堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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最後の企み

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王城の廊下を進む二人の足音だけが、静寂の中に響く。
暗い石壁に吊された燭台が揺れ、長い影を床に落としていた。

「……マリアは私が死んだと思っているはず」
スカーレットが低く囁く。
「それに、貴方はダスクファングに飲み込まれて治療中だと――。なら彼女は、自分の地位を守るために誰を利用すると思う?」

ラファエルの紅色の瞳が横に動く。
「誰だ? 父上に廃太子されて以降、城の事情には疎い」
「セシル王子ですよ」
「……セシル? だがあいつも、そんなに愚かではないはずだ」
「それはどうかしら」スカーレットは細く息を吐いた。
「恋は盲目って言うでしょう? 私を捨ててまでマリア様を選んだ人なのだから、彼女に心酔していても不思議じゃないわ」

その言葉に、ラファエルの足がふと止まる。
「……もしお前がセシルに婚約破棄されなかったら、お前は俺のそばにいなかったのだな」
「え……? 急にどうしましたの?」
ラファエルは小さく笑みを浮かべた。
「いや……兄上が見る目のない男でよかったと思っただけだ。そのお陰で、お前と出会えたのだからな」

「もー……何言ってるんですの。」
スカーレットは頬を染めながらも、握られた手をさらに強く握り返す。
そして二人は、互いの温もりを確かめ合いながら執務室へと進んだ。

――その扉の前に、ひとりの男影が立っていた。
「……サム!?」
スカーレットが思わず声を上げると、すぐにサムが飛び込むように手を伸ばし、彼女の口を押さえた。

「スカーレット嬢、静かに」
「……っ」

ラファエルの表情が険しくなる。
「おい、サム。たとえお前でも、スカーレットに気軽に触れるのは許さないぞ」
「ちょっ……! こんなところで喧嘩してる場合じゃありませんわ!」
スカーレットが小声で抗議する。

その直後。

執務室の扉越しに、鈴のような甘やかな声が響いてきた。
「……セシル王子。どうか私を信じてくださいませ」

マリアの声だった。

三人は息を呑み、互いに目を合わせる。
ラファエルの手が無意識に剣へと伸び、スカーレットは胸の鼓動を押さえるように手を当てる。
いよいよ、この時が来たのだ――。
***

執務室の厚い扉の向こうから、甘やかな声が流れてきた。

「……王妃様は、ダスクファングで暴走したラファエルに恐れ慄いて、外に出ることさえままならないと聞聞きましたわ!私とても心配よ…。大丈夫かしら?」
マリアの声音は柔らかいが、冷たい刃のような響きを帯びている。
「なら――カリオス王には死んでもらいましょう。そして、セシル王子が貴方がこの国の王となるのです。私が王妃になれば……誰も私を偽の聖女だなんて言わないわ。」

――!!

扉の前に潜んでいた三人は、息を呑んだ。
スカーレットの指先が小さく震え、ラファエルの眼差しは氷のように鋭くなる。
サムは奥歯を噛みしめ、低く唸った。

「……やはりな」
ラファエルがかすかに呟く。
「俺を使い潰した後は、王を……そして、セシルを駒にするつもりか」

スカーレットは唇を強く結び、胸の奥から込み上げる動悸を必死に抑える。
(マリア……そこまで……!)

サムが小声で囁く。
「スカーレット嬢、殿下。思った以上に事は深刻ですな……」

スカーレットは真剣な眼差しで二人を見回した。
「ええ。これは私たちだけで抱え込むにはあまりに危険ですわ。――一度、魔王城に戻りましょう。ジルベール様の意見を聞くべきです」

ラファエルはしばし目を伏せ、そして頷いた。
「……ああ。俺も同感だ。軽々しく動けば、奴の思う壺だろう」

サムも頷き、低く応じる。
「では、一度退きましょう。ですが……急がねば、王の命が危うい」

三人は互いに無言で頷き合い、足音を殺してその場を後にした。
背後からは、なおもマリアの甘い声がセシル王子を絡め取るように響き続けていた――。
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