殿下、あなたの悪事を暴き、私は必ず運命を変えるので覚悟してくださいませ!

音無砂月

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本編

20.束の間の邂逅

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「護衛任務ですか?」
「ああ」
今日、公爵家での訓練を終えた後応接室に通された。
「ご子息のですか?」
そこでギルドを通した正式に、指名依頼をするという前提で先に話しだけ通させてもらいたいということだった。
「いや、シュテンゲート国の王太子だ」
ドクリと心臓が大きく脈動した。
「どうかしたのか?」
「い、え。なんでもありません。シュテンゲート国の王太子ということは、ザイード殿下でしょうか?」
「そうだ。よく知っているな」
「お名前だけですが」
忘れるはずもない。過去に起こった戦争の原因となった男だ。
シュテンゲート国とは昔何度も戦争をしていた。けれど、戦争というのはお金がかかる。そのくせ長引けば長引くほど得られるものは僅か。
両国とも国土の疲弊が激しく、これ以上戦争を続けるのは不可能だと判断した。それに加え、両国の王太子が戦争反対派だったことも大きい。両王太子は陰で繋がり、協力しながら味方を増やし、王を説得させて不戦条約を結んだ。
それから五十年は平和が続いた。
不戦条約が成立した日は毎年、交互に王太子が訪れ友好を深めるのだ。そして今年はシュテンゲートの王太子がナハトに来る番だった。
それが平和の終わりとなった。
ザイード殿下は賊の襲撃にあい、亡くなった。彼を護衛していた者を含め生き残りはいなかった。犯人はすぐに判明した。ナハトの高位貴族だ。犯行を否定していたが言い逃れできない証拠が揃い、裁判を待たずに処刑となった。
しかし、それはシュテンゲートの意向を無視したものだった。
「犯人を見つけたから」「処刑したから」いいだろうというナハトの身勝手なやり方に当然ながらシュテンゲートは激怒。不戦条約は破棄され、即開戦となった。
「ザイード殿下を我が公爵家で歓待することになっている」
「公爵家でですか?普通、王太子を迎えるのは王宮ではないのですか?」
「陛下が病に伏せっているのは知っているな」
「はい」
だからこそイヴァンが好き勝手できたのだ。止める者はいなかった。
「友好国とはいえ元敵国、そのことを知られるわけにもいかない。それに、いくら隔離しているとはいえ王太子殿下に何かあっては困る」
そしてザイード殿下は殺され、公爵家はその責任を取らされることになったということか。
「ザイード殿下にも自国か騎士がつきますよね?それなのに私までつけるのですか?」
実際にザイード殿下は殺された。その事実を知っているからこそ護衛はもっと必要なのでは?と思ってしまうけど公爵たちは違う。
不戦条約が締結されて五十年は経っている。そして今まで問題なく交流は行われてきたのに過剰な護衛が必要だと考えている。それは私の知らない何かが水面下で動いているということだろうか?
戦争はザイード殿下の死だけが原因ではない?
死ぬ前は情報を手に入れられる立場にはいなかったから何が起こっているのかまるで分からない。だからこそこの任務は引き受けるべきだろう。当事者になれば得られた情報と過去に起こったことを照らし合わせて動けばイヴァンの企みを阻止できるかもしれない。
「万が一に備えてだ。相手は他国の王太子だからな。気乗りしないか?」
内情は明かさないのか。それでも構わない。
「いいえ、引き受けます」
「そうか。そう言ってもらえると助かる」

***

ザイード殿下は二十四歳、私とラッサールとは十歳離れているのか。
「初めまして、アリステア殿」
それでも忙しい公爵に代わって殿下の相手をしなくてはいけないラッサールは彼が退屈しないように心を尽くさなくてはいけない。公爵というのは大変だな。
子爵家だったからか、エリシュアがそういう役目を与えられているのを見たことがない。そのせいか、彼の方が年上なのに目の前にいるラッサールの方がずっと大人びて見えた。
「アリステアで構いません、小公爵様」
殿下の護衛をするということは必然的に彼の相手をするラッサールも護衛対象になる。もちろん優先順位は殿下にはなるが。そのため私はこの日は初めて彼と顔を合わせることになった。
私が死ぬ前に見た時はいつだったろうか?今よりも大人だったのは確かだ。

『大丈夫ですか?』

子爵家で道具として扱われていた私を気遣う者はいない。体調が悪くても私のやることは変わらずただエリシュアのためだけに存在させられていた。そんな中、時折屋敷で見かけていた彼だけが私を気遣ってくれた。
彼だけが私を人として扱ってくれた。それは同情だったのかもしれない。あるいは魔石を盾にエリシュアにいいように扱われている自分と重ねて、仲間意識のようなものを感じていただけなのかもしれない。
それでも構わなかった。
私に与えてくれた気遣い、優しさは本物だったから。それは確かに私にだけに与えられた初めてのものだったから。
「では私のこともラッサールと」
良かった。顔色が良さそうだ。
エリシュアはラッサールをいいように扱うくせに難癖つけて魔石をあまり与えなかった。そのせいでいつもギリギリの魔力を体内で循環させていたラッサールは青白い顔をしていた。
「私は平民なので、そういうわけには」
恩返しなんて恩着せがましいことを言うつもりはないけど、それでも彼が与えてくれた優しさへのお返しは、少しはできたと思っていいだろうか。
「確かに私は公爵家であなたは平民です。でも、どうしてでしょうか?私はあなたと対等でありたいと思っているんです」
「っ」
ああ、あなたは覚えていないのに、それでも変わらずそう言ってくれるのね。

『気遣いは無用です、小公爵様。私はあなた様に気遣って頂けるような者ではありません』と無愛想に返した私に彼は怒ることなく言った。
『私の気遣いが迷惑でしたら申し訳ありません。でも、そうではなく身分を持ち出して言っているのなら私に気遣わせては貰えませんか?私はあなたと対等でありたいのです』と。

「もちろん、人前では無理なのは分かっています。あなたに迷惑はかけたくありません。なので公爵家の者だけがいる時で構いません。ダメ、でしょうか?」
きっとこれ以上私と彼の道が交わることはないだろう。
私は生きるために違う道を選んだから。でも、今、この時だけは。束の間の戯れを許されるのなら。
「分かりました。ザイード殿下が帰られるまでの短い期間ではありますが、よろしくお願いします。ラッサール」
「はい」
私の未来が変わったように、あなたの未来も幸福なものに変わりますように。
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