堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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聖女マリアの逆襲

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ラファエルが戻ってきたのは、夕刻だった。
スカーレットはその姿を見つけるなり駆け寄った。だが、彼の口から放たれたのは、胸を抉るほど冷たい言葉だった。

「……俺は、マリアの護衛に任じられた。これからは王宮に詰めることが増える。セレスタイン城に戻ることも、ほとんどないだろう」

淡々としたその声には、かつての温もりも、情熱もなかった。
ただ事実を突きつけるように、冷たく、突き放すだけ。

「……どうして? ラファエル様……?」

喉の奥から絞り出した声は、か細く震えていた。
――もう、貴方には私は必要ないの?

だが、問いかけは虚しく空気に溶けるだけで、彼の背中に届くことはなかった。
スカーレットの頬を伝う熱は、次から次へと零れ落ち、止めることはできない。

その瞬間だけは、世界のすべてが崩れ去っていく感覚に呑まれ、胸の奥が裂けるように痛んだ。

だが――。

瞼を閉じた闇の中、あの悪夢の光景が鮮烈に甦る。
黒い涙を流し、ジルベール殿下を自らの手で殺めたラファエル。
絶望の果てに暴走するダスクファング。
そして、自ら命を絶った彼の最期の姿。

「……っ!」

スカーレットは胸を押さえ、呼吸を荒げた。
――あれはただの夢ではない。未来の予兆だ。
このままでは、彼は破滅へと進んでしまう。

「……ダメよ」

頬の涙を拭い去り、震える唇を噛み締める。
喉の奥から漏れる声は、先ほどまでの弱音ではなく、烈しい決意に満ちていた。

「彼が闇に呑まれるくらいなら……私が、命を賭けてでも止める!」

両の拳を固く握り、胸に押し当てる。
愛しているからこそ、彼を失わせない。
たとえそのために自分が消えようとも――。

「……たとえ、私が死んでも……ラファエル様だけは……守ってみせる」

その誓いは、涙に濡れた瞳に鋭い光を宿し、静かに燃え続けていた。
誰にも見えなくても、誰に理解されなくても、彼を救えるのは自分しかいない。

――絶対に、誰にもラファエルを奪わせはしない。

***

スカーレットは静かに気配を殺し、石柱の陰から広場を見つめていた。
ラファエルを守るため――ただ、それだけの理由で、こうして彼の行動を監視している。
だが、目に入ってしまうのは望まぬ光景ばかりだった。

ふと、マリアが手にしていたハンカチを落とす。
それにいち早く気づいたのはラファエルだった。
彼は無言で身をかがめ、白い布を拾い上げ、マリアへと差し出す。
マリアは小さく礼を言い、可憐に微笑んだ。

その笑みに、ラファエルの口元がわずかに緩む。
――ほんの一瞬の、柔らかな微笑み。
それは本来なら自分だけが知っているはずの表情で。
スカーレットの胸に、鋭い痛みが走った。

「……っ」

喉の奥が詰まり、涙がこみ上げる。
指先を握りしめなければ、今すぐにでも泣き崩れてしまいそうだった。

――違う。彼はそんな人じゃない。
あの優しい眼差しは、洗脳に絡め取られた偽物のもの。
本物のラファエルは、私を誰よりも大切にしてくれたはず。

必死に自分に言い聞かせ、唇を噛み締める。
彼を信じることをやめたら、もう彼を救うことなんてできない。
だから――たとえ胸が張り裂けそうでも、信じ続けるしかないのだ。

けれど。

監視の場を離れた後でさえ、ラファエルの態度は日に日に冷えていった。
声をかけても、返事は素っ気なく短い。
差し出した手を、まるで気づかないかのように避けられる。
以前なら当たり前のように気づいてくれた小さな変化にも、もう彼は振り向かない。

「……ラファエル様……」

掠れた声は届かず、彼はただ冷たい横顔を見せるだけだった。
それでも――。

スカーレットは涙を拭い、心の奥に小さな炎を宿す。
彼を信じることをやめない。
例え世界中が彼を見限っても、私だけは決して。
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