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初めての王都と赤い髪の聖騎士
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王都に辿りついたのは、それから五か月後のことだった。
聖女の任を引き受けてから今日に至るまで、振り返れば怒涛の日々だった。各種資料を用意し、両親に手紙を送って、北方で一番大きな街で教会による加護の確認(朝から晩までひたすら祈り続けるもので、慣れていない身にはこれが一番きつかった)を行った。
聖女としての資質なんて自分では測りようもないし、自分が他の候補に比べて純真無垢なイメージを欠いているのは明らかだったので、これはイアンさんをがっかりさせるのではと思ったけれど、後日届いた封筒はどう見ても通知一枚だけでない分厚さだった。
仕事の引き継ぎも無事に終わり、村人全員が参加しているのではと思うような壮行会と盛大な拍手に見送られたのが数週間前。あとは王都で正式に聖女として任命されるばかり。
……はっきり言って、あまりにも簡単だった。以前の公募制による選抜とは異なり、今はある程度候補を絞っているのだからスムーズに進むのも当然と言えば当然だけど、いくらなんでも。
(こんな簡単に決められた聖女が、聖騎士を率いていいのだろうか)
港まで迎えにきた馬車に揺られながら、ぼんやり考える。
聖騎士とは神に忠誠を捧げた騎士であり、王宮に仕えてはいるが所属は国教機関で武人というより聖職者に近い。生涯独身で、信仰と従順を誓願し、神の力によって超常的な力を発揮する。
実質肉体の清らかさ以外は求められない聖女とは違い、人生の全てが神と共にあるのだ。信仰心によって強化される銀の衿を首にはめ、王宮直属の騎士団長に喉笛を切り裂かれようとも傷を負わないものだけが、その栄誉ある立場に任命される。
特別信仰心が強いわけでない私ですら首を垂れる、神聖な守護者。そんな存在を影に日向に支えるのが書物目当ての不純な聖女というのも申し訳ない話だけど、退職の予定だけはないので寛容な心で許してほしい。
(それにしても、これが名作、ある吟遊詩人の回顧録で描かれた街……あの橋、もしかして雨と霧の王都で主人公が夜を明かした場所だろうか。信じられない、もうこの景色だけで聖女になって良かったと断言できる)
世界一美しいと称えられる王都。四百年に渡る繁栄を誇る都は輝くように華やかで、様々な建築様式が混在する歴史ある教会、広大な邸宅や店舗の立ち並ぶ賑やかな大通りに私はただ目を奪われた。子供の頃から書物や図画を見ては想像してきた世界が、とんでもない規模で広がっている。
街の東に位置する円形の広場の先には国教機関の総本山として名高い大聖堂が聳え立ち、その奥は王宮へと続く。数多の物語に登場する神々しい景色が近付いてきて、いよいよ抑えがたくなってきた興奮を表面に出さないよう懸命に拳を握りしめた……が。
「あ」
ちょうど馬車が広場の門をくぐった時、突然、物陰から小さな影が飛び出してきた。陽の光を柔らかく反射する金髪は、五歳前後の子供のものだ。赤く丸みを帯びたものが石畳に転がるのが見えたから、りんごでも拾おうとしたのだろうか。
うわっと声を上げた御者が咄嗟に手綱を引っ張り、馬車が大きく振動する。母親らしき婦人の甲高い悲鳴が広場を切り裂き、思わず扉へと手を掛けた私の視界を覆ったのは――翻る純白のマントだった。
聖女の任を引き受けてから今日に至るまで、振り返れば怒涛の日々だった。各種資料を用意し、両親に手紙を送って、北方で一番大きな街で教会による加護の確認(朝から晩までひたすら祈り続けるもので、慣れていない身にはこれが一番きつかった)を行った。
聖女としての資質なんて自分では測りようもないし、自分が他の候補に比べて純真無垢なイメージを欠いているのは明らかだったので、これはイアンさんをがっかりさせるのではと思ったけれど、後日届いた封筒はどう見ても通知一枚だけでない分厚さだった。
仕事の引き継ぎも無事に終わり、村人全員が参加しているのではと思うような壮行会と盛大な拍手に見送られたのが数週間前。あとは王都で正式に聖女として任命されるばかり。
……はっきり言って、あまりにも簡単だった。以前の公募制による選抜とは異なり、今はある程度候補を絞っているのだからスムーズに進むのも当然と言えば当然だけど、いくらなんでも。
(こんな簡単に決められた聖女が、聖騎士を率いていいのだろうか)
港まで迎えにきた馬車に揺られながら、ぼんやり考える。
聖騎士とは神に忠誠を捧げた騎士であり、王宮に仕えてはいるが所属は国教機関で武人というより聖職者に近い。生涯独身で、信仰と従順を誓願し、神の力によって超常的な力を発揮する。
実質肉体の清らかさ以外は求められない聖女とは違い、人生の全てが神と共にあるのだ。信仰心によって強化される銀の衿を首にはめ、王宮直属の騎士団長に喉笛を切り裂かれようとも傷を負わないものだけが、その栄誉ある立場に任命される。
特別信仰心が強いわけでない私ですら首を垂れる、神聖な守護者。そんな存在を影に日向に支えるのが書物目当ての不純な聖女というのも申し訳ない話だけど、退職の予定だけはないので寛容な心で許してほしい。
(それにしても、これが名作、ある吟遊詩人の回顧録で描かれた街……あの橋、もしかして雨と霧の王都で主人公が夜を明かした場所だろうか。信じられない、もうこの景色だけで聖女になって良かったと断言できる)
世界一美しいと称えられる王都。四百年に渡る繁栄を誇る都は輝くように華やかで、様々な建築様式が混在する歴史ある教会、広大な邸宅や店舗の立ち並ぶ賑やかな大通りに私はただ目を奪われた。子供の頃から書物や図画を見ては想像してきた世界が、とんでもない規模で広がっている。
街の東に位置する円形の広場の先には国教機関の総本山として名高い大聖堂が聳え立ち、その奥は王宮へと続く。数多の物語に登場する神々しい景色が近付いてきて、いよいよ抑えがたくなってきた興奮を表面に出さないよう懸命に拳を握りしめた……が。
「あ」
ちょうど馬車が広場の門をくぐった時、突然、物陰から小さな影が飛び出してきた。陽の光を柔らかく反射する金髪は、五歳前後の子供のものだ。赤く丸みを帯びたものが石畳に転がるのが見えたから、りんごでも拾おうとしたのだろうか。
うわっと声を上げた御者が咄嗟に手綱を引っ張り、馬車が大きく振動する。母親らしき婦人の甲高い悲鳴が広場を切り裂き、思わず扉へと手を掛けた私の視界を覆ったのは――翻る純白のマントだった。
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