堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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堕天使様の監視日記?

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まさか――スカーレットも、婚姻に同意するなんてね。

白百合のような微笑みを浮かべながら、マリアは優雅にティーカップを揺らす。
けれどその内心では、熱いものが渦巻いていた。

(まるで、自ら敵地に飛び込むようなものよ。
 あの堕天使ラファエルと婚約するなんて――彼女、正気かしら?)

スカーレットにとって、ラファエルは処刑者であり、運命の“終着点”だったはず。
だというのに、その男と結婚するだなんて――

(どこまで、筋書きを変えるつもりなの……)

彼女は、もはやただの悪役令嬢ではない。
本来なら婚約破棄で断罪され、醜態を晒し、死んでいたはずのキャラクター。

それが今や、王族の一人であるラファエルと並んで“未来”を持ってしまった。

(このストーリーでラファエルは、私の最難関攻略対象だったのよ。
 彼が心を許すのは、唯一――“マリア”だけ。そう、私だけのはずなのに)

その確信に、わずかなひびが入り始めている。

(もし……もしも、ラファエルが彼女に情でも抱いたら?)

(まさか、そんなこと――)

マリアの手が、震えるティーカップをそっと置く。

だがすぐに、彼女はほほ笑んだ。

「ふふ……あなたは今、セレスタイン城で“軟禁”されている身。
街へは、そう簡単に出てこられない」

ならば――

(あなたがいない間に、“あなたの悪行”を広めておけばいい)

(たとえば――
“ラファエル様に隠れて私に嫌がらせをしていた”とか。
“脅迫めいた手紙を送ってきた”なんて噂が流れれば……)

(あなたには、悪役令嬢で居てもらうの。過去も、現在も、未来も全部――)

「あなたの名前は、“悪”でなければ似合わないもの」

* * *

セレスタイン城の午後。
誰もいないはずのスカーレットの私室に、かすかな異音が響いた。

「……ん?」

棚の上に飾っていた小さな花瓶を手に取ろうとしたその瞬間。
背後の壁に、カツンと軽い金属音が鳴る。

(今の、何……?)

振り返ると、壁の装飾の一部がほんの少しだけズレていた。
不審に思いながら近づき、手で押すと――カチリ、と内部の機構が外れる音がする。

「……隠し、扉?」

中から出てきたのは、黒く光る不気味な球体――小型の魔道具だった。

「これって、まさか……!」

動揺を抑えながら、球体を手に取る。
魔力の残滓が微かに揺れ、スカーレットの顔が強張る。

「監視用の魔眼……しかも録画機能付き……」

さらに裏面には、王宮魔導技術局の刻印。
ここまでくれば、もう言い逃れようがない。

スカーレットの目が、ぐるぐると泳ぎ始めた。

「ってことは……これ……毎日、私の部屋を映してたってことよね……?」

「…………」

「え……この角度……って、ちょっと待って……!」

彼女は慌ててベッドにダイブし、そこから見える“魔眼の視界”を再確認する。

「……ば、バカな……!」

がばっと跳ね起きて叫ぶ。

「この角度……毎朝の寝癖チェックまでされてたってこと!?」

「ぎゃーーーーーッッ!!」

顔を真っ赤にして転げ回るスカーレット。
今さら気づいた羞恥心に、全身が沸騰するようだった。

「……し、信じられない……あの冷血堕天使、何考えてんのよ……!」

* * *

一方その頃――
城の最奥、私室の一角に設けられた“監視魔眼リンクルーム”にて。

ラファエルは、無表情で魔眼の映像を眺めていた。
正確には、眺め“てしまっていた”。

(……なんだこの女。無防備すぎるだろう)

画面の中、スカーレットはまたベッドの上で丸くなって寝転び、髪を振り乱して寝言を呟いていた。

「……ぶふ……べ、べ、紅茶飲みたい……ぅうん……クラウス様ぁ……」

(……)

(……防犯のためだ。あくまで“監視”だ。間違っても楽しんでなどいない)

なのに、なぜだろう。

毎朝、無意識に視線がこの魔眼の映像へ向かってしまう。
昼も、ふとした瞬間に再生履歴を確認してしまう。

(馬鹿馬鹿しい……)

小さく舌打ちし、椅子から立ち上がるラファエル。
だが、その背中はどこか落ち着きなく、名残惜しそうだった。

「……見てなどいない」

「……本当に見ていない」

そう呟く声が、かえって虚しく響いていた。

――この監視という名の“奇妙な日課”が、
いつしか彼の心に小さな習慣として根づき始めていることに、ラファエルはまだ気づいていなかった。
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