上 下
1 / 61
サバゲーって知ってる

01

しおりを挟む

 おそらく染みのある学校のチャイム。放課後になり、真っ赤な西日が教室に差し込む。

 クラスメイトたちは、各々友達と待ち合わせしたり、大きなカバンを担いで外へ行く。

 その中でひとり、部活に行くわけでも、友達と放課後を満喫するわけでもなく、教科書とノートをカバンにつめる少女がいた。教室の端の方で、廊下側の目立たない席。

 ――うー。忘れ物はないかな?――

 机の中を確認してから、カバンを閉じて担ぐ。

 ふっくらした薄桃色の頬と、黒目がちな大きな目。おかっぱの黒髪は濡れたように艶やかで、すましてちょこんと座ると、背が小さいこともあり人形のようで愛らしい。しかし物静かすぎる性格と態度が災いして、クラスでは浮いた存在になっている。

「雨、あがった……」

 なんとはなしに見た窓の外。灰色の雲と、高い空が半々で分かれている空からは、もう雨粒は落ちてこない。

 ――よかった、よかった――

 雨は嫌いだ。どうせなら、太陽が見えた方が嬉しい。

 少女は口元をほころばせながら、教室を出る。もうほとんどの生徒はいない。

 廊下は日の光も少なく、影を落としている。遠く離れて、部活動や友達と語り合う声が聞こえて、どこか非現実的な雰囲気を醸し出していた。

 ――もう、夏だ……――

 衣替えも過ぎ、ブレザーからブラウスになった。まだ朝と日が沈んでからは肌寒く、校則に反しない程度のカーディガンを着ている。

 ――なにか、しないと……――

 漠然と胸にうずく、変化を求める声。

 しかし自分に何ができると考えてみると、何もない。そんな事はもう十五年も付き合っているのだ、自分自身が一番よく知っている。

 ふうと少女はため息をついて、肩を落とす。

 自分を変えたい。

 友達も少なく、これといって得意な科目もない。ずば抜けて可愛いとか、美人とか、そういうこともないと自負している。五秒後には忘れていそうな、平々凡々な容姿であることは、重々承知している。

 どれだけ変身願望が強くても、現実の壁は厚く高い。

 考えれば考えるほど、頭が痛くなる。

「うー……」

 暗澹とした気分。

 それと五時間目の数学からトイレを我慢していた事を、今更ながら思い出して進路を変更。階段脇のトイレへ入った。

「あ、あれ?」

 何か雰囲気がおかしい。三つある個室。ひとつが使用中である事を除けば、いつもと何も変わらない場所だ。

「んー? う?」

 閉じたドアの前に立ってみる。違和感の正体は全てここに集約している気がした。

 少しだけ腰をかがめて、小首をかしげる。

 誰かが、こっちを伺っている。そんな気配。

「なにしてるの?」

「Why!? 気付かれたデスかッ!?」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

銀行員が謎を解く~不思議な絵画~

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

前世の因縁は断ち切ります~二度目の人生は幸せに~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:91,520pt お気に入り:2,136

恋花火

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

『紅い薔薇の香』

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

離縁するので構いません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:46,188pt お気に入り:534

私とコンビニ吸血鬼

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:9

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:60,109pt お気に入り:3,679

処理中です...