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サバゲー大会決勝戦!
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しおりを挟む――逃げる――
ふと手が止まる。
――わたしはどうして、ここにいるんだろう?――
場違いに思える疑問が、頭に浮かぶ。
――尋先輩に頼まれて……――
最初は、確かトイレで偶然尋を見つけて、そこから始まったように覚えている。
――違うよ。わたしは――
そんなのは切欠のひとつでしかない。
――自分を変えたくて、弱虫で、何にもできない自分を変えたかったんだ!――
それが、今自分がここにいる理由。
――逃げてても、何も変わらない。変わらなきゃ、ダメだから――
ぐっとフーに作ってもらった、大切なエアソフトを握りしめ、震える足を叱咤する。
――戦わなきゃ――
状況が分からない。ならば調べればいい。自分にはその力がある。
耳を澄ませて、呼吸を落ち着かせる。一切の雑音を排除するように、自分を静かな泉の中に沈め込むような感覚で音だけに集中する。
近く、弾の届く距離に人はいない。居たとしたら、それは尋たちレベルの力量の者だ。まともに撃ち合って勝てる相手ではない。
ならば、前にだって出られる。
――大丈夫。大丈夫。見つけて、罠を張って、やり合えば――
グリップを握りしめ、腰を低く。深呼吸。そして、一歩目を踏み出す。
その刹那。ジャックの端、住宅街とは反対方向の荒れ地から、低く唸るようなモーターと金属の擦れる音が聞こえた。
――なに?――
その瞬間、無意識に伏せた音羽の頭上を、何かが通過した。
そしてクイーンの外壁に、今まで聞いたことがない連続した着弾音。
――な、なに今の!? 四十八発飛んできた!?――
通常の電動エアソフトなら、一秒にどれだけ早くても二十数発が限度だ。今の射撃は、その倍近くあった。
たちまち恐怖が全身を駆け巡る。どんなエアソフトなのかは知らないが、とてつもないモノなのは予想できた。
一度鎮めた心拍数が跳ね上がり、呼吸が乱れる。
――どこ? どこ!?――
敵の位置が、全く読めない。離れているからか。だとしたら、狙い撃ちだ。
血の気が失せる。
――ダメだ。動かないと……ッ!――
立ち止まれば、本当に狙い撃ちだ。それに状況を変えなければ、相手に他の手を考えさせる時間を与える事になる。
意を決して、音羽は愛銃のストックを畳み、階段を駆け下りた。
そしてそのままの勢いで一番近くの小さい丘に駆け込む。一本の線のように連なった弾が、後を追うように飛んでくる。
遮蔽物になる小山に飛び込んで、次を考える。百発撃ち込み相手は攻撃を止めた。
――横合いから接近する? こんなに離れてたら、気付かれちゃう――
先ほど弾が飛んできた方向を、一瞬だけ顔を出して確認する。
そこに待ってましたとばかりに、嵐のような弾の暴風雨が降り注ぐ。
――きた!――
着弾を確認するより前に、頭を引っ込めてターン。頭を出した方向とは逆から飛び出して、一目散にジャックまで駆け抜ける。
建物内に飛び込むと、ブバーと無数の着弾音が響く。
嫌になるほど続いた弾幕が、突然止んだ。
じゃらん、じゃらんというBB弾が、マガジンの中で踊る音。敵は近づいてきている。
それと十数発単位で、周囲の壁に牽制射撃が行われている。
一瞬音羽は、自分が隠れている位置が、知られているのか不安になったが、そうではないようだ。
着弾箇所は、およそ5メートルの範囲でバラけている。
以前フーと共に使った手だ。威嚇の牽制射撃を続けて、精神力を削る戦法だ。
まばらに飛んでくる弾丸。まれに近くに着弾するものがあるが、それでも次は全然別の場所に当たる。
――大丈夫。わかってない――
ならば今がチャンスだ。
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