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聖女の居場所
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時計台の下。
スカーレットは街を行き交う人々の間で、落ち着かない様子で立ち尽くしていた。
「……遅い。ラファエル様……」
あれほど強い彼でも、今度ばかりは胸騒ぎがしてならない。
繰り返し鐘の音を聞いていると、待つことの苦しさが彼女の心をかき乱した。
「……このまま、待っているだけなんて……できませんわ」
ついに決心して、彼女は時計台を離れようと歩き出す。
⸻
その頃。
古びた教会を後にしたラファエルは、冷たい風を切りながら歩いていた。
「……あれは、マリアの……」
教会を出た直後、建物の影を滑るように動く黒い気配を目にした。
ラファエルは咄嗟に剣を握り、影を追う。
足音が石畳を響かせ、王都の大通りへ。
やがて辿り着いたのは――王城前の広場だった。
⸻
「ラファエル様!」
その声に振り向く。
そこには、駆け寄ってくるスカーレットの姿があった。
「スカーレット……なぜここに?」
「時計台で待っていましたが、どうしても不安で……! ラファエル様こそ、無事でよかった……」
彼女の息が乱れている。どれほど焦って探していたのかが痛いほど伝わる。
ラファエルは小さく息をつき、彼女の肩を抱いた。
「……お前は本当に、俺を心配させるのが得意だな」
「それは、こちらの台詞ですわ……」
二人が言葉を交わす間にも、王城の塔に風が吹き抜ける。
その時、ラファエルの視線が鋭くなる。
「……マリアだ」
「えっ……?」
王城を見据える彼の瞳に、確信が宿っていた。
「さきほどの影は王城の中へ消えた。……間違いない。マリアは再び王城へ戻った」
スカーレットもその言葉に息を呑む。
「……では、これから決着を……」
「そうだ。お前を二度と傷つけさせはしない」
彼はスカーレットの手を握り、静かに言葉を続けた。
「一緒に行こう。お前と共に、マリアの悪行を終わらせる」
***
夜の王城は、重苦しい沈黙に包まれていた。
ラファエルとスカーレットは、闇に溶け込むように潜入し、長い石造りの回廊を進む。
警備兵の姿はあるものの、どこか怯えた気配を漂わせ、かつての威厳ある王宮の雰囲気は崩れていた。
「……ここまで荒れているなんて」
スカーレットが小さく息を呑む。
ラファエルは彼女の手を強く握り返し、静かに囁いた。
「気を抜くな。マリアは必ずどこかで動いている」
二人の足音が闇に消えていく――。
⸻
同じ頃。
王城の一角、豪奢な客間の陰からサムはじっと様子を窺っていた。
人間の姿に偽装していても、その野生の勘が鋭く働く。
――冷たい視線が、この城のどこからか自分を追っている。
それでも彼は、じっとセシル王子の執務室へと意識を集中させた。
扉が開く。
そこに現れたのは、天使のような微笑みを浮かべたマリアだった。
純白の衣を揺らしながら、まるでこの混乱の中心人物であるはずの彼女が、一切の罪を知らぬ少女のように立っていた。
(……やはり。狙いはセシル王子か)
サムの背筋を冷たいものが走る。
「マリア……!」
セシル王子は立ち上がり、駆け寄るなり彼女を抱きしめた。
「王城がこんなことになるし、君はいなくなるしで、本当に心配したんだ!」
「……ごめんなさい、セシル王子」
マリアは切なげに眉を下げ、柔らかな声を紡ぐ。
「街で人助けをしていたのです。戻ったらこんなことになっていて……一体何があったのです?」
セシル王子は苦しげに顔を曇らせた。
「それが……分からないんだ。何者かに記憶を操られていた気がする。だが、あの夜、ここで何があったのか――一切思い出せない」
拳を握りしめる。
「覚えているのは……黒い翼を持った化け物が城を破壊していた記憶だけだ」
「黒い……翼……」
マリアの瞳が一瞬だけ鋭く光ったが、すぐに儚げな微笑みに戻る。
「ですが、そのことを父上に言ったら怒られてしまったんだ。二度と口にするなと……。箝口令まで敷かれてしまった」
「まあ……それは大変でしたわね」
マリアは彼の胸に顔を寄せる。
「ですが、私がいれば大丈夫ですわ。セシル王子、どうか私を信じてくださいませ」
その声音は甘く、耳に蜜を垂らすようだった。
サムの指先が思わず震える。
――この女、すべてを計算している。
スカーレットは街を行き交う人々の間で、落ち着かない様子で立ち尽くしていた。
「……遅い。ラファエル様……」
あれほど強い彼でも、今度ばかりは胸騒ぎがしてならない。
繰り返し鐘の音を聞いていると、待つことの苦しさが彼女の心をかき乱した。
「……このまま、待っているだけなんて……できませんわ」
ついに決心して、彼女は時計台を離れようと歩き出す。
⸻
その頃。
古びた教会を後にしたラファエルは、冷たい風を切りながら歩いていた。
「……あれは、マリアの……」
教会を出た直後、建物の影を滑るように動く黒い気配を目にした。
ラファエルは咄嗟に剣を握り、影を追う。
足音が石畳を響かせ、王都の大通りへ。
やがて辿り着いたのは――王城前の広場だった。
⸻
「ラファエル様!」
その声に振り向く。
そこには、駆け寄ってくるスカーレットの姿があった。
「スカーレット……なぜここに?」
「時計台で待っていましたが、どうしても不安で……! ラファエル様こそ、無事でよかった……」
彼女の息が乱れている。どれほど焦って探していたのかが痛いほど伝わる。
ラファエルは小さく息をつき、彼女の肩を抱いた。
「……お前は本当に、俺を心配させるのが得意だな」
「それは、こちらの台詞ですわ……」
二人が言葉を交わす間にも、王城の塔に風が吹き抜ける。
その時、ラファエルの視線が鋭くなる。
「……マリアだ」
「えっ……?」
王城を見据える彼の瞳に、確信が宿っていた。
「さきほどの影は王城の中へ消えた。……間違いない。マリアは再び王城へ戻った」
スカーレットもその言葉に息を呑む。
「……では、これから決着を……」
「そうだ。お前を二度と傷つけさせはしない」
彼はスカーレットの手を握り、静かに言葉を続けた。
「一緒に行こう。お前と共に、マリアの悪行を終わらせる」
***
夜の王城は、重苦しい沈黙に包まれていた。
ラファエルとスカーレットは、闇に溶け込むように潜入し、長い石造りの回廊を進む。
警備兵の姿はあるものの、どこか怯えた気配を漂わせ、かつての威厳ある王宮の雰囲気は崩れていた。
「……ここまで荒れているなんて」
スカーレットが小さく息を呑む。
ラファエルは彼女の手を強く握り返し、静かに囁いた。
「気を抜くな。マリアは必ずどこかで動いている」
二人の足音が闇に消えていく――。
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同じ頃。
王城の一角、豪奢な客間の陰からサムはじっと様子を窺っていた。
人間の姿に偽装していても、その野生の勘が鋭く働く。
――冷たい視線が、この城のどこからか自分を追っている。
それでも彼は、じっとセシル王子の執務室へと意識を集中させた。
扉が開く。
そこに現れたのは、天使のような微笑みを浮かべたマリアだった。
純白の衣を揺らしながら、まるでこの混乱の中心人物であるはずの彼女が、一切の罪を知らぬ少女のように立っていた。
(……やはり。狙いはセシル王子か)
サムの背筋を冷たいものが走る。
「マリア……!」
セシル王子は立ち上がり、駆け寄るなり彼女を抱きしめた。
「王城がこんなことになるし、君はいなくなるしで、本当に心配したんだ!」
「……ごめんなさい、セシル王子」
マリアは切なげに眉を下げ、柔らかな声を紡ぐ。
「街で人助けをしていたのです。戻ったらこんなことになっていて……一体何があったのです?」
セシル王子は苦しげに顔を曇らせた。
「それが……分からないんだ。何者かに記憶を操られていた気がする。だが、あの夜、ここで何があったのか――一切思い出せない」
拳を握りしめる。
「覚えているのは……黒い翼を持った化け物が城を破壊していた記憶だけだ」
「黒い……翼……」
マリアの瞳が一瞬だけ鋭く光ったが、すぐに儚げな微笑みに戻る。
「ですが、そのことを父上に言ったら怒られてしまったんだ。二度と口にするなと……。箝口令まで敷かれてしまった」
「まあ……それは大変でしたわね」
マリアは彼の胸に顔を寄せる。
「ですが、私がいれば大丈夫ですわ。セシル王子、どうか私を信じてくださいませ」
その声音は甘く、耳に蜜を垂らすようだった。
サムの指先が思わず震える。
――この女、すべてを計算している。
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