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悪役令嬢と魔王様の捜査
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ー魔王の執務室・夜
分厚いカーテンが音もなく揺れ、夜風がひんやりと入り込む。
机の上には、王城の見取り図と、事件の現場となった礼拝堂の配置図。スカーレットとジルベールが向かい合い、沈思黙考していた。
「――つまり、ラファエルを背後から刺すことができて、かつ太陽の力を持つ者……となると、犯人像は限られてくるね」
ペンを回しながら、ジルベールが呟いた。
スカーレットは口元に指を添えたまま、真剣な瞳で図を見つめる。
「やはり……セシル王子でしょうか。
ラファエル様のことを、あまりよく思っていませんでしたし……魔族との関係も警戒していた。動機は十分にありますわ」
「ふむ、それも一理ある」
ジルベールがペンを止め、ちらりとスカーレットを見る。
「だが、そうとも言い切れない。
セシル王子は“ソル・レガリア”の力をカリオスから直属に受け継いでいる。あの力があれば、短剣なんて使わなくてもラファエルと正面から戦えるはずだ」
「……つまり、短剣で刺すなんて、そんな回りくどいことをする必要がない?」
「その通り」
彼はにやりと笑った。
「短剣を使うという手段を選んだ時点で――」
「太陽の力があまり強くない人!」
「――正解だ、スカーレット嬢」
スカーレットの声に即座に応えるジルベールの瞳は、どこか楽しげだ。
「太陽の力が弱い者ほど、力を刃に纏わせて直接攻撃する必要がある。つまり――短剣を使った理由は、自分の力では一撃で倒せないことを知っていたからだ」
「……となると、太陽の力が弱い王族。候補は……」
「しかも、短剣を使うということは、男性だけじゃない。女性の王族も含まれる」
「女性も……?」
「そう。力を使わず、背後から短剣で一突き――それなら、訓練されていない女性であっても可能性はある。むしろ、誰にも怪しまれず近づけるのは、そういった立場の者かもしれないね」
「確かに……そうですわね」
スカーレットは頷きつつ、ふとジルベールを盗み見る。
(この人……人を見抜く能力に長けてて、あんまり得意じゃないけど……推理力とか洞察力は、本当にすごいのよね……)
「王宮に立ち入れて、不意を突いてラファエル様を刺せる王族の女性……」
ジルベールが指を折りながら、名前を思い浮かべるように目を伏せた。
「候補はいる。そう多くはない」
「では……一体誰なのですか!?」
スカーレットが思わず前のめりになって尋ねると、ジルベールはくすりと笑った。
「――それを考えるのが、君の仕事だよ。スカーレット嬢?」
挑むような、試すような、意地悪な笑み。
けれどそこには、確かに一人の“対等な仲間”としての信頼が、滲んでいた。
***
セレスタイン城の夜。
ろうそくの灯りだけが揺れる静かな部屋。
机の上には王族の家系図を模写した紙が何枚も広げられ、そこにスカーレットの筆跡が細かく記されていた。
「女性の王族で……太陽の力《ソル・レガリア》が使える人……」
呟きながら、ペンの先で何度も家系図の人物をなぞる。
(ゲームの中でも女性の王族はほとんどストーリーに出てこなかった。登場すらしていない人もいるくらい。そんな人が、ラファエル様をあんな目に……?)
彼を襲った犯人。
ラファエルの命を奪いかけた者。
その顔を見ていないのが悔しい。
ラファエルのためにも、絶対に見つけ出したい。
「……太陽の力が使える女性、ね……?」
スカーレットはふと、昔の記憶を辿った。
――セシル王子の婚約者だったころ。妃教育の一環で、講師から聞いた話。
『王族の女性が太陽の力を得るためには、王族の“太陽の継承者”と婚姻関係を結ばなければならない。
だがその場合、与えられる力は微量。直接の継承者には到底及ばない』
(つまり……)
スカーレットの手が止まる。
家系図の端に、美しい流麗な筆記体で記された名前。
「……ヴィラベラ様……?」
ーーカリオス王の正妃にして、セシル王子の実母。
「女性で、太陽の力を使える人物……。
ソル・レガリアを直接持たない女性で、なおかつ、王宮に自由に出入りできる人物……」
「――まさか、王妃様……あなたが……?」
背筋にひやりとしたものが走った。
誰よりも王家を体現する存在が、まさか、王家を裏切るような真似を――?
スカーレットはそっとペンを置き、深く息をついた。
「……ジルベール様に、報告しなければ……」
それでも、心の奥にかすかに残る“違和感”。
本当に、ただそれだけが動機だったのか。
国母と呼ばれるような女性が、なぜラファエル様を――?
今、明かされていく“王宮の闇”。
そしてスカーレットは、気づいていなかった。
この推理の果てに、さらに大きな陰謀が潜んでいることを――。
分厚いカーテンが音もなく揺れ、夜風がひんやりと入り込む。
机の上には、王城の見取り図と、事件の現場となった礼拝堂の配置図。スカーレットとジルベールが向かい合い、沈思黙考していた。
「――つまり、ラファエルを背後から刺すことができて、かつ太陽の力を持つ者……となると、犯人像は限られてくるね」
ペンを回しながら、ジルベールが呟いた。
スカーレットは口元に指を添えたまま、真剣な瞳で図を見つめる。
「やはり……セシル王子でしょうか。
ラファエル様のことを、あまりよく思っていませんでしたし……魔族との関係も警戒していた。動機は十分にありますわ」
「ふむ、それも一理ある」
ジルベールがペンを止め、ちらりとスカーレットを見る。
「だが、そうとも言い切れない。
セシル王子は“ソル・レガリア”の力をカリオスから直属に受け継いでいる。あの力があれば、短剣なんて使わなくてもラファエルと正面から戦えるはずだ」
「……つまり、短剣で刺すなんて、そんな回りくどいことをする必要がない?」
「その通り」
彼はにやりと笑った。
「短剣を使うという手段を選んだ時点で――」
「太陽の力があまり強くない人!」
「――正解だ、スカーレット嬢」
スカーレットの声に即座に応えるジルベールの瞳は、どこか楽しげだ。
「太陽の力が弱い者ほど、力を刃に纏わせて直接攻撃する必要がある。つまり――短剣を使った理由は、自分の力では一撃で倒せないことを知っていたからだ」
「……となると、太陽の力が弱い王族。候補は……」
「しかも、短剣を使うということは、男性だけじゃない。女性の王族も含まれる」
「女性も……?」
「そう。力を使わず、背後から短剣で一突き――それなら、訓練されていない女性であっても可能性はある。むしろ、誰にも怪しまれず近づけるのは、そういった立場の者かもしれないね」
「確かに……そうですわね」
スカーレットは頷きつつ、ふとジルベールを盗み見る。
(この人……人を見抜く能力に長けてて、あんまり得意じゃないけど……推理力とか洞察力は、本当にすごいのよね……)
「王宮に立ち入れて、不意を突いてラファエル様を刺せる王族の女性……」
ジルベールが指を折りながら、名前を思い浮かべるように目を伏せた。
「候補はいる。そう多くはない」
「では……一体誰なのですか!?」
スカーレットが思わず前のめりになって尋ねると、ジルベールはくすりと笑った。
「――それを考えるのが、君の仕事だよ。スカーレット嬢?」
挑むような、試すような、意地悪な笑み。
けれどそこには、確かに一人の“対等な仲間”としての信頼が、滲んでいた。
***
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ろうそくの灯りだけが揺れる静かな部屋。
机の上には王族の家系図を模写した紙が何枚も広げられ、そこにスカーレットの筆跡が細かく記されていた。
「女性の王族で……太陽の力《ソル・レガリア》が使える人……」
呟きながら、ペンの先で何度も家系図の人物をなぞる。
(ゲームの中でも女性の王族はほとんどストーリーに出てこなかった。登場すらしていない人もいるくらい。そんな人が、ラファエル様をあんな目に……?)
彼を襲った犯人。
ラファエルの命を奪いかけた者。
その顔を見ていないのが悔しい。
ラファエルのためにも、絶対に見つけ出したい。
「……太陽の力が使える女性、ね……?」
スカーレットはふと、昔の記憶を辿った。
――セシル王子の婚約者だったころ。妃教育の一環で、講師から聞いた話。
『王族の女性が太陽の力を得るためには、王族の“太陽の継承者”と婚姻関係を結ばなければならない。
だがその場合、与えられる力は微量。直接の継承者には到底及ばない』
(つまり……)
スカーレットの手が止まる。
家系図の端に、美しい流麗な筆記体で記された名前。
「……ヴィラベラ様……?」
ーーカリオス王の正妃にして、セシル王子の実母。
「女性で、太陽の力を使える人物……。
ソル・レガリアを直接持たない女性で、なおかつ、王宮に自由に出入りできる人物……」
「――まさか、王妃様……あなたが……?」
背筋にひやりとしたものが走った。
誰よりも王家を体現する存在が、まさか、王家を裏切るような真似を――?
スカーレットはそっとペンを置き、深く息をついた。
「……ジルベール様に、報告しなければ……」
それでも、心の奥にかすかに残る“違和感”。
本当に、ただそれだけが動機だったのか。
国母と呼ばれるような女性が、なぜラファエル様を――?
今、明かされていく“王宮の闇”。
そしてスカーレットは、気づいていなかった。
この推理の果てに、さらに大きな陰謀が潜んでいることを――。
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