優しい手に守られたい

水守真子

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番外編

番外編の番外編:幸せの形 中編 ※R18

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 亮一が夜に帰ってきたのはわかった。起きなくちゃ、と思いながらも、身体は重く目は開かなかった。ごめんなさい、と亮一の身体に身を寄せた。
 逞しい身体に抱き締められると、ほっとした。
 息子の修(おさむ)は元気がいい。優佳も元気は良いが、修は一瞬目を離した隙に走り出してしまい、その比ではない。毎日、疲れ果ててしまう。
 義父母は子供慣れしているのか扱いがとてもうまく、一緒に食事をすることになっている金曜日は息が抜ける。
 子供が産まれてからは朝子に頼ってばかりで申し訳ないと思っているのだが、本人は生き甲斐を得たとばかりに元気いっぱいだ。

『孫には責任が無くて良いわ』

 そんな事を口で言いながらも行儀に関しては厳しく言ってくれて、義父も過度な我儘は決して許さない。
 それでも優佳と修はおじいちゃんとおばあちゃんが大好きだ。認められて愛されているのをわかっているのだと思う。
 元気の塊の彼らが一番、言う事を聞くのは父親である亮一だった。優佳はお父さんが大好きで、修はいつもしきりに倒そうとしている。だが、不在が多い。
 仕事に邁進する亮一の後姿を見送っていると、仕事を辞めた事に後悔がないと言えば嘘になる。子供か仕事か、そんな選択をしなくてはいけないような自分の身体を恨んだこともある。
 だが、切迫流産の時、つわりも相まって食べることもできずただ寝ていた時、ふと目を覚ますと横に亮一が座っていて、悲愴な面持ちの中、何の変化も見逃すまいと異様に光った目で可南子を見ていたことが何度もあった。
 あの時だった、仕事を辞めようと思ったのは。亮一を守らないといけないと思った。離さない、と亮一が常に口にしている言葉は、可南子が感じている以上に深いのだと知った。

「んっ」

 背骨をじわじわと昇ってくる気持ちよさに可南子は目を覚ます。
 まだ薄暗い部屋の中、何が起こっているのかはすぐにわかった。胸もとに押しやられた肌掛けの後ろに見える自分の白く浮き上がる足。

「りょ、いちさん」

 両脚の間にいる亮一は返事をする代わりに、蜜唇の上端にあるまだ顔を出し切らない芽を舌の先端で転がした。喉から声を出して、可南子は背を仰け反らせる。
 じわじわと蜜が染み出し、それを亮一が丁寧にあわいに塗り広げる。神経がそこに集中してじんじんと熱を持ち、十日ぶりの悦を懸命に抑える声は艶を増して口から漏れだした。

「ふ、普通に、起こして、くれれば……あっ」

 花芽を掃くように舐められ強弱をつけられる。可南子の顔は火照り、うずく媚肉は直接的な刺激を誘うように蜜唇を赤く色づけ始めた。
 恥ずかしいし、止めて欲しい気持ちはいつもある。けれど、行為が与えてくれる気持ちよさを、可南子は拒絶する事はもうできない。
 可南子は凝縮し始めた悦を解放したくて腰をくねらせ、亮一は美しく色づき膨らみ立ち上がった花芽を唇で弾きながら、中指を焦らすようにゆっくりと泥濘に埋めた。
 白い喉を逸らし、可南子は肌掛けを強く掴む。
 ひくひくと身体を震わせると、亮一はやっと口を開く。

「キスしても起きなかったから、こっちにした」

 どうしてそうなるの、という言葉は、喘ぎに変わる。
 悪びれていない亮一は、可南子の敏感でざらつく部分を手で擦り始め、蜜で濡れそぼった場所から、ぐちぐちという音が耳に届く。

「あ、ん」

 指を増やされ出し入れが早くなり、可南子は押し上げられるように快楽の階段を駆け上がる。肌掛けを掴み、解放される、と思った所で亮一の指が止まった。
 抜かれた指に唖然として、可南子はいつの間にか固く瞑っていた目を開ける。隘路がひくひくと蠢いて、身体がつらい。
 可南子の脚の間から上体を起こした亮一は可南子の悦に火照った顔を愛し気に見つめて、口を開いた。

「ただいま」
「……おかえりなさい」

 薄暗い部屋の中で亮一は寝間着を脱ぎ始めた。
 亮一の鍛え続けている身体は出会った頃とさほど変わりない。むしろ歳を重ねると体力維持の為だと、以前よりも鍛えることに余念がない。
 同じ年代の男性がふっくらとしていく中、亮一は明らかに異彩を放っている。
 自分がすっかり服を脱ぐと、亮一は可南子の横に肘を立て枕代わりにして横たわった。可南子の着ている寝間着のボタンを片手で外し始める。

「変わったことは無かったか」
「……皆、元気だよ」
「可南子は、何かないか」

 亮一の静かな声に首を傾げている間に、ボタンが全て外される。下着をつけていない、白磁色の双つの乳房にある紅色の乳首の片方を、亮一は人差し指と中指の間で挟んだ。
 切なさが下腹にあっという間に到達して、達せなかった疼きを紛らわせるように、可南子は太腿を擦り合わせる。

「寂しかったくらいで、家は平和だったよ」

 亮一は自分しか見ていない。それはもうわかっているが、会えなくて寂しいのは、長く一緒にいても変わらない。
 本当なら一緒に住みたい。
 だが、ただでさえ激務なのに、深夜の十二時前に帰宅して朝六時には家を出る生活を続けていれば、亮一はいつか絶対に身体を壊す。
 亮一は息子に亡くなった祖父の『修』という名前を付けた。それほど思い入れのある祖父から相続したマンションを貸し出そうとしていたのを可南子は止めた。
 身体を壊すくらいなら、離れて暮らした方が良い。
 理性が最善とした方法を、感情は寂しく思っている。

「寂しいけど、」

 突然、亮一に強く抱きしめられて息苦しく、可南子の口からうっと絞り出されたような声が出た。
 そのまま亮一の身体の上に乗せられると、避妊具をつけた猛りが蜜口に充てられる。亮一は自身の根元を持ち、蜜に滑る唇を押し開きその先端をつぷり、と埋めた。
 
「ん」

 快楽の種火はあっという間に大きく広がった。亮一の大きな手が可南子の背中を背骨に沿うように撫でている。可南子は言われるまでも無く身を落として、亮一の剛直を蜜壺の奥へと収めていく。
 すべてを難なく呑み込むと奥の方がきゅっと締まったのがわかった。
 疼きは震えとなって、吐息になり口から漏れた。

「締まったな」
「……言わない、で」
「かな、上で動いてくれ。顔が見たい」

 さっき達せなかった悦はうずうずと渦巻いて解放される時を待っている。
 可南子が身体を起こすと、燃えるような欲情を宿した亮一の目が合った。
 亮一の手が可南子の決して大きくはない乳房に手を伸ばして愛し気に捏ねる。
 蜜路を満たされた身体が再び火照り始め、可南子は力の入った奥の方を感じて、こくりと喉を鳴らした。

「相変わらず、綺麗だな」
「亮一さんが、ずっと、そう言って、くれるからだと思う」
「謙虚だな」

 亮一は可南子の腰骨を掴むと腰を下からずん、と突き上げた。
 思いもよらぬ烈しい動きに、可南子の口から大きな声が漏れる。

「こ、ども、こどもが、は、早起きで」
「大丈夫だ。鍵は閉めてる」
「でも」
「気持ち良いように動いてくれ」

 亮一は下から支えるように可南子の両手に指を絡ませた。そして、促すように小さく腰を突き上げてくる。
 可南子はぎこちなく動き始めた。亮一の腰の脇についた膝を立てて、ゆっくりと上下に動かす。結合部分から蜜に濡れた猛りが現れ、また泥濘に埋められていく。
 その様子を亮一は切なげに見つめて、奥歯を噛みしめていた。
 密度を増す愉楽は陽炎のように揺らいでいる。燃えてながら螺旋を描いて身体の中に凝縮する。
 息を乱しながらちくちくと水音を立て動くが、いっこうに達することができず、可南子がその動きを緩めると亮一が上体を起こした。
 逞しく揺るがない身体がそばにきて、亮一の高い体温が可南子の冷たい肌をなぞる。

「こっちの方が好きだったな」

 そういうことは言わないで、と睨むと、亮一が唇が可南子の唇を覆った。咥内に入り込んだ舌で上顎を撫でられると奥の方が切なげに締まる。
 亮一の手が可南子の髪を梳いて後頭部を抑え込まれると腰は勝手に動き出した。

「ふっ、んっ」

 たっぷりと潤った蜜口は剛直を咥えこみ、打ち付ける水音は激しくなった。身体の中に編み込まれた安心感は、脈を速くして絶頂へと押し上げていく。
 舌を絡ませながら、亮一の手で乳嘴を指で抓られると、可南子の頭の中も目の前も真っ白になった。
 心臓がバクバクと打って、体中で収縮を繰り返すような激しい余韻に、可南子は瞬きも忘れる。
 やっと得られた絶頂に意図せず微かに笑みを浮かべて、息も絶え絶えに亮一に上体を預けた。
 蜜路はまだ硬さを失っていない猛りを断続的に締め付けている。亮一はまだ達していない。

「ごめ……」
「謝るなよ。気持ち良かったならそれでいい」
「あの、亮一さんは……」
「今はいい」

 今は、とはどういう事だろう。
 まだ薄暗いととはいえ朝なのに、歯が痺れるほどの快感のせいで睡魔が襲ってくる。

「奥さんの寝顔を見れるのは、夫の特権って知ってたか」
「急に、なに」

 くすりと笑いながら、うとうとと瞼を落とす。
 愛されている実感は真綿に包まっているようで、心地よさに顔がほころぶ。
 手を伸ばせばそこにいる。
 可南子は手を伸ばして、亮一の頬に指を沿わせた。ザラザラとした髭の感触に存在を感じる。

 ……安心する。

「……おかえりなさい」
「ただいま」

 額に口づけを受けて、髪や身体を撫でられながら、可南子は眠りに落ちていく。
 大好きな人に愛される幸運に感謝したところで、可南子の意識は途切れた。
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