堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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戻れない後悔

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スカーレットは、そのまま地面に崩れ落ちた。
胸から流れ出した鮮やかな血が、静かに大理石の床に広がっていく。
血はやがて溜まりを作り、その中に一枚の紙を赤く染めたー血色に染まった離縁状。

ラファエルは剣を握ったまま、ただ立ち尽くしていた。
視界が揺らぎ、頭の奥で突如として、鮮やかな光景がフラッシュバックする。

――あの時の彼女。
優しい手で、自分の傷を手当てしてくれた。
頬を赤らめて、必死に笑みを隠そうとしていた。
「……もう、仕方ない人ですね」と、少し呆れながらも慈しむように微笑んでくれた。
そして、いつも笑顔を絶やさず、静かに寄り添ってくれていた彼女。

だが――今、目の前にいるのは。
愛おしいその人が、血を流して冷たく横たわっている姿だった。
そして、自分の剣には彼女の鮮血が、べっとりと付いていた。

「……そ、そんな……わけ、ない」
ラファエルの喉が震えた。
「ち、ちがう……俺が……彼女を……殺した……?」

衝撃に耐えきれず、彼は剣を落とす。金属音が鋭く響くが、現実を打ち消すことはできなかった。
目の前の血溜まりは、冷酷な事実を突きつける。

そして、視界に映ったのは、赤に染まった離縁状だった。
――離縁?
自分が突きつけた離縁状には彼女のサインがあった。
彼女は……俺との縁を断とうと……?

だが、心の奥底ではわかっていた。
本当は彼女を手放したくなかった。
離縁など望んでいなかった。
願わくば、永遠に彼女の傍にいたいと――そう思っていたのに。

「……スカーレット……っ!」

ラファエルは血まみれの彼女を抱き上げた。
その体はあまりにも軽く、あまりにも脆くて、すぐにでも砕けてしまいそうだった。

「死ぬな……お願いだ……生きてくれ……!」

必死の願いも虚しく、彼女の体はどんどん冷たくなっていく。
呼吸は細く途切れ途切れで、今にも消えてしまいそうだ。
そして、自分を見つめていた愛しい瞳は、もう二度と開かれない。

「……そんな……嘘だ……」
胸が張り裂けそうな痛みに、ラファエルは声を押し殺した。
「誰か……誰でもいい……彼女を助けてくれ!
俺は死んだっていい……彼女だけは……!」

必死の叫びは、虚空に吸い込まれていくだけだった。
周囲に集う者たちは誰一人として手を差し伸べない。
彼女が死にかけているというのに、その瞳は虚ろで、口元は不気味に歪んでいた。
――まるで、誰かに操られているかのように。

「ふふふ……やっと死んだのね、憎きスカーレット」

鈴の音のように甘く澄んだ声が響く。
マリアが天使の微笑を浮かべながら、ラファエルの肩に触れた。

「ラファエル様。誰も彼女を助けはしませんよ?
だって、彼女はこの国の悪女ですもの。
逆に――彼女を討った貴方は英雄。
離婚も成立しているようですし、もう彼女は必要ないでしょう?
さぁ、私と共に……明るい未来に進みましょう?」

甘やかで美しいその声が、耳に絡みつく。
けれど――その瞬間、ラファエルの瞳に鋭い光が戻った。

(……そうか……)

悟ってしまった。
この事件の黒幕は――マリア。
彼女こそが、すべてを狂わせた存在なのだと。
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