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異世界?なるほど、若い人たちに流行っていた物語だな?
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誰かに言われたからとか、強要されてるわけではなく、必要だからといって続けているのだ。それも報酬と呼べれるものは、皆無である。村人に頼ろうにも皆自分の生活に必死で、親無し金なしの子供一人が犠牲になれば、村の安全は守られるとなれば喜んで差し出す事だろう。
決して褒められた行為ではない。でも、仕方がないのだ。
自分はその仕方がない、と人を犠牲にする摂理の外にいる。知識がある。それから生まれる技術を体得できる。それらを使って、彼女をこの過酷な現状から救い出して見せる。
それくらいなら、できるはずだ。
そうこうしていると、鳥肉が焼きあがった。香ばしい香りを漂わせている。
あまり食に対して興味がない部類だが、さすがに空腹感を感じた。
「ヤハラさん。焼けたので、一緒に食べましょう!」
「そうしましょう」
自分は手を洗い、火鉢の前に移動した。
リリィは串をもって火鉢から外した肉を差し出してきた。
「食べにくかったら、使ってください」
そういって先ほど解体に使ったのとは別のナイフを、どこからともなく取り出して自分に貸してくれた。
「そのナイフは、一体何本持っているんですか?」
聞いたそばから、彼女はまた別のナイフを取り出していた。
「6本ですね」
事もなげに言うと、ほらと本当にあと3本取り出して見せた。
どうしてそんなに刃物をと聞くと、逆に何故聞くんですか? と言わんばかりに答えられた。
「必要だからですよ。今だって使ったじゃないですか?」
たしかに、と手元の刃物へ視線を落とした。
全長は12センチほど。全長の5分の3が柄で残りは刃。わずかに曲線を描いた刃で、柄との境界部分には鍔と思しき突起がある。
以前聞いた話だが、鍔のように返しがないと、固い物や動物を刺した時に手が滑って指を切ってしまうらしい。
おそらく何度も研ぎなおしている刃の部分は不自然に模様ができている。年季の入った物の様だが、切れ味はすばらしく撫でるだけで肉が切れて行った。
「ナイフは便利ですから、いつも最低でも6本は持つようにしてます」
菌やウイルスという物の存在は知らないだろうが、食材を切る時などは使い分けているようだった。
そういうリリィは、まるで自分の指の一部のように使い、丸焼き鳥の肉を削ぎながら口に運んでいた。なんとも器用だが、この家にナイフと木の板以外の食器を見た事が無いので、きっと彼女の日常道具がナイフなのだ。自分のような日本人が箸やボールペンを使うのと同じ頻度でナイフを使っている。
その事が少し、というかかなり悲しくなった。彼女くらいの年頃なら、ナイフの使い方よりも筆記用具の使い方に長けている方が余程自然だ。
そうして昼食を終え、一休み。
「リリィさん。字を読んだり書いたり、計算をしたりはできますか?」
先ほどの感傷で思った事だが、この世界の就学率はどの程度なのだろうか。
「字ですか? 読めませんよ? この村でできるのは、お役人さんだけだと思います」
それもそうだろう。生きるので精いっぱいの現実である。学問に興じれるのは極一部だろう。それこそ貴族のお遊びだか、商人だけだろう。
「字は教えられませんが、計算なら教えられます」
「え?」
大きな目をさらに真ん丸に見開いて驚くリリィ。
「自分は一通りできます。なのでもし余計なお世話でなければ、お教えできます」
そこで彼女はおろおろとうろたえ始めた。
「あ、あの。わたし、お金もないですし、それに、ええと、頭もそんなに良くないですし。ええ、と。ええと……」
ええととずっとつぶやきながら、視線を左右に彷徨わせ、返す言葉に悩む彼女。
それがおかしくてつい笑ってしまう。
「貴女に何かしてあげたいというだけなんです」
自分が勝手にやる事だというと、上目遣いに彼女がこちらを見て来た。
「そ、その。お礼、なんて、わたしには、できませんよ……?」
「そんなの必要ないですよ」
「だ、だって、字を書けるようになるのは、ものすごくお金がかかるんですよ? それに算術なんて商人だって物凄いお金をかけて賢者に教わるものです」
ああ、なるほど。そんな事を気にしているのか。
「ははは。でしたら、自分は命を一度助けられています。それのお礼という事で」
「……わたしは、とんでもない聖人さまを助けたのかもしれません」
「え?」
「いえ! なんでもありません」
そういってリリィはがつがつとほぼ一息に肉を頬張ると、がばっと立ち上がった。
「午後の見回りに行ってきます」
「え? わかりました」
少し早いが、顔の赤い彼女はすたすたといつもの見回りルートへ歩いて行ってしまった。
自分はそれを見送り、残りをありがたく平らげると、木材の加工を行った。
決して褒められた行為ではない。でも、仕方がないのだ。
自分はその仕方がない、と人を犠牲にする摂理の外にいる。知識がある。それから生まれる技術を体得できる。それらを使って、彼女をこの過酷な現状から救い出して見せる。
それくらいなら、できるはずだ。
そうこうしていると、鳥肉が焼きあがった。香ばしい香りを漂わせている。
あまり食に対して興味がない部類だが、さすがに空腹感を感じた。
「ヤハラさん。焼けたので、一緒に食べましょう!」
「そうしましょう」
自分は手を洗い、火鉢の前に移動した。
リリィは串をもって火鉢から外した肉を差し出してきた。
「食べにくかったら、使ってください」
そういって先ほど解体に使ったのとは別のナイフを、どこからともなく取り出して自分に貸してくれた。
「そのナイフは、一体何本持っているんですか?」
聞いたそばから、彼女はまた別のナイフを取り出していた。
「6本ですね」
事もなげに言うと、ほらと本当にあと3本取り出して見せた。
どうしてそんなに刃物をと聞くと、逆に何故聞くんですか? と言わんばかりに答えられた。
「必要だからですよ。今だって使ったじゃないですか?」
たしかに、と手元の刃物へ視線を落とした。
全長は12センチほど。全長の5分の3が柄で残りは刃。わずかに曲線を描いた刃で、柄との境界部分には鍔と思しき突起がある。
以前聞いた話だが、鍔のように返しがないと、固い物や動物を刺した時に手が滑って指を切ってしまうらしい。
おそらく何度も研ぎなおしている刃の部分は不自然に模様ができている。年季の入った物の様だが、切れ味はすばらしく撫でるだけで肉が切れて行った。
「ナイフは便利ですから、いつも最低でも6本は持つようにしてます」
菌やウイルスという物の存在は知らないだろうが、食材を切る時などは使い分けているようだった。
そういうリリィは、まるで自分の指の一部のように使い、丸焼き鳥の肉を削ぎながら口に運んでいた。なんとも器用だが、この家にナイフと木の板以外の食器を見た事が無いので、きっと彼女の日常道具がナイフなのだ。自分のような日本人が箸やボールペンを使うのと同じ頻度でナイフを使っている。
その事が少し、というかかなり悲しくなった。彼女くらいの年頃なら、ナイフの使い方よりも筆記用具の使い方に長けている方が余程自然だ。
そうして昼食を終え、一休み。
「リリィさん。字を読んだり書いたり、計算をしたりはできますか?」
先ほどの感傷で思った事だが、この世界の就学率はどの程度なのだろうか。
「字ですか? 読めませんよ? この村でできるのは、お役人さんだけだと思います」
それもそうだろう。生きるので精いっぱいの現実である。学問に興じれるのは極一部だろう。それこそ貴族のお遊びだか、商人だけだろう。
「字は教えられませんが、計算なら教えられます」
「え?」
大きな目をさらに真ん丸に見開いて驚くリリィ。
「自分は一通りできます。なのでもし余計なお世話でなければ、お教えできます」
そこで彼女はおろおろとうろたえ始めた。
「あ、あの。わたし、お金もないですし、それに、ええと、頭もそんなに良くないですし。ええ、と。ええと……」
ええととずっとつぶやきながら、視線を左右に彷徨わせ、返す言葉に悩む彼女。
それがおかしくてつい笑ってしまう。
「貴女に何かしてあげたいというだけなんです」
自分が勝手にやる事だというと、上目遣いに彼女がこちらを見て来た。
「そ、その。お礼、なんて、わたしには、できませんよ……?」
「そんなの必要ないですよ」
「だ、だって、字を書けるようになるのは、ものすごくお金がかかるんですよ? それに算術なんて商人だって物凄いお金をかけて賢者に教わるものです」
ああ、なるほど。そんな事を気にしているのか。
「ははは。でしたら、自分は命を一度助けられています。それのお礼という事で」
「……わたしは、とんでもない聖人さまを助けたのかもしれません」
「え?」
「いえ! なんでもありません」
そういってリリィはがつがつとほぼ一息に肉を頬張ると、がばっと立ち上がった。
「午後の見回りに行ってきます」
「え? わかりました」
少し早いが、顔の赤い彼女はすたすたといつもの見回りルートへ歩いて行ってしまった。
自分はそれを見送り、残りをありがたく平らげると、木材の加工を行った。
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