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サバゲーに行こう!
02
しおりを挟む「どうかしましたか?」
膨れたままの尋をいぶかしんで音羽が訊ねると、車のエンジンをかけながら尋の父が笑った。
「後輩の前で、カッコ付けられなくて、フテてるだけさ」
「ちがいマスヨー!」
「じゃあどうした?」
「おとチャンの面倒は、ウチが見るデスヨー!」
父との会話で不満を吐き出す。その言葉に音羽は笑った。
「ゲーム中のアウトは、フーが見よう」
「ふぃっ!?」
突然の声に、音羽の薄い肩がびくっと盛大にはねた。
奥の荷物がもそっと動いて、フーの生白い顔が出てきた。呼吸音も、心音も聞こえなかったので、誰もいないと思っていた。こんなことは初めてだったので、口から心臓が出そうなほど驚いた。
「Oh.起きたネー?」
「ヒーロがうるさくて、眠ってられない」
「Thank you……」
もう一度もそもそと動いて、フーは大きく伸びをした。
今日はいつものゴスロリではなく、黒一色のつなぎ。全体的にゆるく、明らかに1サイズは大きい。
「アウトは初心者だ。ヒーロについて行けるはずがない」
ふあと小さくあくびを漏らして、眠たそうな半目を音羽に向けてくる。
――まつげ、長いなぁ――
全く関係のない事に感心しているとも知らず、音羽を置き去りにして、尋とフーはああだこうだと話を進めた。
「OK. いつも通りネー」
「それ以外ない。M4使わないならな」
フーが言った一言。一瞬だけ、尋の顔を苦虫を噛んだようにゆがみ、軽薄に笑った。
「いつも通りヨー」
「そうか」
「そうだ、おとチャンのためにー、簡単にサバゲのルール説明するネー」
「おさらい」
「じゃじゃーん」
胸ポケットから、ちいさな紙切れを取り出した。
――そういえば、おなじ服だ――
尋とフーが同じ黒いつなぎを着ている事に、今更気づいた。チームユニフォームではなさそうだが、少し気になった。
「サバイバルゲーム、略してサバゲーネー。おもちゃの鉄砲で遊ぶゲームネー。基本的に弾に当たったらgameoverデスヨー。ヒットって叫んでフィールドから退場してクダサイネー」
「跳弾や味方からの誤射でも同様にヒットだ」
「当たってるのにゲームを続けた場合、ゾンビって言って誹謗中傷の的になるから気を付けてクダサイネー」
「当たったかもしれないと思ったら、ヒットコールして退場するのがいい。そうすれば、なにも言われる事がないからな」
こくと頷くと、フーが少しだけ微笑んだように見えた。
「細かなゲームレギュは、体感するのがベストだ」
とりあえずそこまでらしい。現に紙に書かれていたのはそこまでだった。
「Present for you. 分かんなくなったら読んでネー」
「読むよりフーに聞いた方が早い。ヒーロは字が汚くて読みづらい」
「What!?」
「習字を習え」
「ひどいヨー!」
「なにより、スイッチの入っていないヒーロの知能は、猿以下だからな」
ふたりのやりとりに微苦笑しながら、音羽はもらった紙切れを読む。言うほど字は汚くないと思った。
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