堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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君を助けに

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セレスタイン城、ラファエルの部屋。
朝日の残り香も消え、薄暗い書斎にひとり立つ堕天使は、手元の報告書を握り締めていた。

「……おかしい。スカーレットの名が、王の命令に上がっている……?
そんな馬鹿な……」

眉間に深い皺を寄せ、ラファエルは報告書を机に叩きつける。
そこには、ありもしない罪でスカーレットを断罪せよという王の命令が記されていた。
文章の端々からは、ヴィラベラ王妃とマリアの影も見え隠れしている。

(……俺が気づかなかったら、スカーレットは……)

彼の胸に、初めてと言ってもいいほどの焦燥が走った。
普段は冷酷無慈悲と言われる堕天使だが、今の目はただひとつ、スカーレットを守るために光っている。

「……よし。誰にも知られず、秘密裏に動くしかない」

ラファエルは、牢獄の位置、護衛の巡回ルート、王宮の建築構造を頭の中で整理する。
一歩でも間違えば、スカーレットの命は一瞬で消えてしまう。
だが、その危険すら、彼の覚悟を揺るがせることはなかった。

「……スカーレット。俺が必ず、お前を助け出す……」

その声は低く、誰にも届かないほどの囁きだったが、闇夜に響くその決意は、まるで雷のように確かだった。

ラファエルは静かに扉を開け、暗闇に溶けるように廊下へと足を踏み出す。
監視の目を逃れ、影と化した彼の存在は、まるで王宮そのものを支配しているかのようだった。

「……時間との勝負だ。スカーレットの命は、俺の手にかかっている」

冷たい夜風が廊下を吹き抜ける。
ラファエルの黒いコートが揺れ、堕天使の影が壁に長く伸びる。
その瞳には、ただひたすらスカーレットを救うという強い意志だけが宿っていた。

闇夜に走る影――
それは、絶望の牢獄の中にある小さな希望に、光を届けるための足音だった。

***

牢獄の薄暗い空間。
鉄格子の向こうに座るスカーレットの肩が微かに震える。

「……そろそろ、やるしかないわね」

息を整え、スカーレットは仮死状態を作るための呼吸法を思い出す。
だが、その直前――鉄の扉が音もなく開き、闇の影が滑り込んできた。

「お前を助けに来た。早く逃げるぞ」

驚きでスカーレットは目を見開く。ラファエルが、ここに――しかも、顔に焦りの色を見せず、普段通り冷静なまま立っている。

「……ラファエル様は私が無実だと信じてくださるのですね。ですが、待ってください。このまま逃げたら、貴方まで私と同じ罪人になってしまいますわ」

「そんなの気にしない。もともと俺は闇属性の力を持っているというだけで、罪人のような扱いをされるしな」

スカーレットは一瞬、胸の奥が熱くなるのを感じた。彼は、ためらいも恐怖も見せずに、自分を守るためにここまで来てくれたのだ。

「ラファエル様……私、いい案を思いつきましたの。あまり使いたくない手ではありますが、緊急事態ですので使います」

「……?」

「仮死状態になって牢から出るのです。そして、仮死状態の私を連れてセレスタイン城まで帰ってほしいのです」

ラファエルの瞳が一瞬、鋭く光った。

「仮死状態? 本気で言ってるのか? 死んでしまう可能性だってあるんだぞ?」

「分かっています。ですが、こうするしか手段はありません」

ラファエルは深く息を吐き、肩を緩める。

「……はぁ。分かった。お前がそこまでいうなら、協力する」

スカーレットは小さく頷く。
心臓の奥で、恐怖と期待が入り混じる。
そして二人の間に、言葉では言い表せない信頼と覚悟が静かに流れた。
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