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サバゲーって知ってる
01
しおりを挟むおそらく染みのある学校のチャイム。放課後になり、真っ赤な西日が教室に差し込む。
クラスメイトたちは、各々友達と待ち合わせしたり、大きなカバンを担いで外へ行く。
その中でひとり、部活に行くわけでも、友達と放課後を満喫するわけでもなく、教科書とノートをカバンにつめる少女がいた。教室の端の方で、廊下側の目立たない席。
――うー。忘れ物はないかな?――
机の中を確認してから、カバンを閉じて担ぐ。
ふっくらした薄桃色の頬と、黒目がちな大きな目。おかっぱの黒髪は濡れたように艶やかで、すましてちょこんと座ると、背が小さいこともあり人形のようで愛らしい。しかし物静かすぎる性格と態度が災いして、クラスでは浮いた存在になっている。
「雨、あがった……」
なんとはなしに見た窓の外。灰色の雲と、高い空が半々で分かれている空からは、もう雨粒は落ちてこない。
――よかった、よかった――
雨は嫌いだ。どうせなら、太陽が見えた方が嬉しい。
少女は口元をほころばせながら、教室を出る。もうほとんどの生徒はいない。
廊下は日の光も少なく、影を落としている。遠く離れて、部活動や友達と語り合う声が聞こえて、どこか非現実的な雰囲気を醸し出していた。
――もう、夏だ……――
衣替えも過ぎ、ブレザーからブラウスになった。まだ朝と日が沈んでからは肌寒く、校則に反しない程度のカーディガンを着ている。
――なにか、しないと……――
漠然と胸にうずく、変化を求める声。
しかし自分に何ができると考えてみると、何もない。そんな事はもう十五年も付き合っているのだ、自分自身が一番よく知っている。
ふうと少女はため息をついて、肩を落とす。
自分を変えたい。
友達も少なく、これといって得意な科目もない。ずば抜けて可愛いとか、美人とか、そういうこともないと自負している。五秒後には忘れていそうな、平々凡々な容姿であることは、重々承知している。
どれだけ変身願望が強くても、現実の壁は厚く高い。
考えれば考えるほど、頭が痛くなる。
「うー……」
暗澹とした気分。
それと五時間目の数学からトイレを我慢していた事を、今更ながら思い出して進路を変更。階段脇のトイレへ入った。
「あ、あれ?」
何か雰囲気がおかしい。三つある個室。ひとつが使用中である事を除けば、いつもと何も変わらない場所だ。
「んー? う?」
閉じたドアの前に立ってみる。違和感の正体は全てここに集約している気がした。
少しだけ腰をかがめて、小首をかしげる。
誰かが、こっちを伺っている。そんな気配。
「なにしてるの?」
「Why!? 気付かれたデスかッ!?」
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