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サバゲーって知ってる
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ほとんど聞こえない、少し甲高い少女の小声。それと同時にそのドアは開いた。
それからはわけもわからないまま、個室に連れ込まれる。
「シー、デスヨー?」
背後から抱きしめられ、口は塞がれている。注意の声すら、耳元でなければ聞き漏らしてしまいそうなほど小さい。
一瞬脳裏に恐怖が疼いた。
「そっちは? トイレの中は?」
「まだです!」
「見てきて」
足音。
個室の外。三名の少女たちの声と気配の音。
状況を理解できない少女は、ただじっとしている。携帯電話の画面が背後から伸びてきた。
――手を離すから、使用中とだけ答えて――
メールの編集画面にはそれだけ書かれていた。小さく頷くと、ゆっくりと口を押さえる手は離れた。
それとほぼ同時、ドアが叩かれる。
「つ、つかってますぅ」
「あ、ごめんねー。――いません」
「次」
「了解」
そして三人の足音は遠ざかっていった。
「……ふう」
少女を抱きしめる誰かは、肩の力を抜いた。
改めて状況を見てみると、背後から抱かれているどころが、膝の上に乗せられて座っていた。
振り返ってみると、当然すぐ近くに見知らない顔があった。
「Oh,sorryネー?」
にっこりと微笑む少女だった。
太陽のような金色のセミロングを後頭部で縛った髪。にっこりというのが一番似合う顔。着崩した制服は長袖のブラウス。袖をまくっていて、今時といえば今時だ。背は高く、170センチメートル半ば。整った顔はどこか日本の雰囲気はあるが確実に、外国の方が強い。
「それにしても、ナゼ気づいたデスネー? びっくりしたヨー」
目を輝かせて、彼女はたずねてきた。口調もどこかイントネーションが可笑しい。
「あ、そ、の……」
「Yes? どうしたデスネー?」
「お、おてあらい」
「Otearai?」
「もれちゃう……っ!」
「Oh my god! sorryネーッ!?」
急激に動かされたせいで、余計に催しが激しくなった。
慌てて体の位置を入れ替え、個室から出た。恐ろしく素早く、音の立てない動作だった。
用を済ませて、外へ出ると、先ほどの少女が窓の外を眺めていた。一瞬そのまま逃げようかと思ったが、意を決して声をかける。
「あ、あの?」
「Oh! OKデスネー? イきマスネー」
――どこにだろ?――
背中を押されて、蛇口まで行く。とりあえず手を洗うと、ハンカチを渡された。
「使っテくだサイネー」
「あ、ありがとう、ございます」
借りなくても大丈夫だが、断る理由もないので、ありがたく使わせてもらう。
「Oh yes! 名前言ってなかったネー。ウチ雨前尋《あまさきひろ》ネー。よろしくおねがいネー」
カタカナの名前が聞けるかと思ったが、予想に反して完全に日本人の名前だった。その事に少しだけ衝撃を受けながらも、ぺこっとお辞儀して自己紹介をした。
「蒔宮音羽です……」
「Otowa? 音に、わ、わ。羽《Wing》? 音羽の滝デスネー?」
腕組みして少女、尋は首を傾げる。片言で発音が狂った日本語なのに、妙に詳しい。
「それです。羽です」
「Yes! あたったネー!」
至極嬉しそうに、その場で両手をぱたぱた振る尋。
それからはわけもわからないまま、個室に連れ込まれる。
「シー、デスヨー?」
背後から抱きしめられ、口は塞がれている。注意の声すら、耳元でなければ聞き漏らしてしまいそうなほど小さい。
一瞬脳裏に恐怖が疼いた。
「そっちは? トイレの中は?」
「まだです!」
「見てきて」
足音。
個室の外。三名の少女たちの声と気配の音。
状況を理解できない少女は、ただじっとしている。携帯電話の画面が背後から伸びてきた。
――手を離すから、使用中とだけ答えて――
メールの編集画面にはそれだけ書かれていた。小さく頷くと、ゆっくりと口を押さえる手は離れた。
それとほぼ同時、ドアが叩かれる。
「つ、つかってますぅ」
「あ、ごめんねー。――いません」
「次」
「了解」
そして三人の足音は遠ざかっていった。
「……ふう」
少女を抱きしめる誰かは、肩の力を抜いた。
改めて状況を見てみると、背後から抱かれているどころが、膝の上に乗せられて座っていた。
振り返ってみると、当然すぐ近くに見知らない顔があった。
「Oh,sorryネー?」
にっこりと微笑む少女だった。
太陽のような金色のセミロングを後頭部で縛った髪。にっこりというのが一番似合う顔。着崩した制服は長袖のブラウス。袖をまくっていて、今時といえば今時だ。背は高く、170センチメートル半ば。整った顔はどこか日本の雰囲気はあるが確実に、外国の方が強い。
「それにしても、ナゼ気づいたデスネー? びっくりしたヨー」
目を輝かせて、彼女はたずねてきた。口調もどこかイントネーションが可笑しい。
「あ、そ、の……」
「Yes? どうしたデスネー?」
「お、おてあらい」
「Otearai?」
「もれちゃう……っ!」
「Oh my god! sorryネーッ!?」
急激に動かされたせいで、余計に催しが激しくなった。
慌てて体の位置を入れ替え、個室から出た。恐ろしく素早く、音の立てない動作だった。
用を済ませて、外へ出ると、先ほどの少女が窓の外を眺めていた。一瞬そのまま逃げようかと思ったが、意を決して声をかける。
「あ、あの?」
「Oh! OKデスネー? イきマスネー」
――どこにだろ?――
背中を押されて、蛇口まで行く。とりあえず手を洗うと、ハンカチを渡された。
「使っテくだサイネー」
「あ、ありがとう、ございます」
借りなくても大丈夫だが、断る理由もないので、ありがたく使わせてもらう。
「Oh yes! 名前言ってなかったネー。ウチ雨前尋《あまさきひろ》ネー。よろしくおねがいネー」
カタカナの名前が聞けるかと思ったが、予想に反して完全に日本人の名前だった。その事に少しだけ衝撃を受けながらも、ぺこっとお辞儀して自己紹介をした。
「蒔宮音羽です……」
「Otowa? 音に、わ、わ。羽《Wing》? 音羽の滝デスネー?」
腕組みして少女、尋は首を傾げる。片言で発音が狂った日本語なのに、妙に詳しい。
「それです。羽です」
「Yes! あたったネー!」
至極嬉しそうに、その場で両手をぱたぱた振る尋。
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