堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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婚約式への招待

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「婚約式?」

昼下がりのセレスタイン城。
スカーレットは、居間で紅茶を手にしながら宣言した。
その正面、ソファに浅く腰掛けているラファエルは、眉をひそめ、面倒そうにため息をつく。

「…わざわざ、服なんか選ばなくてもいいだろう。手持ちのもので充分だ」

「ダメですわ。式典ですもの、服は大切ですわ。場の空気を乱さないのも礼儀ですのよ!」

めずらしくスカーレットが声を強めると、ラファエルは一瞬だけ瞠目し、それから視線を逸らした。

「……ああ、分かったよ。お前がどうしてもって言うならな」

その一言に、スカーレットの頬がわずかに赤らむ。

(ちゃんと話を聞いてくれるようになった……前とは違うのね)



そして数日後――

仕立て屋が城に呼ばれ、仮設のフィッティングルームが作られた。
部屋には艶やかなドレスと、複数の燕尾服が並んでいる。

「うわぁ……」
スカーレットは、夢見るように淡い紫のドレスを手に取る。
シフォンとレースが月光のように透け、袖口には銀糸で花の刺繍が施されている。

「似合うと思うぞ」
不意に後ろから声がして、スカーレットの心臓が跳ねた。

振り返ると、ラファエルが自分よりわずかに近い距離に立っていた。
彼の紅い瞳が、ほんの少し和らいでいるように見えた。

「……そう? なら、これにしようかしら」

「…俺のは、どれでもいい。着るだけだ」

「ダメ。貴方はスタイルが良いんですもの、似合う色を選ばないと勿体ないわ」

そう言って、彼のすぐそばまで歩み寄る。
無造作にかけられた濃紺の燕尾服を、スカーレットは手に取り、彼の肩に当ててみた。

「……っ、近い」

「え?」

「いや、なんでもない」

ラファエルが微かに顔を背ける。
普段は冷静で無表情なはずの彼の耳が、少しだけ赤く染まっているのをスカーレットは見逃さなかった。

(……今、照れた? 嘘、可愛い……)

「これ、とっても似合ってるわよ」

そう笑うと、ラファエルは少しだけ目を伏せて、ポツリとこぼした。

「……ありがとう」

その声は、どこか照れくさそうで。
けれど確かに、心からの言葉だった。

気まずいはずのティータイムから一転、今はこうして少しずつ、少しずつ、距離が縮まっていく。
その変化に、スカーレットはそっと微笑んだ。

***

婚約式前日。
試着を終えた二人は、支度部屋に併設された広間に立っていた。

「……じゃあ、準備ができたら出てきてね」
「……ああ」

仕切りで分かれた部屋の左右に、それぞれの着替えスペース。
緊張しながらドレスを着せられたスカーレットは、鏡の前でふわりとスカートを揺らす。

(大丈夫、ドレスはちゃんと選んだ。落ち着いて、落ち着いて……!)

一方のラファエルも、仕立て屋の手を借りながら燕尾服の裾を直されていた。
紺色の生地が肩幅に沿ってぴたりと馴染み、立ち姿に威厳すら感じさせる。

(……スカーレットに、変なふうに思われないだろうか)

互いに落ち着かないまま、それでもやがて「いいですよ」という声に促され、二人は同時に仕切りを出る。

目が合った瞬間――静止。

スカーレットの、淡い紫のドレス。
それはまるで月光をまとったかのように柔らかく、繊細なレースが白い肌を上品に際立たせていた。

ラファエルの紅い瞳が、ほんの僅かに見開かれる。

「……綺麗だ」

思わず漏れた言葉に、スカーレットは一瞬きょとんとした。

「なっ……!」

すぐさま頬が赤く染まり、慌ててドレスの裾を掴んでうつむく。

「そ、そんな急に言わないでくださいましっ」

「いや……ただ、似合ってると思っただけだ」

ラファエルも、わずかに頬を赤くして目を逸らす。

「……貴方の方こそ」

「ん?」

「すごく、格好いいですわよ」

その言葉に、ラファエルの耳がほんのり赤く染まった。

「……そうか」

会話はぎこちない。目を合わせればどちらかが逸らす。
だがその空気は、以前のような緊張や敵意ではない。

まるで、ほんの少しずつ歩幅を合わせていくような――優しい空気だった。

「……もう少しで、婚約式ですわね」
「……ああ、行くか。二人で」

肩を並べて歩き出した背に、仕立て屋の老婆がぽつりと漏らす。

「……まるで、ほんとうの夫婦みたいね」

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