仄暗い部屋から

神崎真紅

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第四章

act 2 感じる賢司との溝

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  ある程度は分かっていたけれど、賢司はSEXはしなくなった。

  それは瞳が太ったからとか、それだけの理由でない事だけは確かだった。
  ずっとドラックセックスしかしてなかった賢司は、素面しらふではあまりにも快感の度合いが違いすぎる。

  そう、薬が無ければただのSEX。

  賢司がイっても、瞳がイってない事も多分察したのだろう。
  出所してもう五か月が過ぎる。
  その間、たったの三回だけしかなかった。
  それも9月でぷっつりと途絶えてしまった。


  そして・・・・。

  何かでちょっとした喧嘩になった時、賢司の口から信じられない言葉が飛び出した。

 「何を頼んでも何もやってくれねぇんだったら、俺は離婚しても構わねぇんだ」
 「離婚?瑠花と離れて独りになるの?それが出来るの?」
 「別に構わねぇ。独りの方が俺は何も期待する事もねぇからな」


  信じられなかった。
  確かに家の中は散らかり放題だったし、頼まれた事も忘れたり、覚えてなかった事もあった。
  けれど、それだけであっさり離婚する、なんて言える賢司を疑った。
  瞳と一緒にいる事すら、嫌になったのだろうか?

  思えば出所してから苛々している事が多くなった。
  慣れない仕事へのプレッシャー。
  薬が欲しい、という自分の心との葛藤。
  瞳は、賢司が薬を欲しがってる事は見抜けていた。
  とにかく苛々していて、あまり口も聞かなくなったり、瞳と話していても投げやりに怒った様な、棘(とげ)のある言葉しか返って来なくなった。

  そんな賢司の態度から、瞳はもう賢司が自分に対しての愛情がなくなったのではないか、と思う様になった。

  それからの瞳は、賢司と話しをする時、おどおどしながら話す様になった。
  途切れた事のなかった賢司との会話も、白けた空気が漂っていると感じていた。


  来年3月には仮釈期間も終わる。
  そこで賢司がどう変わるのか、不安でいっぱいだった。
  煙草は本当に辞める事が出来たが、覚醒剤は違うと思う。
  間違いなく賢司はまた薬を始める、その確信が瞳の中にはあった。
  けれどその時、賢司が瞳に戻って来ないかも知れないという不安があった。

  誰か、他の女に走るのではないか?
  瞳にしていたみたいに他の女に覚醒剤を打って、瞳としていたドラッグセックスを他の女とするのではないか?
  そんな事になった時、自分は正常ではいられなくなるだろう。
  そのまま狂気の中で自殺するかも知れない、と。

  そう。
  本音を言えば、賢司が薬を忘れられないのと同じく、瞳も忘れる事が出来なかったのだ。
  覚醒剤の記憶は、賢司とのドラッグセックスとして、瞳の脳裏に焼き付いたままなのだ。
  賢司の事は今も昔と変わる事なく愛している。
  そんな賢司の口から『離婚』など冗談でも言って欲しくはなかった。


  ある日、瞳の身体に湿疹が出ているのに気付いた。
  それはお腹から太ももまで広がっていた。
  食中毒を疑ったが、それらしい物は食べてはいなかった。

  ならばこの湿疹は、一体何が原因なのだろう?
  ストレスで湿疹が出るのならば、それが一番うなずける。

  摂食障害もまた酷くなり、水分以外のものは吐き戻してしまう。
  それでも痩せないどころか、10㎏もリバウンドしていた。

  自分の姿が醜く感じ、云い様のないプレッシャーに飲み込まれていった。

  もう、何も食べないでいたい・・・・。
  こんな醜い姿が自分だなんて、認めたくはなかった。

  けれど、賢司もそう思っているのかも知れない。
  醜いデブが自分の妻だなんて恥ずかしい、と、思っているのではないのだろうか?

  瞳だって痩せられるものなら痩せたい。
  瑠花を産んだ時の体重に戻りたい。
  そう思って減量して来た。
  頑張って働いて働いて、やっと10㎏落ちたのに何故?また戻ってしまった。

  瞳の努力は、報われる事のないものになってしまった。
  運動は腰を痛めている瞳にはきつい。
  出来る事はただの自己満足、思い込みで始めたサラダと豆腐のみの食事。
  それでも少しは減量出来ていたんだ。
  朝昼抜きで、夕食だけサラダだけにした。

  少しずつ落ちて来た体重は、長い停滞期間を挟みながらも確実に見た目が変わって来た。
  やっと10㎏落ちた時は本当に嬉しかった。
  なのに・・・・。

  まるで今の自分と賢司みたいだな。
  苦笑しながらそう思った。
  賢司との歯車は、いつ?どこから食い違ってしまったの?
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