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操り人形
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王宮の回廊は静まり返り、夜の灯火が冷たい影を壁に落としていた。
スカーレットは小さな封筒を胸に抱きしめるように握りしめ、震える吐息を押し殺しながら歩いていた。
――例えこの再会が最後になったとしても、この離縁状は私が自分の手で渡さなければならない。
それが彼と結ばれた者の責務だと、そう思ったのだ。
だが、足を進めるうちに、不意に耳にした声が彼女の心を切り裂く。
「聖女マリア様と護衛のラファエル様は恋仲だそうよ」
「まぁ、セピア王子との婚姻を破り、彼と結婚なさるのではなくて?」
「悪女スカーレット公爵令嬢とは釣り合わないものね……」
笑い交わす侍女たちの囁きに、スカーレットはその場に立ち尽くした。
胸の奥が、じくじくと痛む。
――ああ、やっぱり……もう、本当に彼には私は必要ないのね。
唇を噛み締め、拳を固く握る。
その刹那、廊下の先を歩く二人の姿が視界に映った。
白いドレスを揺らしながら歩く聖女マリア。その後ろを、静かに護衛として従うラファエル。
「……ラ、ラファエル様!」
思わず声が漏れた。
二人の背が同時に振り返る。紅色の瞳が見開かれた。
「お前が……なぜここに!? まさか……マリアに何かするつもりか!?」
「そ、そんなつもりはございませんわ!」
必死に首を振り、胸に抱いた封筒を差し出す。
「私は……これを、貴方に渡したかっただけですわ」
ラファエルは怪訝そうに眉を寄せ、それを受け取る。
中から現れたのは、一枚の離縁状――そこには、スカーレット自身の署名も揺らめく文字で記されていた。
その瞬間、ラファエルの呼吸が乱れる。
――なぜだ。
なぜこんなにも、胸が張り裂けそうに痛む?
この手を離したら、取り返しのつかない後悔が待っている……そんな直感に心が押し潰されそうになるのは、なぜだ!?
手が震える。言葉が出ない。
だが、すぐ傍らから甘く柔らかい声が響いた。
「ねぇ、ラファエル様……」
マリアが静かに彼の腕へと指先を添える。
その声は、彼の耳の奥深くまで浸透していくように響いた。
「この世の悪はスカーレットなのよ。彼女は私を殺そうとした……恐ろしい女」
「……!」
「お願い……私を守って。私の騎士様なら、わかるでしょう?
さぁ――彼女を、殺して」
一陣の冷たい風が廊下を吹き抜けた。
ラファエルの瞳が揺らぎ、黒い影のような靄がその奥に滲み出す。
「……スカーレット……」
彼の手が、剣の柄にかかる。
きぃん、と冷たい音を立て、刃が鞘から抜き放たれた。
光を反射する鋭い銀の刃が、スカーレットの胸元に向けられる。
「――ッ!」
声にならない叫びが、スカーレットの喉奥で震えた。
だがその刹那、ラファエルの瞳に一瞬だけ迷いが閃く。
剣先が僅かに揺れ、震える指先がその葛藤を物語っていた。
――どうして?
彼は、本当に私を……斬るの?
スカーレットの頬を、一筋の涙がつたった。
***
ラファエルの剣が、スカーレットの胸元に向けられる。
その手は微かに震えていた。
――まるで、この人だけは失ってはいけない――
心の奥底から湧き上がるその思いに、ラファエル自身も苛まれる。
しかし、体はまるで誰かに操られているかのように、冷たく硬直した動きで剣を押し出す。
胸元に剣が近づくたび、スカーレットの心は凍りついた。
――本当に、ゲーム通りに物語が進んでいるのね……
彼に殺されるのが嫌で、必死に断罪を回避してきたのに、結局は殺される運命なの……?
悪役令嬢に生きる権利なんて、最初から存在しなかったの……?
ラファエルがためらうたびに、背後から鋭い声が響く。
「さぁ、やるのよ!
彼女が居なくなれば、みんな幸せになるのよ。
貴方も解放される――!」
マリアの命令が、ラファエルの心をさらに締め付ける。
剣を握る手が小刻みに震え、彼の瞳は迷いで揺れる。
スカーレットは、わずかに微笑むように唇を震わせた。
「……貴方に嫌われても、貴方が好きよ――」
そして、胸に一粒の涙が伝ったその瞬間。
ズブリ――
剣が胸に突き刺さる。
痛みは、もう感じなかった。
ただ悲しくて、辛くて、世界が静かに沈んでいくような感覚だけが残った。
――もう、このまま私は死ぬのね……
スカーレットはゆっくりと目を閉じた。
闇の中で、唯一確かなのは、ラファエルを愛していたという思いだけだった。
スカーレットは小さな封筒を胸に抱きしめるように握りしめ、震える吐息を押し殺しながら歩いていた。
――例えこの再会が最後になったとしても、この離縁状は私が自分の手で渡さなければならない。
それが彼と結ばれた者の責務だと、そう思ったのだ。
だが、足を進めるうちに、不意に耳にした声が彼女の心を切り裂く。
「聖女マリア様と護衛のラファエル様は恋仲だそうよ」
「まぁ、セピア王子との婚姻を破り、彼と結婚なさるのではなくて?」
「悪女スカーレット公爵令嬢とは釣り合わないものね……」
笑い交わす侍女たちの囁きに、スカーレットはその場に立ち尽くした。
胸の奥が、じくじくと痛む。
――ああ、やっぱり……もう、本当に彼には私は必要ないのね。
唇を噛み締め、拳を固く握る。
その刹那、廊下の先を歩く二人の姿が視界に映った。
白いドレスを揺らしながら歩く聖女マリア。その後ろを、静かに護衛として従うラファエル。
「……ラ、ラファエル様!」
思わず声が漏れた。
二人の背が同時に振り返る。紅色の瞳が見開かれた。
「お前が……なぜここに!? まさか……マリアに何かするつもりか!?」
「そ、そんなつもりはございませんわ!」
必死に首を振り、胸に抱いた封筒を差し出す。
「私は……これを、貴方に渡したかっただけですわ」
ラファエルは怪訝そうに眉を寄せ、それを受け取る。
中から現れたのは、一枚の離縁状――そこには、スカーレット自身の署名も揺らめく文字で記されていた。
その瞬間、ラファエルの呼吸が乱れる。
――なぜだ。
なぜこんなにも、胸が張り裂けそうに痛む?
この手を離したら、取り返しのつかない後悔が待っている……そんな直感に心が押し潰されそうになるのは、なぜだ!?
手が震える。言葉が出ない。
だが、すぐ傍らから甘く柔らかい声が響いた。
「ねぇ、ラファエル様……」
マリアが静かに彼の腕へと指先を添える。
その声は、彼の耳の奥深くまで浸透していくように響いた。
「この世の悪はスカーレットなのよ。彼女は私を殺そうとした……恐ろしい女」
「……!」
「お願い……私を守って。私の騎士様なら、わかるでしょう?
さぁ――彼女を、殺して」
一陣の冷たい風が廊下を吹き抜けた。
ラファエルの瞳が揺らぎ、黒い影のような靄がその奥に滲み出す。
「……スカーレット……」
彼の手が、剣の柄にかかる。
きぃん、と冷たい音を立て、刃が鞘から抜き放たれた。
光を反射する鋭い銀の刃が、スカーレットの胸元に向けられる。
「――ッ!」
声にならない叫びが、スカーレットの喉奥で震えた。
だがその刹那、ラファエルの瞳に一瞬だけ迷いが閃く。
剣先が僅かに揺れ、震える指先がその葛藤を物語っていた。
――どうして?
彼は、本当に私を……斬るの?
スカーレットの頬を、一筋の涙がつたった。
***
ラファエルの剣が、スカーレットの胸元に向けられる。
その手は微かに震えていた。
――まるで、この人だけは失ってはいけない――
心の奥底から湧き上がるその思いに、ラファエル自身も苛まれる。
しかし、体はまるで誰かに操られているかのように、冷たく硬直した動きで剣を押し出す。
胸元に剣が近づくたび、スカーレットの心は凍りついた。
――本当に、ゲーム通りに物語が進んでいるのね……
彼に殺されるのが嫌で、必死に断罪を回避してきたのに、結局は殺される運命なの……?
悪役令嬢に生きる権利なんて、最初から存在しなかったの……?
ラファエルがためらうたびに、背後から鋭い声が響く。
「さぁ、やるのよ!
彼女が居なくなれば、みんな幸せになるのよ。
貴方も解放される――!」
マリアの命令が、ラファエルの心をさらに締め付ける。
剣を握る手が小刻みに震え、彼の瞳は迷いで揺れる。
スカーレットは、わずかに微笑むように唇を震わせた。
「……貴方に嫌われても、貴方が好きよ――」
そして、胸に一粒の涙が伝ったその瞬間。
ズブリ――
剣が胸に突き刺さる。
痛みは、もう感じなかった。
ただ悲しくて、辛くて、世界が静かに沈んでいくような感覚だけが残った。
――もう、このまま私は死ぬのね……
スカーレットはゆっくりと目を閉じた。
闇の中で、唯一確かなのは、ラファエルを愛していたという思いだけだった。
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