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第Ⅰ章 私は悪役令嬢
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「………そう」
あの日からエーメント殿下はお茶会に来なくなった。
何度かお誘いしたけど「忙しい」の一言で片付けられてしまう。
月に一度のお茶会は忙しい私達が交流できるようにとの陛下の計らいだと言ったら、それがまずかったのだろう。
殿下は取り次いでさえくれなくなった。
「レミット公爵令嬢、いくら婚約者だからと殿下にわがままを言うのはおやめください。殿下とて暇ではないのですよ。もっと婚約者らしく節度を守っていただきたい」
エーメント殿下の従者、アルフレッドは眉間に皺を寄せて私に迷惑だとはっきり告げた。
私の、この行動は間違っているのだろうか。
◇◇◇
「エーメント殿下には会えましたか?」
王宮を出た私を馬車の前で待っていたイスファーンが心配そうに私を見ている。
殿下のことでイスファーンには何も言っていないがここ最近の私の様子や月に一度のお茶会がないことから何かしらの問題が発生しているのは火を見るより明らかだ。
「お忙しいみたい。仕方がないわ。暫くは様子を見ましょう」
両親に殿下のことを言った方がいいのかもしれない。
でも言ったところでどうにもならないだろう。
母には叱られるかもしれない。
私がしっかりしていないからだと。
「‥‥しっかりしないと」
不安なんてただの錯覚。殿下は本当にお忙しいだけ。
「あっ、お姉様。お帰りなさい」
「‥…アリシア」
邸に着くとパタパタと音を立てて駆け寄って来る妹は誰が見ても可愛い。
「お姉様、聞いて。あのね、今度のお休みに殿下と城下に行くことになったの」
「えっ」
「殿下はとてもお優しいのね。あんなお優しい人と結婚するなんてお姉様が羨ましいわ」
無邪気に笑うアリシア。彼女が何を言っていたのか私の頭には入って来なかった。
王宮に行っても忙しいからと会ってさえくださらないのに。アリシアには会うの?この前のお茶会だってアリシアを優先されていた。
もしかして、殿下は‥‥‥。
「お姉様、どうかしたの?」
「アリシア」
「ん?」
「あっ、ううん。何でもない」
「えぇっ。言いかけて止めるのはなしよ。気になるじゃない」
「本当に何でもないの」
「変なお姉様」
何を聞くつもりだったの。
アリシアは殿下のことをどう思っているの?
そんなこと聞いてどうするの。
エーメント殿下は私の婚約者。アリシアとどうこうなるはずがないもの。何も気にすることなんてない。
私は自分に何度も言い聞かせた。
大丈夫だと。
それが間違いだと思い知らされたのはそれから数日後のことだった。
◇◇◇
王妃教育を終えて、帰る途中
元気のない私を気にして王妃様が気分転換になるからと庭を散策する許可をくださった。
「っ。な、んで」
散策した庭にはアリシアとエーメント殿下がいた。ただいただけならまだいい。いつものように知らないふりができた。でも、二人はキスをしていた。
お互いに熱い眼差しを向けていたのだ。
分かっていた。
気づいていた。
もしかしたらと何度も思い、そんなはずがないと打ち消した疑惑。
「お、お姉様、どうしてここにっ!?」
パシンっ
気が付いたら私はアリシアに駆け寄り、彼女の頬をぶっていた。
じんじんと痛む手が失われていた理性を呼び戻した。
「あっ」
謝らなければと思った。幾ら何でも暴力を振るうのはダメだと。でも、言葉が出てこなかった。
「お、お姉様」
「っ」
「アリシア、大丈夫か?」
エーメント殿下は私に叩かれた衝撃で地面に尻もちをつくアリシアに駆け寄った。その時、彼の体が私に当たった為、私も地面に尻もちをついた。
「エーメント殿下」
アリシアはエーメント殿下の手を借りて立ち上がる。
「ひどい。何て奴だ。妹に暴力を振るうなど。気でも狂ったのか」
「‥…で、んか」
殿下の目が冷たく私を見つめる。
心が凍り付き、私は何も言えなくなってしまった。
あの日からエーメント殿下はお茶会に来なくなった。
何度かお誘いしたけど「忙しい」の一言で片付けられてしまう。
月に一度のお茶会は忙しい私達が交流できるようにとの陛下の計らいだと言ったら、それがまずかったのだろう。
殿下は取り次いでさえくれなくなった。
「レミット公爵令嬢、いくら婚約者だからと殿下にわがままを言うのはおやめください。殿下とて暇ではないのですよ。もっと婚約者らしく節度を守っていただきたい」
エーメント殿下の従者、アルフレッドは眉間に皺を寄せて私に迷惑だとはっきり告げた。
私の、この行動は間違っているのだろうか。
◇◇◇
「エーメント殿下には会えましたか?」
王宮を出た私を馬車の前で待っていたイスファーンが心配そうに私を見ている。
殿下のことでイスファーンには何も言っていないがここ最近の私の様子や月に一度のお茶会がないことから何かしらの問題が発生しているのは火を見るより明らかだ。
「お忙しいみたい。仕方がないわ。暫くは様子を見ましょう」
両親に殿下のことを言った方がいいのかもしれない。
でも言ったところでどうにもならないだろう。
母には叱られるかもしれない。
私がしっかりしていないからだと。
「‥‥しっかりしないと」
不安なんてただの錯覚。殿下は本当にお忙しいだけ。
「あっ、お姉様。お帰りなさい」
「‥…アリシア」
邸に着くとパタパタと音を立てて駆け寄って来る妹は誰が見ても可愛い。
「お姉様、聞いて。あのね、今度のお休みに殿下と城下に行くことになったの」
「えっ」
「殿下はとてもお優しいのね。あんなお優しい人と結婚するなんてお姉様が羨ましいわ」
無邪気に笑うアリシア。彼女が何を言っていたのか私の頭には入って来なかった。
王宮に行っても忙しいからと会ってさえくださらないのに。アリシアには会うの?この前のお茶会だってアリシアを優先されていた。
もしかして、殿下は‥‥‥。
「お姉様、どうかしたの?」
「アリシア」
「ん?」
「あっ、ううん。何でもない」
「えぇっ。言いかけて止めるのはなしよ。気になるじゃない」
「本当に何でもないの」
「変なお姉様」
何を聞くつもりだったの。
アリシアは殿下のことをどう思っているの?
そんなこと聞いてどうするの。
エーメント殿下は私の婚約者。アリシアとどうこうなるはずがないもの。何も気にすることなんてない。
私は自分に何度も言い聞かせた。
大丈夫だと。
それが間違いだと思い知らされたのはそれから数日後のことだった。
◇◇◇
王妃教育を終えて、帰る途中
元気のない私を気にして王妃様が気分転換になるからと庭を散策する許可をくださった。
「っ。な、んで」
散策した庭にはアリシアとエーメント殿下がいた。ただいただけならまだいい。いつものように知らないふりができた。でも、二人はキスをしていた。
お互いに熱い眼差しを向けていたのだ。
分かっていた。
気づいていた。
もしかしたらと何度も思い、そんなはずがないと打ち消した疑惑。
「お、お姉様、どうしてここにっ!?」
パシンっ
気が付いたら私はアリシアに駆け寄り、彼女の頬をぶっていた。
じんじんと痛む手が失われていた理性を呼び戻した。
「あっ」
謝らなければと思った。幾ら何でも暴力を振るうのはダメだと。でも、言葉が出てこなかった。
「お、お姉様」
「っ」
「アリシア、大丈夫か?」
エーメント殿下は私に叩かれた衝撃で地面に尻もちをつくアリシアに駆け寄った。その時、彼の体が私に当たった為、私も地面に尻もちをついた。
「エーメント殿下」
アリシアはエーメント殿下の手を借りて立ち上がる。
「ひどい。何て奴だ。妹に暴力を振るうなど。気でも狂ったのか」
「‥…で、んか」
殿下の目が冷たく私を見つめる。
心が凍り付き、私は何も言えなくなってしまった。
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