悪役令嬢らしく全てを奪われ、断罪されたはずなのになぜかヤンデレ従者に溺愛されてます

音無砂月

文字の大きさ
29 / 36
第Ⅳ章 恋は堕ちて行くものだった(アリシア視点)

28

しおりを挟む
私の名前はアリシア。
私には美しいお姉様がいる。名前はイリス。
お姉様は美しいだけではなく、とても優秀で私なんか足元にも及ばない。
お姉様はみんなに愛されている。私とは大違い。
私はお父様に愛されてはいるけどお母様からは嫌われている。
私の容姿がお気に召さないようだ。
「私だって、なれるものならお姉様のように美しく生まれたかったです」
「アリシアはとても美しいよ。君のお母様は他国の人間だからね。美しい評価の基準が違うんだよ」
そう言って私の頭を撫でて慰めてくれるのはエーメント殿下。
お姉様の婚約者です。
とても格好良くて、優しい。
こんな人が婚約者だなんて、お姉様はやっぱりズルい。
「白磁の肌に明るい色の髪。それがこの国の美しいと言われる評価基準だ」
「お姉様とは真逆ですね」
お姉様は褐色の肌をしている。髪も黒で、ちょっと重たい印象がある。
エーメント殿下はよほど私の髪がお気に召したのか指に絡めて遊んでいる。
そう言えば、お姉様とエーメント殿下って婚約関係にあるのにあまり一緒にいるイメージがない。
どうして?
「イリスには他国の血が色濃く出たんだ。正直、彼女を王妃の座に座らせることに迷いがある。彼女たちの国とは長らく敵対していたから、余計にね」
お姉様とお母様がこの国に良からぬことをしようとしているとエーメント殿下は言いたいのだろうか?
そんなことないっ!と、言いたいけど言えない。
家族として信じてあげたいけど、あの二人がこの国に馴染んでいないのは妹の私でもよく分かる。
どうしてこんなに豊かで素晴らしい国を愛せないのだろう。
こんなにお優しいエーメント殿下を悩ませるなんて。
私がもし婚約者だったら………………。
いけない。何を考えているの。
エーメント殿下はお姉様の婚約者。
決して好きになってはいけない相手なのよ。
「お姉様は毎日、エーメント殿下に相応しくあろうと研鑽を積んでいますわ。今はまだ視野が狭いのかもしれませんが、何れエーメント殿下と婚姻して世界の広さを知れば己が井の中の蛙であったことを理解される日が来ますね。お姉様はとても優秀ですから。私なんかと違って」
ああ、苦しい。
辛い。
痛い。
エーメント殿下を愛しているのに、その恋敵のフォローをしなければならないなんて。辛すぎるわ。
「お姉様が羨ましい」
「アリシア………………」
ぽろりと本音がこぼれ落ちた。
「あ、あの、お姉様はエーメント殿下にとても思われていて、お母様やお父様からも愛されているので羨ましいなと。私は、お母様になぜか嫌われているみたいで」
慌てて取り繕ったからかなり不自然だったかもしれない。
私の気持ちに気づかれたらどうしよう。
「お姉様は私と違って優秀ですし、何れは王妃になられる方だから当然かもしれませんが」
やだなぁ。
本当のことだかど悲しくなる。
姉妹なのにどうしてこうも違うのだろう。
「それは辛いな。イリスは何もしてくれないのか?」
「どうやら私はお姉様にも嫌われているみたいなんです。きっと私のような不出来な妹を持って恥しいと思っているんですわ。仕方がないことです」
「あははは」と笑って見せるとなぜかエーメント殿下はとても辛そうに微笑んだ。
今にも泣いてしまいそうな顔をしていたのでどうしたのだろうと思っていると私はエーメント殿下に抱き締められていた。
「そんなことはない。アリシアはとてもよくやっているよ」
嬉しかった。
今だけはエーメント殿下の目に映っているのはお姉様ではなく私。
その事実がたまらなく嬉しくて、ドキドキした。
まるで本当の恋人になったみたいだったから。
だけどその高揚はすぐに下降した。
なぜなら僅かに開いたドアからお姉様がこちらを見ていたから。
まずいと思った。すぐに離れなかればと。
だけどお姉様は何も言わずに行ってしまった。
なぜ?
お姉様はエーメント殿下を愛していらっしゃらないのだろうか。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

処理中です...