお礼を申し上げればよいか……」
「いいえ。お礼を言うのはこちらの方です。おかげで毎日退屈しないんですから」
そう言って微笑むスカーレットに、クラウスはふと、亡き主・イリスを思い出していた。
穏やかで、他人を思いやるその所作――
どこか似ている気がして、胸の奥が少しだけ温かくなる。
(……この方が、“悪役令嬢”などと呼ばれる人物には、到底見えませぬな)
クラウスは、胸の内でそう呟いていた。
* * *
夜。
ラファエルは静かにセレスタイン城へ戻ってきた。
冷たい夜風と共に、漆黒のマントを翻し、無言のまま扉を開ける。
ふと気づけば、城の中はいつもよりわずかに明るく、そして――静かだった。
「……ん?」
吹き抜けの廊下、磨かれた大理石の床。
手入れの行き届いた絨毯。
ささやかだが、生花さえ飾られていた。
(……妙に、綺麗だな)
「お帰りなさいませ、ラファエル様」
現れたのはクラウス。
頭を下げながら、どこか誇らしげな笑みを浮かべていた。
「……随分と綺麗になってるな。母さんと暮らした、大事な城だ。……助かる」
「もったいないお言葉でございます。
……ですが、これも私め1人の力では到底及ばぬこと。
スカーレット様が、私の手伝いを申し出てくださったのです」
「……あいつが?」
少しだけ眉を動かしたラファエルに、クラウスは深く頷いた。
「はい。ラファエル様のご命令通り、私なりに監視はしておりましたが、
この一週間、怪しい行動は一切ありませんでした。
むしろ、腰を悪くしている私を気遣い、重いものを運んだり、高所の掃除を進んで……」
「……ふん。嫁いできてすぐだからな。
“性悪の本性”を隠しているだけだ。いずれ尻尾を出す」
そう言い放ち、ラファエルはそのまま階段を上がっていく。
その目には、ほんのわずかに、読み切れない色が浮かんでいた。
* * *
スカーレットの部屋。
薄明かりのランプが灯る中、ドアが静かに開いた。
ラファエルは、音もなく室内に入り、足を止めた。
そこで、目に入ってきた光景に、彼は思わず言葉を失う。
ベッドの上、スカーレットは掛け布団を蹴り飛ばし、
薄手のドレスの裾を無防備に広げ、脚を出して大の字で眠っていた。
しかも――
「……ベッドの半分、落ちかけてるじゃないか」
片脚はすでにベッドの外に垂れ、髪はぐちゃぐちゃ、寝息はややうるさい。
貴族らしい品の欠片もない、爆睡姿だった。
ラファエルはしばし呆然と立ち尽くしたが、
やがてふっと目を細め、ほんの一瞬だけ、息を吐いて笑うような気配を見せた。
(……何者だ、お前)
そのまま踵を返し、部屋を後にする。
閉じられた扉の向こうで、スカーレットは依然として寝返りを打ち、
ベッドから半分ずり落ちたまま、幸せそうに夢を見ていた。
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