男装悪役令嬢は、女装王子に溺愛される!?ー死刑回避のための男装ライフ、恋愛フラグが乱立中ー

明夏 向日葵

文字の大きさ
37 / 47

暴かれる影

しおりを挟む
ザンジスが逃げたことで、王都はざわめいていた。
宰相の屋敷には封印が施され、民たちはまるで見世物でも見るかのようにその屋敷を遠巻きに眺めていた。
「ザンジス宰相が失脚した」――その噂は、瞬く間に王都中を駆け巡る。

だがその裏で、誰も知らぬ暗い糸が動き始めていた。

***

マーガレットは、ザンジスが遺した密偵網を再び動かしていた。
彼女の指示一つで、各地の役人や帳簿係が裏で動き出す。
目的は一つ――ラービス・カリスの出生記録。

「……“ラービス・カリーナ”。」
資料を開いたマーガレットの唇が愉悦に歪む。
「まさか、王族の恋人が“女”だったなんて。おとぎ話も顔負けね。」

ルイは王宮内の資料室で、ひっそりとノアの潜入報告書を探っていた。
彼の表情には、兄弟の情など一片もない。
「……ノア、完璧主義者のくせに、詰めが甘いな。」
唇に浮かぶのは、兄の皮肉ではなく、狩人の笑みだった。

表向きは「弟と和解した王子」として。
裏では“王の寵愛を奪うための刃”を研いでいた。

夜ごと、ルイとマーガレットは密会を重ねる。
蜜の香と共に、計画が熟していく。

「証拠が揃い次第、陛下に上申する。
“弟が国家を欺いていた”となれば、ノアは二度と立ち上がれまい。」
ルイが低く呟くと、マーガレットは静かに微笑んだ。

「ふふ……その時、ノア殿下は“恋”を取るか、“王族の責務”を取るか。
――どちらを選んでも、地獄に落ちることに変わりはないわ。」

***

カリーナは久々に故郷の屋敷へ戻っていた。
眠る間も惜しみ、彼女は再び“カリス”として街を歩き始める。
ノアが王宮の公務に追われる今、自分が動くしかない。

――彼を支えたい。
――彼の誇りを守りたい。

その想いが、彼女を突き動かしていた。

薄水色の髪は、帽子の中にすっぽりと隠した。
鏡の前で深呼吸し、ツギハギの服を整える。
「よし……今日も完璧な“カリス”ね!」
(※鏡の前でガッツポーズ。偽装レベルMAX)

そんな彼女が街を歩いていると、ザンジス邸の裏通りでメイドたちの話し声が耳に入った。

「ねぇ、聞いた? ラービス・カリス令息って、実は女性なんですって!」
「うそ!? あの群青の王子が!?」
「しかもノア殿下も女装して捜査してたとか! ちょっと見てみたい~!」
「やだ~! 殿下、似合いそうなのがまた悔しいのよね~!」

――カリス、真っ青。
(な、なんでバレてるの!?!?)

頭の中を冷や汗が駆け抜ける。
(ま、待って。落ち着いて、私。バレる要素なんて――たぶん、ない……はず! でも……いや、ある!? いやいやいや、そんなまさか!)

パニックの中で、カリスは壁に背をつけ、必死に思考を整理する。
だが、冷たい現実が心を刺す。

(もしこのまま私の正体が露見すれば……反逆罪で処刑される。それに、ノア殿下も“共犯”扱いになる。
絶対に……そんなの、絶対に嫌!)

目の前が滲む。
それでも、カリーナの中で“愛”が勝った。

彼を救うためなら、自分を犠牲にしてもいい。

(……そうよ。私が“カリス”をやめればいいの。)

ふと、思考が閃く。

(ノア殿下と婚約破棄をして、私が勝手に男装していたことにすればいい。ノア殿下は知らなかった。関与していない。
全部私の独断――そう言えば、殿下の罪は免れる。)

それは、己の恋を終わらせる覚悟でもあった。
でも、彼を守るためなら――それでいい。

カリーナは静かに空を見上げた。
朝の光が、雲の隙間から射し込んでくる。

「ノア殿下……」
彼の名を呟く声は震えていた。
けれど、その瞳はまっすぐに光を宿していた。

「あなたを救うためなら、私は笑って罪を被る。だって、あなたは――私の光だから。」

風が吹き、帽子のつばが揺れる。
カリス――いや、カリーナは決意の笑みを浮かべ、再び歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...