堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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笑顔の奥に棘を隠して

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午後の柔らかな陽光が、王宮の薔薇園に射し込む。咲き誇る花々のあいだ、白銀のティーセットがきらりと光る音を立てた。

「ようこそいらしたわね、マリア様。お茶はお好きだったかしら?」

優雅に微笑むヴィラベラ王妃。その佇まいは、まさに“慈悲深き王妃”の仮面そのものだった。

「ええ、とても。王妃様が点ててくださるお茶ですもの、香りも味も格別ですわ」

天使のように微笑むマリアもまた、笑顔の下に冷たい駆け引きを隠していた。

ひとしきり和やかな会話が交わされた後、マリアはそっと瞳を伏せ、カップを置く。

「……婚約式の裏で、ラファエル様が刺された件。王宮内で処理されたそうですね?」

「……ええ。カリオス陛下の命で、すべて水面下で処理されました」

ヴィラベラは笑みを崩さずに答える。だが、その笑顔の奥にある冷ややかな視線を、マリアは見逃さなかった。

「もしや、あの件……王妃様が関与しているのでは、と噂する者もいますわ」

「まぁ……怖い噂話ね。でも私がそんな物騒なことをするように見えるかしら?」

「いいえ。慈愛に満ちた王妃様に限って……でも、もし“必要な犠牲”があるとすれば?」

二人の視線が静かに交差した。

「貴女も、必要な犠牲を厭わない方でしょう? 聖女様」

「はい。誰かのためではなく、“私のため”に、ですが」

カップの中の紅茶が揺れ、マリアの表情が一瞬、艶めいたものに変わる。

「最近のスカーレット嬢の活躍、目を見張るものがありますわね。騎士たちや民にも受け入れられ始め……正直、少々厄介な存在ですわ」

静かながらも確かな決意がその声に宿っていた。

「スカーレット嬢がラファエル様の側にいればいるほど、彼を殺すのは容易ではありませんよ? 彼女は、おそらく彼を愛している。だからこそ、自分の身を顧みず、彼を助けようとするでしょうね」

マリアの指がゆっくりとカップを回す。

「それに……魔王であるジルベール殿下に気づかれたら厄介です。あの方には、誤魔化しというものが通じませんから」

「ふふ……ジルベール殿下、確かにああ見えて鋭い方ですものね」

ヴィラベラは目を細めた後、ゆっくりと立ち上がった。

「……貴女の提案、面白いと思いますわ。スカーレット嬢を地獄のどん底に落とす——その計画、協力させていただきますわよ。聖女様」

「光栄ですわ、王妃様」

紅茶の香りがほのかに香る薔薇園に、ふたりの“笑顔の悪女”の共謀が静かに結ばれた。

それは、誰も知らぬ闇の幕開けだった。
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