堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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婚約者じゃいられない

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ラファエルはまだ夢の世界にいるスカーレットを腕に抱きながら、深く息を吐いた。

「……俺はお前の前だと、どうやら獣になるらしいな。無理をさせてはいけないとわかっているのに、何度も何度もお前を求めてしまう。……本当に自分勝手だ。すまない、スカーレット。」

小さな寝息を立てるスカーレットの頬に、彼は指先でそっと触れる。その温もりが胸に染み渡り、離すことなど到底できないと思い知らされる。

(……もう俺は、お前なしでは生きていけなくなった。なのに――)

彼女を愛するようになってから、ラファエルの胸にはひとつの疑問がずっと居座っていた。
このまま「婚約者」という関係のままでいていいのか、と。

婚約者なら、婚約破棄や離縁という未来だって理屈の上ではあり得る。

レーヴ•オブスキュールで、スカーレットに離縁状を叩きつけた時のことは今でも忘れられない。あのことを思い出すたびに心が抉られて、苦しくなる。
洗脳されていない今は、そんなことをする気は一切ないし、彼女がいない日常など、辛すぎて耐えられない。
だが、未来は誰にもわからない。
ならば――。

「俺は……スカーレットと、婚約者以上の関係になりたい。」

囁くように呟き、眠る彼女の手に自分の唇に押し当てる。

(これからもずっとそばにいて、幸せにしたい。誰よりも大切にしたい。)

溢れ出す想いは止められず、決意へと変わっていく。
強く、揺るぎなく、彼は心に誓った。

「……いや。俺は彼女を、正式に妻として迎えたい。」

***

まだ朝靄の残る謁見の間に、ラファエルは一人静かに姿を現した。

「……お主が朕に願い事など珍しいな。」
玉座に腰掛ける王が、静かに口を開く。

「明朝からの謁見にお時間をいただき、感謝いたします。」
ラファエルは深く頭を垂れた。

「気にするでない。今は大臣たちもおらぬ。気軽に話してみよ。」
「はい。では……陛下。」

彼は息を整え、真っ直ぐに王を見据えた。
その瞳に迷いはなく、声は確固たる響きを持っていた。

「俺、オスベリア・マンルース・ラファエルは、婚約者であるオルビア・アリア・スカーレットを――正式に妻として迎えたいのです。どうかお許しをいただけないでしょうか。」

謁見の間に静寂が落ちる。
王はしばし目を細め、ラファエルを見つめたあと、ふっと笑みを漏らした。

「……ほぉ。お主ら、出会った当初は目も合わせなんだのに、今では妻にしたいと望むほどの仲になったか。」

その声音には、深い慈しみが含まれていた。

「そもそも朕が婚姻ではなく“婚約”という体にしたのは、お主らがまだ若く、互いに愛する人ができるかもしれぬと考えたからだ。無理に婚姻させることほど酷いことはないからな……。
だが――」

王はゆっくりと玉座から立ち上がる。

「朕は嬉しいぞ。婚約を命じた二人が、自らの意思で夫婦となることを望むとは……。ならば、朕は喜んで許可しよう。」

「……! ありがとうございます!」
ラファエルは深く頭を垂れ、胸の奥から熱いものが込み上げた。

「婚姻式も、盛大に挙げるがよい。」

そう言った王が、ふと歩みを止める。

「そうだ。ラファエル――そこで待て。」

王は謁見の間を後にし、小さな木箱を手に戻ってきた。
厳かな手つきでそれを差し出す。

「これはな、お主の母イリスから生前、朕が預かっていたものだ。」

「……母上から?」

「もしラファエルが心から愛する人を見つけたなら、これを渡してやってほしいと、そう言われておった。」

静かに蓋が開かれる。
そこには――深紅のルビーがあしらわれた指輪が二つ。

燦然と輝くその赤は、スカーレットの名と彼女自身を象徴するかのようであり、同時にラファエルの燃える想いをも映していた。

「……まるで、スカーレットと俺を示しているようだ。」

ラファエルの胸が熱く震えた。
母の想いと、王の許しと、そして愛する者との未来――。
すべてが、この瞬間に繋がっていくのを感じていた。
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