執着系姉弟は、幼馴染を溺愛してる。

麻野 繊維

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皆川兄妹の受難 真希編

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「美代姉はともかく、悠真は私立に行けばよかったのに」
 ボソリと日々思っていることを真希が呟くと、その隣を歩く悠真はニコッと綺麗な笑みを浮かべた。
「そんなことしたら、真希と一緒にいられないじゃん。それに、僕以外の男が真希に近付いたりしたらどうするのさ」
「……いつも言うけど、近付いてもどうもしないよ。何も起こるわけないし」
 少し悔しいので口には出さず、心の中で「そもそも寄ってこないし」と付け加えておく。
「もー!真希はわかってないなぁ。とにかくね、僕が真希の1番じゃないと嫌なの!」
「今そもそも1番じゃないけど」
「えー??そんなぁ。僕は真希が好きで好きで大好きで1番なのに?」
「もう!そんな誤解されるようなこと、大きい声で言わないでよっ!!!」
「誤解じゃないのになぁ」
 このくだりは、この学校までの道で何度も行われている。学校が近くなると、周りを歩く同校の生徒が増えるので、悠真にべったりくっつかれて歩く真希は、ストレスと恥ずかしさで逃げ出したくなる。これは入学してから3年経つ今でも、変わらない気持ちだ。
 人目を憚ることなく、好きだの1番だのと堂々と言い張る悠真に、最初は意味がわからず困惑していたが、今では怒りを感じていた。少女漫画を好む真希は、中学で淡い初恋を経験したり、先輩にときめいてみたり、なんなら彼氏なんかできちゃったり?!といったことを密かに夢見ていた。というか、消しゴムを落としたら隣の席の男の子が拾ってくれて、優しさにキュンとする、程度のささやかな出来事でいいから経験してみたかったのだ。
(なのに、なのにーーーー!!!)
 常にべったりと側にいる悠真のせいなのか、クラスメイトの男子からですら、日直など用事のある時以外に話しかけられたことがなかった。クラスメイト以外などもっての外。それに、くじ引きで決まる席順なのに、何度席替えがあっても必ず隣の男子が悠真だった。消しゴムを落としても鉛筆が転がっても悠真が拾うだけ。しんどすぎる。前後と反対側の席はこれまた何故だか必ず女子だった。プリントを回すという絶好のコミュニケーションチャンスにも、男子と接触する機会がなかった。



「おはよう甲斐君」
「お!悠真おはよー」
「悠真くぅん、おはよぉ」
 眉目秀麗成績優秀な悠真は、校舎の下駄箱に着くなり沢山の人に話しかけられ注目を浴びていた。
「真希!おはよっ」
 そんな悠真からこっそり離れて靴と上履きを履き替えていた真希は、声のした方へ笑顔で振り返った。
「真美ちゃん!おはよ」
 声の相手は、名前が似てるねということをキッカケに仲良くなったクラスメイトの西川 真美にしかわ まみだ。
「相変わらず甲斐君凄いねぇ。3年生なのに、1年生の間でもかっこいいって有名なんだってね」
「ふーん」
「あははっ!真希は本当に興味ないんだね」
「家でも学校でも一緒だよ?もうウンザリだよ」
 真希がそう言ったところで、人に囲まれていたはずの悠真に肩を掴まれた。いつの間に近づいてきていたのか。
「西川さん、おはよ。真希、そんな悲しいこと言わないで、ね?」
「ちょっと、アンタといると目立つからイヤなの!離れて、触らないで!」
 肩を掴む手を無理やり払おうとすると、悠真はするりとその手を真希の手に絡ませた。
「!!!!!!!」
「手、繋いじゃったー!えへへ。みんなに真希は僕のってアピール~!」
 怒りと羞恥のあまり声を失った真希を見て真美は苦笑いをした。
「真希、教室行こ」
「西川さん、真希は僕がちゃーんと連れて行くからご心配なく。先に行ってて良いよ」
「うん。そうするね」
 真希はまだ声が出ないようで、口をパクパクさせながら縋るような目で真美を見ていた。その様子を横目で見ながら真美は教室へ向かう。
(ごめんね、真希。でも甲斐君には逆らいたくないんだよねぇ)
 真希は全く気付いていない。悠真が真希以外にとる態度が、どれほど自分に対するものと違うのかとか。真希が気付かないところで、色んな裏工作をしていることとか。
(真希以外の女子のこと、絶対に名前で呼ばないのも気付いてないんだろうなぁ)
 幼馴染なせいなのか、とにかく悠真に興味のない真希のことを考える真美の背中を、そうとは知らない真希は焦りながら見つめていた。

(ま、真美ちゃん!!!置いていかないでぇ!!!!)


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