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第Ⅲ章 現実と理想

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「アンナ、手紙を届けてくれるかしら」
「畏まりました」
手紙の相手は隣国に住まう叔母様。隣国の伯爵家に嫁いだ叔母様がいるのだ。
「それと、近々夜会に出席する予定があるから仕立て屋を呼んで頂戴」
「畏まりました」
「夜会にはマリアナも出るそうよ」
私の言葉にアンナは怪訝な顔をした。送って来たマリアナの手紙の内容から察するに王妃教育は難航している。その状態で夜会に出ても恥にしかならない。しかもマリアナはカール殿下の婚約者。彼女の失態は王家の失態。彼女の恥は王家の恥になる。
被害を被るのは公爵家だけではないのだ。
「マリアナのお披露目でしょうね」
「ならもう少し、マナーなどを身に着けてからの方がよろしいのではないでしょうか」
「そうね。王妃様は何を考えているのかしら」
私はアンナが淹れてくれたお茶で喉を潤す。
王妃の考えていることは予想がついている。
「貴族社会とは怖いところね」
アンナは一礼して部屋を出て行った。私の用事を済ませるために。

◇◇◇

それから三か月後、私は王家主催の夜会に出席した。
青い色のドレスに小粒のダイヤを散りばめ、胸元に黒いリボンを飾っているものだ。頭には青い薔薇の髪飾りを付けている。
隣国の叔母様が送ってくれた隣国の特殊な技巧を用いて作られたガラスの髪飾りだ。
夜会に出ると早速私を貶めようと群がる貴族令嬢がいた。私がカール殿下の婚約者になる前に候補として名前が上がったいた連中だ。
「ごきげんよう。まさか出席なさるとは思いませんでしたわ(妹と元婚約者のお披露目会に出席するなんて面の皮が厚いのね)」
胸元と肩を大胆に開いた赤いドレスのご令嬢は私と同じ公爵家、リリー様
「残念ですわ。何れあなたと殿下が並び立つ姿が見られると思っていましたのに(ざまぁみろ)」
侯爵家のジョワンヌ様。
扇子の後ろにある彼女たちの口元には醜悪な笑みが隠されているのだろう。その美しく着飾った姿で醜い心を隠しているように。
「公爵家の人間として、王家主催の夜会に出席するのは義務ですわ。私は個人の感情で放棄するほど、無責任ではありませんの。あなた方はどうか知りませんけど」
私が涙目で悔しそうな顔をするところでも想像していたのだろうか。彼女たちはにっこりと笑って言い返す私を不服そうに見つめる。
「それではごきげんよう」
私は彼女たちの元から離れて取り合えずマリアナたちの姿を探す。関わり合いになりたくないし、近づきたくもないけど、貴族の義務として殿下に挨拶はしないといけないのだ。
特に特徴のない子だから姿を見つめるのに時間がかかるかと危惧していたけど彼女の容姿に特徴がなくとも、行動には特徴があるので直ぐに見つけた。
「何をしているのかしら」
マリアナは貴族令嬢ともめている様だ。一応、隅の方にはいるけど周囲の者たちは気づいている。知り合いたちと会話をしながら耳だけはマリアナと彼女を囲んでいる貴族令嬢に向いている。
ちらりと壇上の上に居る王と王妃に目を向けた。二人とも騒動に気づいてはいるけど動く気はないようだ。王は素知らぬ顔で挨拶に来た貴族の対応をしている。
王妃とは目が合ったけど、にっこりと微笑まれた。
どうやら、私の考えは当たっていたようだ。王妃はすでにマリアナの教育を諦めている。それどころ、彼女を王妃にしても害悪にしかならないと考えているようだ。
だから、問題を起こさせて周囲にマリアナは王太子妃に相応しくないと声をあげさせる。彼女の問題にカール殿下も首を突っ込めば彼も共倒れになるだろう。それが狙いだ。
公爵家と言えど周囲の声を黙らせることは不可能。そんなことをすれば、他の貴族との軋轢を生む。貴族という閉鎖的な世界で爪弾きにされては生きてはいけない。
「お父様でもどうすることもできないわね」
やはり、隣国の叔母さまに手紙を書いたのは間違いなかったと私は確信した。
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