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夜明け前の焦燥
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ザンジス宰相の書斎では、ろうそくの火が乱れた風に揺れていた。
山と積まれた帳簿、金貨の詰まった袋、そして破り捨てられた王室印章。
「ノアよ……まさか、ここまでとはな……」
低く唸るような声が部屋に落ちる。
ノアの名を吐き捨てたその目は、怒りよりも「恐れ」に染まっていた。
「泣き虫で、王族の器ではないと見くびっていたが……あやつはもう、父王の器を超えたかもしれんな。」
ザンジスは机を叩く。
「……こうなれば、私の断罪も時間の問題。金を持って逃げるしか生き残る術はない。」
焦りに滲む息のまま、執事を呼び出す。
「屋敷の使用人どもを全員解雇せよ。妻も娘も放っておけ。余計な荷は要らん。」
冷酷な決断を下し、宰相は裏口から密輸船のある港へと消えた。
その影は、夜霧の中にゆらりと溶けていく――。
***
朝日が差し込む窓辺。
カリーナは、まぶしさに目を細めながらゆっくりと目を開けた。
(……ん? な、なんか……あったかい?)
視界のすぐ前に、逞しく引き締まった胸筋。
一瞬、頭が真っ白になる。
「!?!?!?!?」
慌てて顔を上げると、そこにはすやすやと眠る傾国の美男子――ノア殿下。
しかも、その腕が彼女の腰を優しく抱きしめていた。
(え、えぇ!? な、なんで抱きしめられてるの!?…昨日、確か……ノア殿下を待ってて……そのままソファで寝落ちして……!?)
頬を真っ赤にしながらも、彼の安らかな寝顔を見つめていると、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
カリーナはそっと、彼の腕を握り返した。
(……もう、隠さなくていいよね。両想いなんだもん。)
(たとえ死刑が待っていようと……この想いだけは、嘘にしたくない。)
「好きです、ノア殿下。これからもずっとお側に居させてください。好きで居させてください。」
彼女は、そっとノアの唇にキスを落とす。
その瞬間――後頭部に手が回され、強く引き寄せられる。
「んっ……ノ、ノア殿下っ……」
いつのまにか彼が目を開けていた。
寝起きとは思えないほど熱を帯びた瞳。
そして、再び重ねられる唇。
呼吸を奪うような深い口づけ。
何度も角度を変えて唇が重なり、溶け合っていく。
「んっ……だ、だめ……っ……こんなキス……っ」
名残惜しそうに唇が離れると、ノアはそのまま彼女の首筋に顔を埋め、そっと歯を立てた。
「い、いたっ……! 殿下!? こ、こんなところに痕つけちゃダメです!
シャツを着ても隠せません!」
ノアは微笑む。
「うん。隠せないように、首につけたんだ。」
「えぇ!? な、なんでですかっ!?」
「だって、皆に分からせないと。君は、僕の愛する人だって。」
「も~~っ! 殿下はほんとにずるいです!」
カリーナはノアの胸をぽかぽか叩くが、彼は笑って彼女の手を包み、指先にキスを落とした。
穏やかな朝の甘い空気。
しかし――その幸福を破る声が響いた。
「殿下、至急お話が! 失礼します!」
ラスタの緊迫した声。
カリーナは驚いて布団に潜り込み、顔を隠す。
ノアは咄嗟に平然とした口調で応じた。
「どうぞ。」
ラスタは構わず報告を続ける。
「ザンジスが――姿をくらませました!」
一瞬で部屋の空気が張り詰める。
ノアの瞳から甘さが消え、鋭い光が宿る。
「……やはり動いたか。」
カリーナは布団の中で拳を握りしめた。
(ザンジス宰相が逃げた…!?絶対に捕まえないと…)
朝の光はもう優しくない。
戦いの幕が、再び上がろうとしていた――。
山と積まれた帳簿、金貨の詰まった袋、そして破り捨てられた王室印章。
「ノアよ……まさか、ここまでとはな……」
低く唸るような声が部屋に落ちる。
ノアの名を吐き捨てたその目は、怒りよりも「恐れ」に染まっていた。
「泣き虫で、王族の器ではないと見くびっていたが……あやつはもう、父王の器を超えたかもしれんな。」
ザンジスは机を叩く。
「……こうなれば、私の断罪も時間の問題。金を持って逃げるしか生き残る術はない。」
焦りに滲む息のまま、執事を呼び出す。
「屋敷の使用人どもを全員解雇せよ。妻も娘も放っておけ。余計な荷は要らん。」
冷酷な決断を下し、宰相は裏口から密輸船のある港へと消えた。
その影は、夜霧の中にゆらりと溶けていく――。
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朝日が差し込む窓辺。
カリーナは、まぶしさに目を細めながらゆっくりと目を開けた。
(……ん? な、なんか……あったかい?)
視界のすぐ前に、逞しく引き締まった胸筋。
一瞬、頭が真っ白になる。
「!?!?!?!?」
慌てて顔を上げると、そこにはすやすやと眠る傾国の美男子――ノア殿下。
しかも、その腕が彼女の腰を優しく抱きしめていた。
(え、えぇ!? な、なんで抱きしめられてるの!?…昨日、確か……ノア殿下を待ってて……そのままソファで寝落ちして……!?)
頬を真っ赤にしながらも、彼の安らかな寝顔を見つめていると、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
カリーナはそっと、彼の腕を握り返した。
(……もう、隠さなくていいよね。両想いなんだもん。)
(たとえ死刑が待っていようと……この想いだけは、嘘にしたくない。)
「好きです、ノア殿下。これからもずっとお側に居させてください。好きで居させてください。」
彼女は、そっとノアの唇にキスを落とす。
その瞬間――後頭部に手が回され、強く引き寄せられる。
「んっ……ノ、ノア殿下っ……」
いつのまにか彼が目を開けていた。
寝起きとは思えないほど熱を帯びた瞳。
そして、再び重ねられる唇。
呼吸を奪うような深い口づけ。
何度も角度を変えて唇が重なり、溶け合っていく。
「んっ……だ、だめ……っ……こんなキス……っ」
名残惜しそうに唇が離れると、ノアはそのまま彼女の首筋に顔を埋め、そっと歯を立てた。
「い、いたっ……! 殿下!? こ、こんなところに痕つけちゃダメです!
シャツを着ても隠せません!」
ノアは微笑む。
「うん。隠せないように、首につけたんだ。」
「えぇ!? な、なんでですかっ!?」
「だって、皆に分からせないと。君は、僕の愛する人だって。」
「も~~っ! 殿下はほんとにずるいです!」
カリーナはノアの胸をぽかぽか叩くが、彼は笑って彼女の手を包み、指先にキスを落とした。
穏やかな朝の甘い空気。
しかし――その幸福を破る声が響いた。
「殿下、至急お話が! 失礼します!」
ラスタの緊迫した声。
カリーナは驚いて布団に潜り込み、顔を隠す。
ノアは咄嗟に平然とした口調で応じた。
「どうぞ。」
ラスタは構わず報告を続ける。
「ザンジスが――姿をくらませました!」
一瞬で部屋の空気が張り詰める。
ノアの瞳から甘さが消え、鋭い光が宿る。
「……やはり動いたか。」
カリーナは布団の中で拳を握りしめた。
(ザンジス宰相が逃げた…!?絶対に捕まえないと…)
朝の光はもう優しくない。
戦いの幕が、再び上がろうとしていた――。
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