仄暗い部屋から

神崎真紅

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第四章

act 11 悪夢

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 賢司は狂いだすと何故か、瞳の尿道に何かを入れるおかしな性癖が出てくる。
  それで瞳は、何度も「痛い、痛い」と繰り返し言うのだ。
  考えてみても判ると思うが、尿道は細いし、何かが入るような構造には造られてはいない。

  何年か前に、注射器のキャップを入れられて、それが膀胱まで入ってしまい、血尿は出る、座ることも出来ないほどの激痛に耐えかねて、近所の泌尿器科で、内視鏡で取り出して貰った忌まわしい過去があった。

  その時、内視鏡を尿道に入れられただけで、身体中がガタガタ震えるほど痛かった。
  それでも取り出さなければ、膀胱に癒着してしまったら、開腹手術で取り出さなくてはならなくなるからと医師に言われ、瞳は半泣きの状態でその痛みに耐えたのだった。

  以来、尿道をいじられるのが恐怖に繋がるのは、瞳にとっては当然の事。
  けれど、賢司は懲りなかった。

  そりゃあそうだ。
  地獄の痛みに耐えたのは瞳であって、賢司じゃ、ないのだから。


  ある夜、賢司がホテルに行ってやろう、と言い出した。
  自宅では、外の物音が気になり過ぎて集中出来ないから、と。

  瞳も、外の物音にいちいち腹を立てる賢司が本当に怖かったから、すんなりふたりでホテルに行ったのだった。

  そこで賢司はありえない量の薬を瞳に打った。

  身体中の血管が燃える様に感じ、目なんて開けてもいられない。
  顎はがくがく痙攣し、その痙攣は四肢にまで広がっていった。
  瞳は何が何だか分からないのに、死ぬかもしれない....そんな思いだけが頭を支配していた。

  そして....。
  何故か賢司が自分を見捨てて出て行ってしまう、と感じていた。
  そのために瞳が動けなくなる程、多く打ち込んだのだと。

 「け....、おい、てい、か....ない、れ....」

  うわ言のように、瞳は繰り返し、言った。

 「いいから乳首舐めて感じさせろ。俺を気持ちよくさせなかったら、置いてくかもな」

  賢司もかなり効いていたのだろう、まるで脅しの様な口ぶりで瞳に乳首を舐めるよう言った。

 「け....くる、し....」

  呼吸がしにくい。
  このまま瞳は、息が出来なくなって死ぬ様な、そんな恐怖が襲って来ていた。

  賢司の身体が、反対向きに瞳の上に覆いかぶさる。
  そこからまた賢司は、瞳の尿道を弄りだした。

  痛い....。
  そこはやめて....。

  声にならない、瞳の悲鳴。
  何かがまた、瞳の尿道に刺さっている。

  この時賢司は、瞳の尿道に細いなわとびの様なビニールの紐を挿入していたのだ。
  そして、ホテルで買ったバイブや電マで、瞳の尿道からクリトリスを、ぐりぐりと刺激していた。

  時折、「可愛いおまんこ、いやらしくて最高だよ瞳」と、言いながら。
  可愛い、と言われるとつい、嬉しくなってしまう。
  それが、惚れた弱みなのだろう。

  けれど、賢司も瞳には心底惚れていた。
  だから、一緒に堕ちたくなってしまう。

  ....どのくらいの時間が過ぎたのか、時間の感覚が狂うのは、覚醒剤の効き目のひとつにあげられる。

  瞳の身体に変化が来た。
  突然、狂った様にイキまくりだしたのだ。
  痛みも、何もかも判らなくなって、ただ、絶頂に達する。
  それが延々続くのだ。
  体力が持たないのは当然なのだが、そこはやっぱり覚醒剤の絶大なる力にすっぽり支配されているから、効いてる間は、疲れすらも蚊帳の外。

  抜けた時に地獄が待っている。
  麻薬とはそうしたものだ。

  この日、結局朝まで10時間は軽く休みなしで突っ走った。
  賢司が瞳の中に入ってきた時、下腹部に圧迫感、それからまた尿道に堅いものがある、と感じた。

  ホテルのベッドは血塗れで、まるで殺人現場の様だ。
  取りあえず賢司は満足いくドラックセックスがやれたお蔭で、上機嫌だった。


 「賢司....、なんか尿道痛いし、お腹が張ってるんだけど....」
 「えっ?マジで。あれ?ない。ビニールの紐が無くなってる。嘘だろ、俺、またやっちゃったのかな?」

  そこからとにかく入れたかどうだか、判らないモノを探し回った。
  案の定、ビニールの紐と、これまた大変な、注射器のシリンダー、つまり注射器の押し棒が一本、見つからなかった。

  と、いう事は、瞳の尿道若しくは膀胱に入ってしまった可能性が限りなく正解という事になる。



 瞳はこの日、早朝6時からシフトが入っていた。
  休むわけには、いかない時間帯。

  そのまま、血尿と膀胱炎のような激痛に耐えながらも、5時間の仕事を終えて帰宅した。
  その日の賢司は、いつになく優しかった。
  瞳の身体を心配して、尿道の出口に固いものがある、という瞳の言葉を信じ、一度は賢司自ら尿道の中に入った物を取り出そう、と、頑張ってくれた。

  けれど、もうそんな簡単な場所にはなくなっていた。
  そこから瞳は、身動きすら出来ないほどの激痛と戦い続ける事になる。
  排尿が一番辛かった。
  まるで、尿道に、燃える鉄の棒でも突っ込まれるような激しい痛みに襲われる。

  その割に、おしっこは出ない。
  その日は殆ど動く事も出来ず、茶の間で出来るだけ痛まない体勢を探して寝転がっているのが精一杯だった。

  そうこうしていても、ただ時間だけが過ぎてゆくだけで、瞳の様子は、だんだんと悪い方向に向かっていた。

  夜も8時を回った頃、賢司が見かねて言い出した。

 「瞳、病院行くか?このままじゃ瞳の身体が心配だよ」
 「うん....さすがにこの排尿痛は我慢の限界。でも、もう夜だし、こんな状態で救急車を呼ぶ訳にいかないから、夜間救急やってるところ119番に電話して聞いてみる」
 「分かった、俺準備するわ」

  119番で紹介されたのは、2件の、総合病院。
  一方は、瑠花を出産した総合病院。
  しかし、ここにはまだ、未払い金が残っていて、掛かれない。

  ちょっと遠いけど、、もう一方の総合病院に急患で掛かる連絡を入れた。

 「あの、朝から血尿が出てて、おしっこも殆んど出ないんですけど、排尿痛が酷くて....」
 『分かりました、病院までどのくらいで来られますか?』
 「30分から40分ぐらいかかります」
 『それでは気を付けてきて下さい』

  賢司は薬が入ってる状態だと、とんでもない運転をする。
  一般の道路を150キロで走る。
  遊園地のアトラクション級の、スリル満載。
  でも、遊園地のアトラクションは、コンピューター制御されているけど、こういう状態の賢司にリミッターは残念ながら存在しない。

  瑠花を助手席に乗せていても、その運転にブレーキはもはや、ない。
  瞳は後部座席で、賢司のその運転に身体を固定する術もなく、ただ痛みと戦っていた。
  このまま一瞬でも賢司がハンドル操作を誤ったら、家族3人仲良く(?)あの世行きだ。
  笑えないなぁ....。

  そんな事ふと考えながら瞳は、とにかく一刻も早くこの激痛の元を取り除いて貰って、普段の生活を取り戻したかった。
  まさか、瞳の身体にそんな事が起こっているなんて、勿論夢にも思わなかった。
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