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甲斐姉弟の最愛
しおりを挟む生まれた時からずっとそばにいた、可愛い可愛い幼馴染。好き、という感情が芽生えたのは一体いつからだったか。
他の大人たちが、自分達を可愛い可愛いといつも褒めたが、その言葉で心が満たされることはなかった。両親も言っていた。外見が美しくても、お金があっても、それ以上に大切だと思えるものがある。それを守るために、頑張れる。それを守ることが自分達の幸せなんだ、と。
美代子と悠真は、幼い頃から大人びていて、感情の起伏の少ない子供だった。そんな2人は、本当に普通な子供である、幼馴染の兄妹にそれぞれ心を奪われた。賢くなんでもすぐ理解する2人は、すぐにわかった。あぁ、これが両親の言っていた大切だと思えるものだと。
もちろん幼稚園や小学校と過ごす中で、他の平凡な子供たちとも接したが、幼馴染ほど心を動かす相手は出来なかった。好かれたい、守りたい、とにかく一緒にいたいと強く思うのは、姉弟には幼馴染だけだった。
「お父さん、お母さん。私たち、大切にしたいものがあるの」
「2人も言ってたよね?それを守るのが幸せだって」
姉弟はとっくに気付いていた。両親にとっての大切なもの、それが自分達でないことを。親としてもちろん大事にしてくれているが、それ以上に特別な存在があることを。
両親は姉弟の話を聞いて、とても喜んだ。なにせ自分達が大事に大事に影から守り、側で見守り続けた存在の子どもを自分の子どもが大切なのだと言うのだから。さらにもっと近い存在になれる、と喜んだ両親は、大切なものを守るため必要なことはなんでも学ばせた。姉弟も喜んで努力した。
平凡な兄妹が接しやすいように、年齢相応の態度をとった。隣を誰かに取られないように、常に側にいた。警戒されないように、遠ざけられないように。相手の性格を把握して、どう行動したら離れていかないかいつも考えた。
「樹ぃ、今日買い物行こうよ。この間変な男に声かけられて嫌だったから、一緒に来てほしいのー」
樹は優しいので、そこにつけ込む。苦手な相手でも困っているアピールをすれば、必ず助けてくれるから。
「真希、これ確か欲しいって言ってたよね?貰ってくれる?」
真希は少女漫画にありがちな出来事や、優しい男が好きだから、自分がそういう存在に見えるように意識して行動する。でも意地っ張りなところがあるので、必要な部分は押して押して真希がしょうがなく受け入れる体を装えるようにした。
見た目も良く頭も良い2人が外堀を埋めていくのは、とても簡単だった。もっと自分達しかいない世界に囲い込みたかったけれど、それはリスクが高すぎるので諦めた。なにせ皆川夫婦には最強の守護神である甲斐夫婦がついている。うっかり悲しませたり困らせたりするようなことがあれば、自分の子とはいえ容赦なく攻撃してくるのが目に見えていた。
許される範囲でじわりじわりと自分のところへ堕ちてくるように。そうしてアリ地獄にハマってしまった皆川兄妹は、どんどん堕ちていく。甲斐姉弟の手の中に。
「樹ぃ、大学も一緒だねぇ」
「樹ぃ、ね、お父さんも樹なら良いって言ってたから。女の子の一人暮らしは何かと心配だしさぁ。広いし部屋もあるから、ねっ?一緒に住もうよ~」
「樹、樹ぃ、怖い映画見たせいで眠れないの。一緒に寝てよ」
「樹、大好き」
「ねぇ樹、世界で1番樹が好きなの。他には何もいらないくらい。いなくなったら泣いちゃうからね」
「樹、ついに大学卒業だね。え?部屋出てく?なんで?就職先ここから近いでしょ?出勤楽じゃない?このまま住んでようよ」
「やっぱり出て行く?なんで?私、心配かけるから言わなかったけどストーカーされてるの……怖いから一緒に住んでてよ」
「ねぇ、樹。樹は私のこと嫌い?」
「樹、昨日私と何したか覚えてる?」
「真希、姉さんと樹兄さんは一緒に住むんだって。僕たちも大学生になったら一緒に住む?」
「高校って楽しいね。通学の時間、ずっと真希と一緒にいられるしクラス違ってもお昼一緒に食べられるし」
「真希、ここ、ほらごはん粒ついてる。とってあげるね」
「大丈夫?嫌なことでもあったの?僕に話してみて」
「この間真希に嫌がらせした奴、懲らしめといたからもう安心して良いよ。え?この傷?これはなんでもないよ」
「真希、この世で真希が1番だよ」
「卒業おめでとう、これお祝いだよ」
「大学も一緒だなんて、また楽しく過ごせそう」
「これ、前に話したでしょ?真希の親にも僕ならってオッケー貰ってるから、一緒に住もうよ。部屋?沢山あるよ?もう家具も用意しちゃったからさ、ね?」
「真希、いつも可愛いね」
「真希……覚えてないの?昨日すごく酔ってたもんね。でも僕、ちゃんと責任とるから安心して」
甲斐姉弟は、少しずつ且つ強引に、しかし確実に準備をし事を進めた。そうして見事に手に入れたのだ。最愛の存在との未来を。
皆川兄妹の最大の不幸は、甲斐姉弟に恋愛感情を持たれてしまったことである。ただ、捕まえられたその後の生活は、意外とそこまで悪くなかったようだ。
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