堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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王妃の微笑み、真実の影

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セレスタイン城・図書室。

朝早くから陽光が差し込む静かな部屋に、スカーレットの緊張した声が響いた。

「……犯人は、カリオス王の正妃、ヴィラベラ様の可能性があります」

報告を受けたジルベールは、数秒の沈黙ののちにゆっくりと目を細めた。
その視線は、いつものように冗談交じりではない。鋭く、洞察の眼差しだ。

「……やっぱり、気づいたか。君ならそう来ると思っていたよ」

「え?」

「この国の王族の中で、太陽の力を“持たず”、それでも使える女性なんて限られてる。
君が王族の家系図に目を通したなら、いずれ辿り着くはずだと、思っていたんだ」

ジルベールはテーブルにあった紅茶に手を伸ばしながら、静かに言った。

「カリオス王と婚姻を結んだことで得られた“微弱な太陽の力”……それが、ラファエルを襲うに足る力になるとは思わなかったが……短剣にその力を纏わせて刺すことで、可能だと考えたのかもしれないね…。」

スカーレットは唇を噛みしめる。

「でも、分からないのは“なぜ”です。
なぜ、ラファエル様を狙ったのでしょう?
ヴィラベラ様が彼を憎む理由なんて……何もないはず」

「……表面上は、ね」

ジルベールの声音が少しだけ低くなった。

「王妃の役割は、“完璧な象徴”であること。
民の前では慈悲深く、美しく、王の傍に立つ存在でなければならない。
だが――裏では、誰よりも“玉座に近い存在”として政治に関与することもできる」

「つまり……彼女には“見えない権力”があると?」

「そういうことだ。
だが、その立場を脅かす存在が現れたら……どうすると思う?」

ジルベールは机に肘をつき、指先で軽く顎をなぞる。

「ヴィラベラにとって、息子であるセシル王子が“唯一の正統な後継者”だ。
しかしラファエルは、廃太子でありながら、依然として民からの支持がある。
しかも……」

彼の言葉がふと、止まる。

(しかも……?)

スカーレットはその続きを問おうとしたが、ジルベールは首を振った。

「いや、まだ断定できる材料はない。だが、可能性として……
ラファエルが“王位を脅かす存在”になりうると、彼女が判断したのなら――
排除しようと考えても、おかしくはない」

「……でも、それなら尚更……直接的な方法ではなく、もっと違う手段が……」

「“婚約式で殺そうとした”ってのが妙だろう?」

ジルベールは椅子から立ち上がり、窓の外を見つめた。

「ラファエルが参加した婚約式……それ自体が、彼女にとっては許せない儀式だったのかもしれない。だからこそ、あの日を選んだ」

「……!」

スカーレットは思わず自分の胸に手を当てた。
彼と自分が参加したマリア様とセシル王子の婚約式。

(あのとき……あんなことがなければ……)

「怒り、嫉妬、恐れ……何が動機かはまだ見えてこない。
だが、犯行の“意志”は確かにあった。それだけは間違いない」

ジルベールの言葉は静かだったが、そこには鋭い断定の色が滲んでいた。

「……僕は、ヴィラベラの過去を調べてみる。
彼女が“ラファエルを消したいと思った理由”を」

「では、私は……王妃様の周囲を探ります。
あの方の言動に、不審な点がなかったか。関係者に聞き取りを」

二人は目を合わせ、軽く頷き合った。

すでに、この謎は“ただの刺傷事件”ではない。
王宮を揺るがす陰謀が、その背後でひっそりと口を開けている。

そして、その中心に立つ者の名は――

ヴィラベラ。

スカーレットの中にある決意は、もう揺るがなかった。

「――真実は、私が暴きます。どんな形であろうとも」

ジルベールは、そんな彼女の横顔に小さく微笑む。

「心強い探偵嬢だね、君は。さて……真相はどこに隠れているのかな」
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