男装悪役令嬢は、女装王子に溺愛される!?ー死刑回避のための男装ライフ、恋愛フラグが乱立中ー

明夏 向日葵

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美貌と色気が効かない王子、爆誕

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ルノス国王の誕生祭から一夜。
王城には、まだ昨夜の騒乱の余韻が残っていた。

「ラービス家の令息のおかげで、誰ひとり負傷者が出ずに済んだのは幸いだった。だが――」
玉座の間に響く国王ルノスの声は、重く厳かだった。

「貴族たちや老若男女が集う祝いの席を襲うなど、言語道断。必ずや犯人を見つけ出すのだ。」

「「かしこまりました」」
ノアとラスタは膝をつき、静かに頭を垂れる。

その表情には、決意とわずかな焦燥が混ざっていた。
カリーナが刺客の矢を受けて倒れた瞬間、ノアの中で何かが決定的に変わったのだ。

「殿下、私はザンジス宰相の周囲をもう一度洗い直そうと思います」
「うん、お願いするよ。僕は……カリーナが心配だから、看病に戻るよ。」

ラスタが小さく頷く。その横顔を見送って、ノアは廊下を歩き出した。
──が。

「ノア殿下!」
突如、目の前がまばゆく光った。

……いや、正確には人物そのものが光っていた。
黄金の髪が燭光を反射し、まるで人間型シャンデリア。

ノアが思わず目を細めると、現れたのはこの国の宰相の一人娘、マーガレット・ザンジス嬢だった。

白のドレスに金糸の刺繍。
歩くたび、空気が「キラキラ」鳴る。

「昨日の誕生祭で、刺客に襲われて怪我をしたとお聞きしましたわ! お身体は大丈夫ですの、殿下?」
「問題ないよ。それに怪我をしたのは僕じゃなくて、ラービス家の令息・カリスくんだ。」

「まぁ……なるほど。でも、殿下もお疲れでしょう? 少し、お茶でも――」
マーガレットが、ふんわりとノアの腕に絡みつく。

胸の柔らかい感触が、見事にノアの肘を挟んだ。

(距離が近すぎないか?)

マーガレットは笑う。まるで百戦錬磨の女狐。

(私のこの美貌と色気で堕ちない男なんて、いないの。ルイなんてただの見た目重視ナルシスト。顔がいいのが腹立つし。なら――愛してくれそうなノア殿下のほうがいいわ♡)

……が。

「すみませんが、離れてください。」
ノアは一歩、静かに身を引いた。

「僕には愛する婚約者がいるので、周囲に誤解を与えるようなことは避けていただきたいです。
何事にも、距離感は大切だと思いますよ? マーガレット嬢。」

微笑みすら完璧な紳士対応。
──その言葉と同時に、空気が“パキン”と凍った。

(……え、ええぇぇぇっ!?)
マーガレットの頭の中で、信仰が崩壊する音がした。

(この私が……? この私が通じない!? なんで!?)
いつもなら、相手の目がとろけて「お、美しい……」とか言い出すのに。
今のノアは、完全に“業務対応モード”。
目が恋じゃなくて“真面目会議”してる。

ノアは一礼して、そのまま去っていった。

(ま、待ちなさい……! 今の瞳……! 誰かを愛している目だった。
まさか……婚約者になったという“カリーナ嬢”?病に伏せるだけの女の、どこがいいのよっ!!)

廊下に残されたマーガレットの笑顔は、
次の瞬間、粉々にひび割れた。

***

ノアの私室。
ノアが扉を開けると、そこでは――
カリーナが立ち上がり、せっせとベッドメイキング中。

「カリーナ! まだ動いちゃダメだよ! 傷が深かったんだから!」
ノアは駆け寄って、その手をそっと取る。

「ですが……殿下のベッドが、私のせいで汚れてしまったので、新しいシーツに取り替えていたのです。」
「そんなこと気にしないで。まだ安静にしてないとダメだから、横になって……。」

ノアの声は低く、優しく、あたたかかった。
ルビーの瞳が、カリーナを映して揺らぐ。

カリーナがふと、微笑む。
「ノア殿下、ご心配をおかけして……すみません。ありがとうございます。」

ノアは、そっと彼女の背を支え、再びベッドに寝かせる。
柔らかな薄水色の髪が枕に流れ、彼女の頬に影が落ちる。

「なんの心配もしないで、ゆっくり休んで。」
「……ふふ。ありがとうございます。」

二人の間に流れるのは、静かな鼓動と、
遠くから聞こえるマーガレットの「なんでよぉぉぉ!!!」という魂の叫びであった。
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