堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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離縁状

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数週間ぶりに、ラファエルがセレスタイン城へ戻ってきた。
けれど、その手に握られていたものを見た瞬間――スカーレットの胸は締め付けられる。

それは、一枚の羊皮紙。
赤い封蝋が無惨に割られた、それは――離縁状だった。

「……これは……」
掠れた声が震える。

ラファエルは冷ややかな表情のまま、言葉を放った。

「俺とお前は結ばれるべきではない存在だったんだ。
マリアの護衛となった以上、悪女と名高いお前と夫婦としてやっていくことはできない。
離縁状にはすでに俺の署名がある。あとはお前の名を書くだけだ。」

淡々とした声音。
まるで心から切り離された存在であるかのように――冷酷な響き。

スカーレットの視界が滲む。
手元の紙がぼやけ、涙が次々と溢れ落ちていく。

「……ラファエル様……」
喉の奥からこぼれた声は、風に掻き消されそうに細く弱い。

――彼は本当に、私と別れたいの?
――もう、私は必要ないの?
――……別れた方が、彼は幸せになれるの……?

胸の奥に鋭い刃を突き立てられるような痛み。
けれど、それでもスカーレットは両手で紙を押さえ、必死に涙を拭った。

「……まだ、迷っています。
どうすべきか……私には結論を出せません。
だから……お願いです。せめて、もう少しだけ……待っていただけませんか?」

声は震えていた。
けれどその瞳は、必死に彼を見上げて縋っていた。

一瞬――ラファエルの紅の瞳が揺れた。
だが、すぐに冷たい氷で覆われたかのように無機質な光を宿す。

「……待つことは構わない。だが、勘違いするな。
お前を愛することは――決してない。」

突き放すように、言葉は鋭く響いた。

ラファエルは背を向け、そのまま部屋を去っていく。
伸ばしかけた手は空を切り、スカーレットの頬を熱い涙が伝った。

残されたのは、机の上に置かれた一枚の離縁状と――
まだ答えを出せない、自分自身の揺れる心だけだった。

***

静まり返った自室。
蝋燭の炎が揺れ、机の上に置かれた羊皮紙が淡く照らされている。

それは――離縁状。
彼の名がすでに記されたそれを前に、スカーレットはただじっと見つめていた。

胸の奥が張り裂けそうに痛む。
涙は止めどなく零れ、紙に落ちて小さな染みを作っていく。

「……私が、そばにいて……彼は幸せなのかしら」

震える声で、自分に問いかける。
答えは、出ている。

――ゲームの中では、ラファエル様は最後までマリア様を想っていた。
――死ぬその瞬間まで、一途に。
――そんな彼の心に入り込んだ私は……ただの邪魔者だったのかもしれない。

胸を締め付ける現実。
彼にとっての幸せは、自分ではなく――マリア。

「……彼を、不幸にしてまで……そばにいたいなんて……」
それは、ただの我儘。
そんな我儘で、大切な彼を縛りつけることなんてできない。

スカーレットは震える指先で羽ペンを取り、羊皮紙に視線を落とした。
涙で滲む視界の中に、彼の名の隣に自分の名前を書き添える。

ペン先が走る音が、やけに冷たく響いた。

「……ラファエル様……」

頰を伝う涙を拭おうともせず、スカーレットは微笑みに似た歪みを浮かべる。

「……貴方と婚約者でなくなっても……私の気持ちは変わらない。たとえ傍に居られなくても……私は貴方を守る」

震える声は、まるで誓いのように夜へ溶けていく。

やがて蝋燭の炎が細く揺れ、影が広がっていった。
その闇の中で――彼女の決意だけが、なおも静かに燃え続けていた。
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