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サバゲーって知ってる
05
しおりを挟む説明を聞いて、いきなり黙った尋。そして、彼女の心拍が一度だけ強くなったのを”聞いた”音羽は、何か起きたのかと彼女の顔を覗き込む。
「ぐ……」
「ぐ?」
「Great heavenlyiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!!!」
大声ではなく、普通の音量で尋は叫んだ。しかし、両目は星が出そうなほどキラキラ輝き、頬を上気させている。
「素晴らしい、素晴らしいネーおとチャン! SQR-19みたいネー! Non! みたいじゃなくてそのものネー。もしかし、足音で色々わかるネー?」
宝くじの一等に当たっても、それほど喜べるかどうか。尋はそれくらいに歓喜している。声を張り上げない癖が染み付いているのだろうか、そのかわりに全身でその感情を表している。
「わ、わかります。場所と、どれくらい離れてるかとか、なら」
「That's incredible! すごすぎるネー! おとチャンぅ!」
ばふっと音羽の体を抱きしめて、腕の中にすっぽり収めた。
「わ、ふぁ」
「Berry かわいいネー! フーとタッグ組みマシたら、ICBMも、ATBも、なんでも撃墜できるデスヨー!」
音羽には何を言われているのか、全然理解できなかったが、どうやら手放しに褒めちぎられているようだ。
「やっぱりDiamondの原石デスネー。えへへ、こうなったら、ウチのにスルネー。ちゅー」
興奮のやまない、むしろさらに上昇する彼女。そのままがっちり音羽を抱きしめて、頬に唇を寄せだした。
「ふあ!? やめ、やめてください!」
「ちゅーして嫁にもらうデ――」
「なぁあにを、していますの?」
必死に手を隙間にねじ込んで止めていたのに、突然尋は動きを止めた。
騒がしくて気づかなかったが、新たに入室者がいる。その声が、尋の動きを止めた。
上品な茶葉を使い丁寧に淹れた真紅のような髪と、透き通るような白い肌。背は高く、若干勝気に目尻がつり上がっている。間違いなく美人に部類される新しい入室者。夏用の制服をお手本の様に着込んでいるからか、仁王立ちをする姿に少し違和感がある。
「二年一組出席番号三番、”元”第一サバイバルゲーム部部長の雨前尋さん?」
若干甲高い声。上ずっているのは、怒りと緊張の現れだ。
――だれだろう。すっごい美人さんだ……――
音羽は純粋に綺麗な外見に関心しながら、見上げていた。見下す彼女の冷たい目は、完全に音羽を見ていないから落ち着いていられた。
動かない尋の代わりに、その少女が尋の束ねた髪の毛を鷲掴みにして、音羽から引き剥がす。
「後輩への準強姦の罪で逮捕しますわよッ!」
「Outy! 痛いネー! たまチャン!」
「おだまりなさい!」
バランスを崩してペタンと座り込んだ尋は、後頭部を押さえて涙目で訴える。それを一瞥して、ふんと鼻で笑った。
「先生が呼んでいるわ。来なさい!」
「Oh! no! そこ引っ張ったら痛いネーッ!」
ばたばたもがくが、尋の劣勢が変わるわけでもない。むしろ暴れたことで余計に痛んだらしく、掴んだ手を押さえて身悶える。
「ちょっと、まっーー」
「ほら、いきますわよ!」
ズルズル引きずられて、部屋を後にした。
「ぅん?」
部屋を出る直前、赤い髪の少女が一瞬だけ、音羽を見た気がした。
二人がいなくなり、静かになった部屋。
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