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蜜と刃の取り交わし
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王宮の温室は夜でも暖かく、外の冷気を忘れさせる。
熱帯の夜花が甘い芳香を吐き、ランプの柔らかな光が葉の裏側を金色に染める。
そのなかで、マーガレットは露出の多い薄絹のネグリジェ一枚で、ゆったりとした椅子に腰掛けていた。
彼女が立ち上がるたび、シルクが肌を滑る音さえ、計算された囁きに聞こえる。
ルイは、いつもの冷徹な面持ちではなく、どこか淡い興奮を隠せない。
マーガレットに手を差し伸べられれば、容易にその掌に触れてしまう。兄弟の確執と国の利害――彼の胸の中の黒い渦は、それらを雑にかき混ぜていた。
マーガレットは、ルイの胸筋に指先を這わせながら、甘い声で囁く。
「ねえ、あなたの嫌いな弟の信頼を落とす方法があるの。」
ルイは眉根を寄せ、興味と苛立ちが混じった低い声を返す。
「……ノアをか。だが、貴様に何ができると言う?」
マーガレットは薄く笑い、顔を近づけた。ランプの光に瞳が揺れる。
「簡単よ。ノア殿下の“最も大切なもの”を亡き者にすればいいの。」
その言葉にルイの瞳がわずかに光った。
「……カリスのことか?」
マーガレットは肯く。唇が艶っぽくほころぶ。
「正解。知ってた? ラービス・カリスって、実は“ラービス・カリーナ”なのよ。
つまり、あの“群青の王子”は女で、男装していた。しかも――ノア殿下は“ノアーチェ”として女装して捜査していたらしいわ。性別を偽り、国家機密に触れていたとされたら、立派な国家反逆よ。」
ルイの口元が緩む。薄ら笑いが生むのは、毒の匂いだ。
「ふむ。なるほどな。ノアの正義を逆手に取るとは、実に面白い。お前らしい。だが──奴は用心深い。簡単には尻尾を出さないだろう。」
マーガレットはルイの前に歩み寄り、彼の胸にそっと手を置く。指先の感触を確かめるように、囁いた。
「あなたとなら、うまくやれそう。ルイ殿下、あなたには“盤石の体面”がある。王宮の重鎮に顔が立つ。
私にとっては、あなたの”冷徹さ”が不可欠なの。ノアを追い詰め、あの女を“暴く”舞台をあなたが整えてくれるかしら?」
ルイはゆっくりと息を吐く。薄い笑みを浮かべながらも、内面は計算の歯車が回る音で満ちている。
「――いいだろう。ノアは確かに策士だ。だが策士ほど、自らの“正義”を信じる。そこに罠を仕掛ければいい。
君のやり方で“証拠”が揃えば、陛下も動かざるを得ない。カリスを曝け出せば、ノアは動く。
そして、我々はその“動き”を利用して、二人揃って祓う。君の欲しいものも、僕の望むものも手に入るだろう。」
マーガレットは嬉しげに微笑んで、ルイに口づけをしようと顔を寄せる。
その瞬間、ルイが真顔で口を開いた。
「ただし一つ条件がある。情けは要らない。ノアがただで済むようなことはさせない。お前が深く関わるなら、失敗は許されない。成功した暁には、お前の望む“役目”を与えよう。」
その言葉は、甘い蜜に塗された剣だ。マーガレットは軽く笑い、唇を離しながら囁いた。
「ふふ、あなたはいいわね。慎重さも、野心も、分かち合える相手。
じゃあ、ルイ殿下――“ノアを失墜させましょう”。」
二人は指を絡め合い、その指先がひそやかな盟約を交わす。
温室の花々が静かに揺れ、夜の熱が二人の周りにまとわりつく。
ルイは低く笑って言った。
「証拠の作り方、露見させるタイミング、陛下や側近の動線――俺が整える。
お前は表で動いて、噂を作り、陛下に届くように仕向けろ。私が舞台を用意する。
そして、ノアが“己の守るもの”を庇うために出てくる瞬間を狙う。
その時こそ、我らが刃を突き立てる時だ。」
マーガレットはその言葉に満足げにうなずき、夜の温室の中でゆっくりと笑った。
「楽しみね、ルイ。彼が崩れる姿をじっくり見せてちょうだい。私はその涙を飾りにするわ。」
ルイは冷たい瞳で庭を見渡し、まだ見ぬ勝利を思い描いた。
二人の闇は結ばれ、王都の闇に一筋の毒が流れ込んだ。
――こうして“闇の契約”は成立した。次に動くのは、表舞台の“演出家”たちである。彼らの手により、ノアの信頼は、静かに、そして確実に削がれていくことになるだろう。
熱帯の夜花が甘い芳香を吐き、ランプの柔らかな光が葉の裏側を金色に染める。
そのなかで、マーガレットは露出の多い薄絹のネグリジェ一枚で、ゆったりとした椅子に腰掛けていた。
彼女が立ち上がるたび、シルクが肌を滑る音さえ、計算された囁きに聞こえる。
ルイは、いつもの冷徹な面持ちではなく、どこか淡い興奮を隠せない。
マーガレットに手を差し伸べられれば、容易にその掌に触れてしまう。兄弟の確執と国の利害――彼の胸の中の黒い渦は、それらを雑にかき混ぜていた。
マーガレットは、ルイの胸筋に指先を這わせながら、甘い声で囁く。
「ねえ、あなたの嫌いな弟の信頼を落とす方法があるの。」
ルイは眉根を寄せ、興味と苛立ちが混じった低い声を返す。
「……ノアをか。だが、貴様に何ができると言う?」
マーガレットは薄く笑い、顔を近づけた。ランプの光に瞳が揺れる。
「簡単よ。ノア殿下の“最も大切なもの”を亡き者にすればいいの。」
その言葉にルイの瞳がわずかに光った。
「……カリスのことか?」
マーガレットは肯く。唇が艶っぽくほころぶ。
「正解。知ってた? ラービス・カリスって、実は“ラービス・カリーナ”なのよ。
つまり、あの“群青の王子”は女で、男装していた。しかも――ノア殿下は“ノアーチェ”として女装して捜査していたらしいわ。性別を偽り、国家機密に触れていたとされたら、立派な国家反逆よ。」
ルイの口元が緩む。薄ら笑いが生むのは、毒の匂いだ。
「ふむ。なるほどな。ノアの正義を逆手に取るとは、実に面白い。お前らしい。だが──奴は用心深い。簡単には尻尾を出さないだろう。」
マーガレットはルイの前に歩み寄り、彼の胸にそっと手を置く。指先の感触を確かめるように、囁いた。
「あなたとなら、うまくやれそう。ルイ殿下、あなたには“盤石の体面”がある。王宮の重鎮に顔が立つ。
私にとっては、あなたの”冷徹さ”が不可欠なの。ノアを追い詰め、あの女を“暴く”舞台をあなたが整えてくれるかしら?」
ルイはゆっくりと息を吐く。薄い笑みを浮かべながらも、内面は計算の歯車が回る音で満ちている。
「――いいだろう。ノアは確かに策士だ。だが策士ほど、自らの“正義”を信じる。そこに罠を仕掛ければいい。
君のやり方で“証拠”が揃えば、陛下も動かざるを得ない。カリスを曝け出せば、ノアは動く。
そして、我々はその“動き”を利用して、二人揃って祓う。君の欲しいものも、僕の望むものも手に入るだろう。」
マーガレットは嬉しげに微笑んで、ルイに口づけをしようと顔を寄せる。
その瞬間、ルイが真顔で口を開いた。
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その言葉は、甘い蜜に塗された剣だ。マーガレットは軽く笑い、唇を離しながら囁いた。
「ふふ、あなたはいいわね。慎重さも、野心も、分かち合える相手。
じゃあ、ルイ殿下――“ノアを失墜させましょう”。」
二人は指を絡め合い、その指先がひそやかな盟約を交わす。
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マーガレットはその言葉に満足げにうなずき、夜の温室の中でゆっくりと笑った。
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